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天炎からの解放

 感想をいただきました!とっても嬉しいです!ありがとうございます!

 意識が、身体を失った魂のように浮遊している感じがした。視界には見覚えのない、神々しい、まるで手を合わせて祈ってしまいたくなるような銀髪の乙女が映っていた。


 何が起きているか分からない。自分がなくなってしまいそう。


 デュランダル!デュランダルッ!?


 頼りになる契約遺物の名を呼んでみる。でも、彼はの姿は見えない。聞き慣れた高笑いも聞こえない。


 不安で、不安で堪らない。主よ、愚かな私をお助け下さい……。


 神に乞い願う。そして、私の意識は何処かへ行ってしまった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「アア……アアアアアァーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 フォルセティの姿に転身した双魔を明確な敵と判断したアンジェリカはその巨大な翼を振るって猛威を振るい始めた。


 ゴオォォォォォォォーーーーーーー!!!


 三対の翼の内、上下の二対が大きく動き、音を立てながら灼熱を闘技場内全体に撒き散らす。触れれば即座に身体が燃え尽きてしまいそうな熱には迂闊に手を出すことができない。


 「っ!?グングニルの剣気が……」


 さらに事態は悪化する。弱まっていたアイギスとカラドボルグの剣気を補っていたグングニルの結界が揺らぎ始めたのだ。このままでは炎が闘技場内から漏れ出てしまう。そうなれば一巻の終わりだ。


 「キャー――――――!」

 「レーヴァテインかっ!?」


 しかし、悪い事態は幾重にも重なるものだ。今度は観客席の一角でレーヴァテインが悲鳴を上げるのが双魔の耳に届いた。見ると炎の翼の一枚から放たれた直系十メートルはあろう火球がレーヴァテインに迫っていた。さらによく見ると、逃げ遅れたのだろうか。レーヴァテインは一人の小さな男の子を庇うように蹲っている。どうにかしようと蒼炎の剣気で壁を作っているが防ぎきるのは無理だろう。


 「……お姉様っ!」


 命の危機に自らの存在の底から慕うティルフィングの名を呼ぶ。すると、身体を冷気が包んだ。安心する心地よい冷気。恐怖に閉じていた瞼を開くと、ティルフィングの剣気がレーヴァテインを覆っていた。双魔が残っていた“紅氷の霧”を全てレーヴァテインたちを守るために一カ所に集中させたのだ。


 さらに深碧色の疾風が火球とレーヴァテインの間に割って入った。軽装の鎧に金の兜、頭と臀部には可愛らしく大きな犬耳と尻尾。真装”我が名(クーフーリン)はクランの(・エ・モ・)猛犬(アインム)”を発動したロザリンがそこにいた。


 「”(ウルティムス)斬断柳刃(ゲイ・ラーミナ)の槍(・ウィロウ)”!」


 ゲイボルグの穂先から放出されるブレード状の剣気が火球を両断、一瞬にして霧散させた。


 「……あ、ありがとうございます……」

 「うんうん」

 『おい、レーヴァテイン!その坊主をさっさと安全な所へ!』

 「は、はい!」


 呆然とするレーヴァテインはゲイボルグの声で我に返ると男の子を抱き上げて出口まで走った。

 

 「おい!キュクレイン!」


 そこにハシーシュが跳んできた。安綱を鞘から抜いていつでも戦闘に移れるように準備している。


 「ハシーシュ先生。今の子で最後。もう、普通の人はいない」

 「そいつはよかった!あとは……」

 「うん。後輩君があれをやっつけてくれれば終わり」


 二人の視線の先では炎の巨翼の攻撃を躱しながらアンジェリカと対峙する双魔の姿があった。翼は大きさからか大ぶりな攻撃しかできておらず、攻撃は当たらないが、代わりに双魔もアンジェリカ本体に近づけていないようだった。このままでは決着が長引く。


 「……ハシーシュ先生」

 「わぁってるよっ!!!」


 ロザリンとハシーシュはそう判断し、すぐさま動き出した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 「くっ……翼が邪魔で懐に入れないっ!……どうする!?」


 双魔は苦々しく炎の翼の猛攻を躱しきっていた。ダメージは負っていないがこのままでは埒が明かない。気持ちだけが逸る。その時だった。


 「”魔王の封邪眼(バロール・オクルス)”」


 ロザリンの声が聞こえた。そちらを見るとロザリンは左眼を漆黒に輝かせ、異様な神気をアンジェリカへと放っていた。


 「ア………ア……アア…………」


 ロザリンの“神器(アーク)”である魔王バロールの力がアンジェリカの身体を硬直させていた。翼の動きも油の切れた機械のようにぎこちなくなっている。アンジェリカが何者かに意識を乗っ取られてから初めて、明確な隙が出来た。さらに……。


 「ア?ア……アア……」


 アンジェリカが何かを嘆くような声を出した瞬間、微かに蠢いていた三対の翼の内、右方の三枚は全て、そして左の上の一枚が切り落とされた。


 「童子切一閃・鬼ノ頸刈リ」


 落ちていく翼の向こうにはハシーシュの姿が見えた。ロザリンの拘束とハシーシュの斬撃でアンジェリカの本体はガラ空きとなる。


 「ロザリンさん!小母さん!礼は後で言わせてもらう!行くぞ!」

 「ア……ア…………アア…………」


 宣戦布告して突っ込んでくる双魔に対してアンジェリカは忌々し気に呻くだけで全く抵抗できない。やがて、双魔はアンジェリカの目の前に到達する。


 「何者か知らんがっ!……此処にあるべきでない者は疾く去れ!“真実の剣(ヴァール)”ッ!!!」


 双魔はアンジェリカの手に握られたデュランダルにティルフィングの白銀の一閃を叩き込んだ。


 ガキィィィィィィーーーーーンッ!!


 数瞬、アンジェリカに憑いている何者かの抵抗があったのか、力は拮抗したが、デュランダルはアンジェリカの手から離れ、数回回転して舞台の上に黄金の柄を残して剣身全て突き刺さった。


 「ア……アアアアアァーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 断末魔と共に炎の翼はアンジェリカの背から剝がれ、浮力を失ったアンジェリカの身体が頭を下にして真っ逆さまに落下し始めた。


 「危ないっ!」


 双魔はアンジェリカを抱きかかえると静かに舞台へと着地した。女神の姿から元の姿へ戻り力尽きてもう一度その場でへたり込む。ティルフィングも少女の姿に戻った。


 「…………ん……」


 双魔の腕の中でアンジェリカが微かに身動ぎした。如何やら無事のようだ。


 (……終わった…………)


 双魔は心の中で一息ついた。そして、闘技場内に残っているほとんどの者が同じように、闘いは終わったと、そう思っていた……。



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― 新着の感想 ―
[一言] 次に暴走の正体が分かるのかな? 神気を持ってないのは確実で 遺物の面々の反応的にケルト、北欧、ギリシャには関係無さそう。 3対6枚の羽を持って炎って言ったらウリエルとかが連想されるけど暴走…
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