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”聖剣の王”VS”滅魔の修道女”

 「”神聖壁(トイコス・)半球(ヘーミスパイリオン)”!!」

 「“虹輝く(セブンカラー)斥力(グラビティ)(サークル)”!!」

 「“紅氷の霧(ルフス・ネブラ)”」


 ブリタニア王立魔導学園の闘技場は円形の高い柱が観客席を囲むように立った構造となっている。そのうちの三本の上にそれぞれ待機したアッシュとアイギス、フェルゼンとカラドボルグ、そして双魔とティルフィングが一斉に“解技(デュナミス)”を発動した。


 舞台をアイギスの剣気である光の壁、カラドボルグの虹色の円形帯、ティルフィングの紅色の霧が三重の防御壁を形成する。舞台の上が見にくくなるが、安全上仕方ない。とはいえ一般客たちはそれをも非日常として楽しんでいるように双魔の目には見えた。


 一方、舞台上では対峙するジョージとアンジェリカの間にヴォーダンが立って勝負のルールを取り決めていた。


 「プリドゥエンは盾、デュランダルは剣……故に勝負は一太刀とする。よいな?」

 「フハハハハハッ!一撃か!それで十分だ!それだけですべてが分かる!!シスター・アンジェリカ!構わぬな?」

 「貴方に不満がないならそれで構わない」


 デュランダルはヴォーダンの条件で納得したようだ。アンジェリカもデュランダルを見てコクリと無表情で首肯した。


 「プリドゥエン、構わないね?」

 「……王よ、本当によいのですか?」

 「私に二言はない。頼りにしているよ」

 「……承知しました」


 プリドゥエンは渋々承知した。主に思い直して欲しいという気持ちが微かに見える口元に表れている。しかし、ジョージがやめる気がないのならばプリドゥエンは従うしかない。


 「それでは両者構えよ」


 ヴォーダンが大きく一歩下がると二組のペアは数歩下がって互いの間合いがギリギリ重なるか重ならない彼の絶妙な距離をとる。それを確認してヴォーダンは再びアメリアを一瞥した。


 『っ!どうやら勝負は一撃勝負に決まったみたいッス!』

 『えー、遺物科のお三方が防護壁を展開してくれていますがー、どうなるか我々も見当がつきませんのでー』

 『観客の皆さんは衝撃には備えておいてください。学生の皆さんももしもの時は周囲の人々を守れるように。日頃の研鑽を役立てられるように備えて』


 いよいよ勝負が始まる。梓織の凛とした注意喚起に熱狂していた闘技場内に緊張の空気が走った。


 「主よその御力の顕現はここに。数多の聖人の加護はこの手に。契約に従い汝我が剣とならんことを……真なる姿を我が眼に映せ……“デュランダル“ッ!!」


 先に聖呪を唱えたのはアンジェリカだった。両手を組み祈りを捧げるように。修道服に包まれた華奢な背中が輝きを帯びる。背中に聖呪印(エンゲージ)が刻まれているのだろう。デュランダルの屈強な身体も光り輝く。舞台上が聖なる光で満たされる。そして光はアンジェリカの手に集約され、聖剣がその姿を露にした。

 黄金の柄に白銀の刃煌めく長大な両手剣。目にしただけで罪人の懺悔を引き出すほどの厳かさと存在するだけで神の敵対者を屠るであろう鋭い剣気を纏った聖剣だった。


 「……アーメン」


 アンジェリカは神への祈りを口にし、自分の背丈よりも大きなデュランダルを手に取ると両手で握り、切っ先を対峙する世界最強の遺物使いに向けて構えた。


 “英雄”、序列第十位“滅魔の修道女”の契約遺物、“聖絶剣”デュランダルとはどのような遺物であるのか。デュランダルはヨーロッパの父と称えられる神聖ローマ帝国初代皇帝シャルルマーニュの伝説に謳われる聖剣である。シャルルマーニュには十二勇士という優れた忠義の騎士たちがいた。その筆頭はシャルルマーニュの甥、英雄ローラン。そして、彼の愛剣こそがデュランダルであった。デュランダルは元々シャルルマーニュの所持した剣であった。


 黄金の柄の中には三聖人の身体の一部がそして聖母マリアの服の一部もが籠められていた。つまり、デュランダルは伝説級遺物ではあるが、他の伝説級遺物のように後から遺物に成ったのではなく、最初から遺物だった。この特殊性からデュランダルは聖遺物として他の遺物とは一線を画し、神話級遺物に追随するほどの力を有している。更にシャルルマーニュからローランへと下賜される際には神の使徒たる天使から託宣があった。天使の加護をも与えられたその剣は邪悪を絶つ唯一無二聖剣となったのだ。


 聖剣デュランダルの特質は何をしても刃毀れひとつしない頑強さと、全てを切り裂く恐ろしき切れ味である。ローランは凄烈な最期にデュランダルを敵に奪われまいと岩に叩きつけて破壊しようと試みたが、それは叶わず逆に岩が真っ二つに割れた。結局デュランダルはシャルルマーニュらの手によって回収されヴァティカヌムに寄贈され、代々その時代最高の祓魔師と契約を交わし、かつての主の意思を守り通し神の教えの守護を担っているのだ。


 “聖絶剣”デュランダルを目の前にジョージの赫い眼は一切揺らがなかった。静かに、穏やかにプリドゥエンに手を差し出す。


 「……プリドゥエン」


 舞踊に誘われた貴婦人のようにプリドゥエンは優雅に主の手を取った。その瞬間、彼女の身体が光り輝いた。ヴェールと同じ水色の輝き。舞台の上に海を感じさせる突風が吹きすさぶ。


 風と輝きがジョージの手許に収束し、やがて弾けた。現れたのは銀白色の盾。”海原を征く船楯”の名にふさわしく楕円舟形の特徴的でアイギスに引けを取らない巨大な盾だった。表面には水流を表した青い紋様、その中央には赤い円形の紋が刻まれている。


 ついに真の姿の遺物が相まみえた。闘技場内は静寂と緊張に満ちている。決着は一瞬、誰もがそう疑って止まない。


 ヴォーダンは舞台から離れると手にしていた杖を掲げた。それが振り下ろされた時、両者は激突する。


 柱の上の双魔たちは眼下を見据え、改めて構えた。世界最高峰同士の衝突。その余波がどれほどのものか想像できない。


 一拍空けて……ヴォーダンの杖が振り下ろされた。


 「“ローランの歌は(ラ・シャンソン・)高らかに(ドゥ・ローラン)”ッ!!!!」


 先に動いたのはアンジェリカだった。左腕でデュランダルを天へと掲げ、右手で十字を画く。その瞬間、天よりデュランダルに稲妻のような聖なる力が降臨し、アンジェリカの黒い修道服が純白に染まった。この瞬間、祈りを捧げる修道女は敵を打ち倒す“聖騎士(パラディン)”へと変わった。全身を清浄な剣気で輝かせ両手でデュランダルの黄金の柄を握りしめる。


 アイギスの絶対防御の光壁が揺らぎを見せ、カラドボルグの七色に輝く剣気の円も形を歪める。柱の上ではアッシュとフェルゼンが歯を食いしばって形を留めようとする。


 「“(クぺー・ドゥ・)(ル・ボン・ディユ)”ッッ!!!!!」


 デュランダルから彼のバベルの塔をも彷彿とさせる剣気の光柱が上がる。アンジェリカは神に仇為す者を全て切り裂き滅ぼし尽くす斬撃をジョージとプリドゥエン目掛けて振り下ろした。


 その苛烈な聖光の奔流を前に、ジョージは一切の動揺を見せなかった。ただ、少し微笑んでプリドゥエンを構えた。閃光の中、誰もが目を塞いでいる。故に、彼の呟いた姿を誰も見ることは叶わなかった。耳に届くこともなかった。


 「……“封印解除(シールパージ)”」


 プリドゥエンはジョージの声に反応して黄金に光り輝いた。それは全てを遮り“聖剣の王”を守護する星の光輝。


 聖なる斬撃と黄金の光輝は距離をつめたがいに触れた瞬間、双方ともに消滅した。その結果をまともに判断できたのはこの場においてヴォーダンと神話級遺物たちのであった。


 眩い光が徐々に消滅し、やがて闘いに臨席した者たちも視界を取り戻していく。無辜の民たちの眼にその光景は……。



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