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蜀王出陣

 敵幹部、五王姫四人の宣戦布告の方を聞いた蜀王劉具白徳は成都城正門の楼へと繋がる通路を足早に歩いていた。


 短い時間だが、臣と協力を承諾してくれた客人たちとの軍議は済んでいる。


 その後ろには舎妹の関桃玉朱雲、張翔翼桓。家臣の趙雨子虎。さらに、伏見双魔、アッシュ=オーエンが続く。そして、言わずもがな全員の契約遺物も同行している。


 現在の成都城における最高戦力が結集していた。城仕えの遺物使いや魔術師は他にもいるが、全員城内の警備と民たちの保護に向かわせた。余計な犠牲を出さないための白徳の英断だった。


 「敵は既に陣形を整えているようです……五王姫、朱雲と伏見が討伐した北王姫、項雛姫と覇王弓を除く四人の敵幹部が城門前に、物見の報告によれば、後方に数十万の一般兵士が控えている模様……陣形とは言いましたが、この布陣は陣形とは言うのは難しいですね」


 物見の報告を踏まえた子虎は少し言葉を逃がした。俯瞰すれば四人の遺物使いが城の前。その他、普通の大軍が後方待機。取れる作戦は遺物使いによる強行突破と、城内支配のために配備した普通の人間。これを陣形や作戦と言ってしまうのは、敵を持ち上げすぎだろう。


 「そう。気に入らないね」


 子虎の報告を聞いた白徳は呆れることはしなかったが、短くはっきりと不快感を表した。朱雲が翼桓が、子虎が主の反応に眉を動かす。温厚で鷹揚。そんな白徳にしてはかなり珍しかったからだ。


 「四人で間違いないんだね?」

 「はっ」

 「こっちは頭の私が出るって予想してたら、向こうも頭が出てくるのが筋……連中舐めてるね?一言言ってやらないと気が済まない」

 「白徳様……無暗に刺激するのは……」

 「子虎」

 「翼桓殿?」


 主を諫めようとする子虎の肩を大きな翼桓の手が叩いた。視線を向ければ、翼桓は首を横に振っていた。


 「ここは姉上に任せるのが最適だわ。上手く相手を俺たちに有利な条件に引き込んでくれるはずよ。それよりも、私は残してきたあの子たちが心配。子虎は戻って守ってあげなさい」


 「残してきたあの子たち」とは、まだ眠り続けているイサベルと婦長から回復していないロザリン。それにゲイボルグと二人の介抱をする鏡華とレーヴァテインだ。彼女たちは双魔に譲渡するはずだった扶桑樹の種や、蜀王の玉璽、その他先祖から代々受け継がれている宝物と共に、この城内でもっとも堅固な防御機能の備わった白徳のプライベートルームに入ってもらっている。


 が、もう一人、精強な遺物使いが直接警備に当たった方がいいという事実もある。


 「しかし……」

 「子虎、俺は上官よ?それに、俺の勘が信じられないって言うのかしら?」

 「確かに、翼桓殿の勘は一級品……承知した。白徳様」


 子虎は僅かに逡巡を見せたが、翼桓の考えが正しいと判断して主に許しを乞うた。


 「いいよ、行ってあげて」


 主の許可が下りた子虎は立ち止まって一礼すると、踵を返す。双魔と子虎の目が合った。


 「……悪いな」

 「それはこちらの台詞だ。白徳様を……俺の故郷を頼む」


 子虎は力強く、双魔の肩に手を置くと、槍へと姿を変えた涯角槍の紅色の飾り房を靡かせて颯爽と駆けていった。


 「今、子虎も言ったけど、ごめんね。巻き込んじゃって」

 「乗り掛かった舟にはしっかり乗る主義だ。気にしないでくれ」

 「ふふふ、君はいい男だね。朱雲ちゃんをよろしく頼むよ」

 「……?ああ……」

 「姉上?それはどのような……」

 「おっと、もう楼に登るからね。話はまた後で、最初は私一人でやるから、闘いになったら頼むよ?」


 双魔との会話で突然自分の名前を出されて不思議そうな朱雲の問いかけを、白徳は遮った。確かに、目の前には上へと繋がる長い階段が現れた。ここは城壁に沿って作られた地下通路だ。つまり、五王姫とその契約遺物たちはすぐそこにいる。少し感覚を澄ませるだけで、大きな力が四つ感じられた。


 「さ、行こうか。上帝天国だか、何だか知らないけれど……呉王は失政はしていなかった。平和でいい国だった。勝手に国主を追い出して、国を乗っ取るような輩が私の国に、民に手を出しているのは承服できないからね……ここで引導を渡してあげるしかないよ」


 白徳は階段に足を掛ける。この四半刻後、蜀連合対上帝天国の闘いの幕が切って落とされる。



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