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樹木の結界

 怪物と対峙した瞬間。双魔はすぐに動いた。


 「ティルフィング!一度、人間態に戻れ!」

 (む?よいのか?)

 「俺はもう、まともに動けない。俺をアレから離れたところまで連れて行ってくれ」

 (うむ、わかった!)


 淡い紅色の光に包まれた魔剣は少女へと姿を変える。ティルフィングは双魔を背負うと巨怪と距離を取るべく走り出した。


 「よし、ここでいい。下ろしてくれ」

 「うむ。ところでソーマ……あやつはどうしたのだ?あれもフルンティングとやらの能力か?」

 「いや、あれはおそらく……反魂香の作用だ」

 「はんごんこう?」

 「ああ、この前剣兎が話してたやつだ」

 「…………むう、そんな話を聞いたような、聞いていないような」


 ティルフィングはどうやら覚えていないらしい。


 「ん……まあ、いい。今の状況じゃ選挙どころじゃない」

 「そうなのか?」


 ティルフィングは可愛く首を傾げるが、双魔の表情は険しい。


 「ベーオウルフが反魂香を使ったと言うことは…………目の前にいるのは神代の残り香とも言うべき化け物……その名はグレンデル」


 グレンデルとはデンマークの英雄王ベーオウルフによって屠られた人喰いの巨人である。その姿はドラゴンとも言い伝えられる。


 彼の怪物の特筆すべき点は二点。一つ目は「厄介で強力な毒を持つ」点である。先ほどから猛威を振るい。幾人もの候補者を脱落させたそれだ。


 そして二つ目は「カインの末裔である」という点だ。”カイン”とは旧約聖書において「最初に人を殺めた人」である。この因果からグレンデルは「人間を殺す」という行為に異常な執着を持ち、人を殺すという能力に特化していると推測されてきた。


 「今やるべきはアレを俺たちに惹きつけておくか、ここに封じ込めているかの二択だ」

 「うむ、それでは我がやつの気を惹いて、ソーマが封じ込めるのだな」


 ティルフィングの言葉に双魔は頷いた。グレンデルに目をやると品定めをするように観客席を見回している。


 「よし、ティルフィング行ってくれ!」


 双魔は身を守るために紅の剣気を十分に纏うとティルフィングに合図を出した。


 「うむ!」


 全身に紅の剣気を纏ったティルフィングがグレンデルに向かって突進していく。


 「…………!」


 ティルフィングの気配に気づいたグレンデルは右手を前に出す。


 「フッ!」

 「……ッ!」


 ガキィィィィィイイン!


 ティルフィングの黒髪とグレンデルの巨大化した爪がぶつかり合い凄まじい音が鳴る。両者の力は拮抗し一歩も譲ることはない。


 「ギャハハハハハハハハ!」


 それまで無言だったグレンデルが突然声を上げて笑い始めた。


 「む、貴様しゃべれたのか?」

 「ギャハハハ!アタリマエダ!ナンダカヨクワカラネーガオレサマハヨミガエッタヨウダナ!」

 「うむ、どうやらそうらしいぞ」


 両者は僅かに身体を離すと今度は激しく打ち合い始める。


 ティルフィングは硬質化させた黒髪を縦横無尽に叩き込む。一方グレンデルは右手の巨爪を主に左手の爪も使ってティルフィングの攻撃を弾いていく。


 「テメェヲブッコロシテサッサトニンゲンドモヲコロシテヤル!カンガエタダケデワライガトマラネェゼ!」

 「ソーマがそれを防ぐと言っていたからそれは無理だな」

 「ナニ?」


 グレンデルは自分と打ち合っているチビの後ろの人間を見る。既にボロボロで貧相な人間に何かできるとも思わない。


 「ギャハハハハ!オモシレエ!ヤレルモンナラヤッテミヤガレ!」


 チビを挑発するが何を言うわけでもなくニッと笑って見せた。それが気に喰わず、さらに苛烈に爪と拳を繰り出すがチビも負けずに攻撃を繰り出してくるだけで一進一退と言ったところだ。


 双魔はティルフィングとグレンデルの攻防が目の前で金属音と大量の火花を散らせているのを見ながら、地面に右手を置いた。


 「配置セット


 一言発すると舞台を囲うように幾つもの緑の魔法円が浮かび上がる。


 「妨げ、防ぎ、封じ込める堅木よ”樫樹壁オークウォールサークル”!」


 魔法円から巨木が出現し舞台を闘技場から隔絶させる壁を形成する。一本一本の高さは優に二十メートルを超え、上部では枝葉が生い茂り、樹木による結界が完成する。


 (ティルフィング、一度戻ってこい)

 (うむ、わかった)

 「おい、グレンデルとやら」

 「オ?ナンダチビ、テメェオレヲシッテタノカ」

 「うむ、貴様をとじこめたので一度ソーマのところへ戻らせてもらうぞ」

 「ギャハ!サセルカヨォ!」


 グレンデルは拳を収めて両手でティルフィングを捕まえようとした、がティルフィングは握られる寸前でするりと巨大な手の中から抜け出して双魔の許へと一気に跳躍した。


 「ソーマ!戻ったぞ!」

 「ん、じゃあ、しばらく待機だ。俺の傍にいてくれ」

 「うむ、わかった!しかし……あやつはどうするのだ?」

 「外から何かしら反応があるはずだ。観客席の生徒を避難させればこの結界は解いてもいい。それまでアレを閉じ込めているのが俺たちの役割だ」

 「そうなのか……わかった」


 ティルフィングはグレンデルから目を離すことなく警戒したまま双魔の指示に頷いた。



 こんばんは!毎日投稿時間が遅くなっていってる気がしますが今日も何とか投稿できました!

 今回は記念すべき50話ということで、いつもお礼は申し上げていますが、より一層の感謝を。本当にありがとうございます!!

 復活したグレンデルと双魔たちの攻防をお楽しみいただければ幸いです!

 いつも通り評価、感想、レビュー等々お待ちしていますので気が向いたらお願いいたします!

 それでは、良い夜を!

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