決闘開始
500話まであと3話!!
「な、なんかとんでもないことになってないッスか!?」
「いやはやー、伏見殿が“英雄”と決闘とはー」
「呑気に言ってる場合じゃないわ!もし、伏見くんに何かあったらベルはどうなるのよ!?」
「そ、そうッスよね……お嬢は悲しむッス……」
「お二人ともー、不謹慎でありますよー。我らは伏見殿の無事を、延いては勝利を祈るべきではー?」
「「っ!!」」
放送室から部隊を見下ろしてわちゃわちゃ話していた三人の会話は愛元がいつもと変わらない呑気な声で言った真のある言葉で止まった。
「そっ、そうっスよね!伏見先生はスゴイ人ッス!きっと……」
「そうね……信じましょう。きっとベルや六道さんたちもそうしているはず……伏見くんが勝つ、って」
三人それぞれが事態への向き合い方を確かめた時だった。舞台上の学園長がこちらに視線を送って頷いた。先ほどの同じ場を進めろという合図だ。
「それじゃあ、伏見先生が勝つのを信じて、アタシたちはお仕事っス!」
アメリアは切っていたマイクのスイッチをオンにした。
「なんとなんとーーーー!またまた衝撃の展開ッス!今度は“滅魔の修道女”と“聖絶剣”がブリタニア王立魔導学園の学生の挑戦を受け入れたッスーー!!挑戦者の名は伏見双魔さんとその契約遺物ティルフィングさん!!遺物科現副議長を務める学園きっての実力者だぁぁーーーー!!!」
学園きっての盛り上げ上手、魔術科三年アメリア=ギオーネと観客たちの歓声が闘技場内に響き渡った。
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「……学園きっての実力者って…………」
「む?ソーマはロザリンの次に強いのだろう?何も間違ってないぞ?」
立ち位置でアメリアの声を聞いた双魔の小言を聞き取ったティルフィングが不思議そうに首を傾げた。
「いや、そんなに単純なことじゃないんだが……ん、まあ、いいか。取り敢えず、最初から全力で行くのは決まりだ。ティルフィング頼む」
「うむ!」
「そちらの準備は出来たかしら?」
ティルフィングの始めにどうするかを話しているとアンジェリカが声を掛けてきた。向こうはもう準備万端のようだ。デュランダルは初めにあった時と同じような不遜な笑みを浮かべ、腕を組んで仁王立ちしていた。
「ああ、問題ない……胸を借りるつもりでやらせてもらう」
「そう。お願いだから死なないで。不名誉な負け方はしたくないから。私も、デュランダルも……」
「フハハハハハッ!くれぐれも全力を出せよ?シスター・アンジェリカ!」
「ええ……主よその御力の顕現はここに。数多の聖人の加護はこの手に。契約に従い汝我が剣とならんことを……真なる姿を我が眼に映せ……“デュランダル”ッ!!」
アンジェリカが両手を組み祈りを捧げるように聖呪を唱える。華奢な背中が輝きを帯び、それに呼応してデュランダルの身体も光り輝いた。舞台上が聖なる光で満たされ、アンジェリカの手に黄金の柄に白銀の刃煌めく長大な両手剣が姿を現した。それは双魔の目にも焼きつき今後忘れることはないであろ真の聖剣であった。
「……アーメン」
アンジェリカは神への祈りを口にし、デュランダルを手に取ると両手で握り、切っ先を双魔とティルフィングに向けた。
「ティルフィング、いいな」
「うむ!」
「汝は失われし女神の願い、希みの結晶……断ち分かたれし盟約は今ここに甦る……永遠を此処に誓おう……真なる姿を我が手に……汝が名は“ティルフィング”ッ!!」
普段の双魔の少し気の抜けたような声とは違う力強い聖呪の詠唱。聖呪印の刻まれた右手が紅の光を帯び、ティルフィングの身体が紅と白銀の輝きに包まれる。
二色の輝きはやがて双魔の右手に収束する。切っ先が鮮血の如き紅に染まった美しき白銀の刃。奇しくもその柄はデュランダルと同じく黄金であった。
双魔は黄金の柄を普段ティルフィングを抱き留めるように優しく両手で握り、切っ先をアンジェリカに向けた。
神々しき二振りの剣の出現に闘技場内の全ての声が静寂に奪われた。
古来、英雄は対峙するものだ。その相手は人に害を為す怪物であり、無辜の民を苦しめる巨悪であり、そして英雄であった。
今、少年は“英雄”と対峙する。“英雄”は少年と対峙する。この構図が何を示しているのか。この時、理解する者はほとんどいない。
『両者準備が整ったようッス!それでは……始めっっっ!!!』
アメリアの声が音無を打ち破る。闘いは静けさに祝福されて幕開けを迎えたのだった。





