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黄金の蛟龍との決着へ

 「ッ!“金蛟・万命両断”ッ!!!」


 先に動いたのは白姫だった。先ほどと同出力の解技が発動し、陰陽の力の籠った斬撃が双魔目掛けて飛来する。しかし、先手を取ったはずの白姫の顔には明らかな動揺が浮かんでいた。


 (先ほどのはまぐれに違いありません!そうでなくては説明がつかない!)


 その理由はティルフィングとレーヴァテインに“金蛟・万命両断”を完全に防がれた光景が目に焼きついているからだった。そして、「まぐれ」ではない、その答えを白姫は目にすることとなる。


 「ティルフィング、レーヴァテイン。頼むぞ」

 『うむっ!』『ええっ!』


 双魔はティルフィングとレーヴァテインをそれぞれ水平に構えると、下半身に力を籠めるのみで、大きな動きは見せずに迫り来る“金蛟・万命両断”を迎え撃つ。


 双魔と凶刃の距離が縮んでいく。二メートル、一メートル、ゼロ距離。その瞬間だった。


 「シッ!」


 ギィイン!パキッ!ボワァッ!


 短く息を吐いた双魔はティルフィングとレーヴァテインを同時に振った。すると、“金蛟・万命両断”は紅の輝きと蒼炎に切り裂かれ、空気を凍てつかせる音と焦げつかせる音を立てて余波で大地を抉ることももなく消え去った。


 「ッ…………」

 『フッ!フフッ!クハハハハハハハハハハハハハハッ!何だそれは!伏見双魔!貴様!器用がすぎるぞ!』


 大技への驚きの対処法を見せつけられた白姫は絶句。金蛟剪は己の一撃を正面から打ち破られた仕組みを理解したのか、至極愉快といった哄笑を上げて喜んでいる。


 「フゥーー!」


 双魔はやや深く息を吐いた。集中は切らしていないが、僅かに安堵した。金蛟剪の陰陽を分かつ権能。双魔たちが取った対処は陽の力にティルフィングの剣気を、陰の力にレーヴァテインの力を。それぞれ混じらせることなく正面からぶつけることだった。先に二人がやって見せてくれたおかげで、方法の確信は得ていたが自分でできるかといえば少しだけ自信がなかった。無事成功したのは、ティルフィングと自分には初めて振るわれるにもかかわらず、上手く合わせてくれたレーヴァテインのお陰だ。


 「二人とも、翻弄しながら攻める。頼むな」

 『任せておけっ!』

 『頼むとおっしゃられても……まあ、合わせはいたしますけれど』


 ティルフィングからはいつもの元気な返事が、レーヴァテインからは少し不満げというか困惑気味に返事をしてくれる。双魔はそれを聞いて口元に笑みを浮かべると、自らの魔力を活性化させ、身体中に漲らせる。足元には魔法円が広がる。


 『ほう?』

 「“転移(イェンタクル)”ッ!!」



 金蛟剪は双魔の動きに気づいて感心するような声を出したが、それとほぼ同時に双魔はその姿を消した。

 「なっ!?」


 突如消えた双魔に動揺する白姫が声を上げる。が、その時、双魔は既に背後に転移を終えている。音もなく姿を現した双魔は、そのままティルフィングとレーヴァテインを躊躇いなく振り下ろす。金蛟剪の剣気と妙な力に守られている故、白姫を深く傷つけることもないはずだ。


 ギィィィィィンッッ!!!


 「ッ!!??」


 完全に不意を突いた二振りの魔剣による斬撃。少々呆気ないという思いを僅かに抱きながらの二撃。これで勝敗は決したと思ったのは、刹那。双魔の耳を叩いたのはティルフィングとレーヴァテインが止められた甲高い音。そして、遅れて腕に衝撃が伝わってくる。咄嗟にその衝撃を利用して距離を取った。痺れを感じながら白姫を見る。すると目に映ったのは……。


 「…………」


 完全に感情を失い、意思の無い幽鬼のように空中に佇む白姫の姿だった。しかし、瞬時に雰囲気が変わる。瞳は黄金に輝き、顔には尊大な笑みが浮かぶ。両手で握った金蛟剪が先ほどよりも強い輝きを放っている。その様子を双魔は既に目にしていた。故に呼び掛ける。


 「ここからはアンタが相手ってことか?……金蛟剪!」


 『クハハハハ!物分かりがいいな!伏見双魔!是だ!()()()()()()()には大分近づいた!ここからは一気に進める!協力してもらうぞ!伏見双魔と二振りの魔剣ども!』


 返答はまさに金蛟剪の言葉だった。覇王弓が項雛姫の身体を乗っ取ったのと同じようにしたのだろう。双魔の奇襲を防ぎ切ったのも、金蛟剪が身体を操っていたのであれば納得のいく動きだ。と、同時に金蛟剪の発した言葉には気になる点があった。


 (我が目的?金蛟剪は救世主……洪汎仁とは違うも目的があるのか?)


 『ソーマッ!!』

 『来ますわッ!!!』

 「ッ!?」


 ギィィィィィン!ガギィィンッ!!ジャキンッ!


 ティルフィングとレーヴァテインの警告に双魔の身体は反射的に動いた。金蛟剪は瞬時に距離を詰めると、刃を大きく広げて双魔に襲い掛かってきたのだ。その動きはあまりにも滑らかで、素早かった。双魔はティルフィングとレーヴァテインで一瞬だけ、金蛟剪の両刃を受けると剣気を放出。その勢いで後方に回避する。

金蛟剪の形状は鋏だ。力の伝わり方は強力。双魔の判断は的確だった。金蛟剪の両刃は音を立てて空を切ったが、受け切ろうとしていれば、今頃双魔の体は真っ二つだっただろう。


 『……直接切り結ぶのは消費が少ないか……であれば、量に限る!伏見双魔!魔剣ども!しっかり捌き切れよ!』


 ジャキンッ!!


金蛟剪は白姫の手で自分の両の刃、蛟龍の顎を限りなく百八十度近くまで開くと、膨大な剣気を纏わせたまま、刃を咬み合わせた。鋭い音とともに、空を埋め尽くさんばかりの金色の斬撃が生み出され、それが双魔たちを四方八方に取り囲んだ。白姫が発動していたものよりも、より鋭く洗練された刃が双魔の命を滅せんと狙いを定めている。


 『これは……流石に不味いのではありません?』

 『ソーマなら問題ない!我とレーヴァテインもついているしな!』

 『お!お姉様……そこまで私の事をお認めに……双魔さん!早く何とかしてください!お姉様がこうおっしゃっているんですから!!』

 「…………ん、何とか……するしかないからな」

 『双魔。双魔なら大丈夫だぞ!』

 「……ん、そうだな」


 双魔は片目を瞑って、捲し立ててきたレーヴァテインに応える。その表情は苦々しいものだ。今まで大きな一撃防いできたが、数で押されたことはあまりない。自信が足りない。その思いは手に握る二振りにも伝わる。それを感じたティルフィングが、もう一度優しく声を掛けてくれた。それで、双魔の腹も決まった。


 「応えよ。我が魂魄よ、心の臓よ。我が身は転じず。されど神の力はここにあり……古の力、女神の息吹。解放の時は来た!!」

 『“億魂散滅”ッ!!!』


 双魔と金蛟剪の声が重なった。億の刃が双魔とティルフィング、レーヴァテインに狙いを定め、一斉に射出された。




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