一日目終了!
最初で最後のレビューをいただいてからもう二年になるんですねー!話も大分進んだので新しいレビューなどしていただけるともっとたくさんの人に読んでいただける機会になるのになー、なんて毎日思っていますが、現実はそう甘くないのをその二年と言う月日が表しているのです!……もっと気軽に一言でもレビューしていただいていいんですよ?(チラッ
もちろん感想もウェルカムです!寂しがり屋の作者ですので優しい読者さんをいつでもお待ちしております!
珍しく長めの前書き失礼しましたー!
「…………あー……さっぱりした……」
数時間後、双魔は自宅で入浴を済ませて自分の部屋に戻っていた。少し遅めの昼食の後は特にトラブルも起きずに恙なく学園祭の時は過ぎていった。クラスメイト達は明日の朝まで料理の材料が届かないため、各々学園祭を楽しんでいたようだ。巡回中に女性数人に話しかけられて嬉しそうにしているウッフォたちの姿も目にした。
学園祭前の運営本部のメンバー全員で泊まり込みで警備に当たったが、学園祭本番中は一日ずつの交代だ。今日は帰宅した双魔らの代わりにフェルゼンや宗房たちが役目を担ってくれている。宗房は三日間ぶっ通しで夜の番を勤めると言っていた。他のメンバーへの気遣いと好奇心の半々だろうか。それと、ロザリンは夜の番には入っていない。代わりにトラブルが起きた時はすぐに駆けつけることになっている。元々ロザリンは学園内に住んでいるし、勘の鋭さも随一だ。決めたのは宗房だがよく考えられていて流石だと感心する。
と、一日目は平和に終わったが学園全体のボルテージは肌で感じるほど高まっていた。明日はパフォーマンスを兼ねた遺物科と魔術科の模擬戦がある。学園祭のメインイベントの一つと言っていい。外部の客も今日以上に集まるはずだ。例年だと二日目には高名なゲストも登場するらしい。そして、デュランダルとアンジェリカはそのゲストだ。明日も気を抜けない。
「……まあ、今日もまだ気を抜けないんだけどな」
そんなことを独り言ちる。夜でも学園に残っている運営本部のメンバーだけでは対処しきれないことが起こった場合は駆けつけねばならないのだ。が、それが分かっていても身体は疲れていた。
「……まあ、今日は慣れないことをやったからな…………ふぅ……」
左文が夕飯を作ってくれているができるまでにはもう少しかかるだろう。短い時間でも横になりたい。そう思ってベッドの方に身体を向けた時だった。
コンッコンッコンッ
控えめに部屋のドアがノックされた。左文は一回にいるはずだ。それならばこうして訪ねてくるのは一人しかいない。
「鏡華か?」
『うん、入ってもええ?』
「ん、いいぞ」
返事を聞くとほんの少し間を空けてドアが静かに開いた。静々と部屋に入ってきた鏡華は寝巻用の白い襦袢姿だった。先に帰って既に風呂は済ませていたのか、長い髪はしっとりと水気を帯びていて、雪のような肌もほんのりと赤らんでいて色っぽい。鏡華の色気に当てられたのか疲れているはずなのに双魔の体温も上がったような感じがした。
「どうした?」
変に照れてはおかしな空気になってしまうかもしれない。双魔は平常を装って鏡華の顔を見ながら聞いてみた。
「別に大した用はないんやけど……」
「けど?」
聞き返す双魔の横を通り抜けて鏡華はベッドに腰掛けた。そして、ポンポンッと自分の膝を叩いた。
「疲れてるやろから、双魔を労ってあげるのがうちの趣味やからね……ほら、おいで」
どうやら膝枕の誘いらしい。少し照れ臭いような気もするが、鏡華の膝の上の魅力は双魔の身体に染みついている。余計なことを考える隙も無く、吸い寄せられるように鏡華の横に腰掛けると、そのまま身体を倒して頭を鏡華の膝に預けた。
さらさらとした襦袢の生地と風呂上がりのいつもより高い鏡華の体温、太ももの柔らかさが心地いい。隠れていた眠気がどっと沸き出てくるようだ。
「お疲れ様。運営のお仕事に、クラスの手伝いもして……疲れたやろ?」
「ん……そうだな……特に喫茶店は疲れた。執事なんて柄でもない……慣れないことはするもんじゃないな……」
「ふふふふっ、せやね。でも、格好よかったよ?」
鏡華は楽しそうに笑って、優しく双魔の頭を撫ではじめた。
「まさか俺の衣装を作ってるとは……それに、ティルフィングとレーヴァテインの分も…………」
「左文はんにも手伝ってもらったんよ……それにしても、双魔は人気やったね?女の子がたーくさん、、熱い視線を送ってはったよ?」
「……ん?……そう……か?」
「もう、鈍感なんやから……でも、うちはいつもの双魔が一番やと思うけれどね…………双魔?」
「……すー…………すー……」
返事が無くなったので顔を覗き込んでみる。如何やら眠ってしまったようだ。
「……ふふふふっ、やっぱり大きくなっても寝顔は昔のまんまやね……かあいい、かあいい、うちの双魔……」
鏡華は愛情に満ちた微笑みを浮かべて、双魔の頭を撫でていた。一階からは左文の作る夕飯の良い香りが漂ってきている。この時間はすぐに終わってしまうだろう。それでも、鏡華にとっては長く長く、穏やかで幸せな時間だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…………」
夜の帳が降り、人気のなくなったブリタニア王立魔導学園。その闘技場の一室にて、一人の修道女が目の前の一点を静かに見つめていた。
そこには紅の氷の封じ込められた一人の美丈夫がいた。もう何時間、アンジェリカはこうしているだろうか。だが、美丈夫の、自分の契約遺物であるデュランダルの驚愕に染まった顔は珍しい。いつも不遜な笑みを浮かべている彼が目を見開いて頬を強張らせたまま固まっているのだ。
珍しいものはずっと見ていても飽きないが、その時間も終わりのようだった。
「……思ったよりもかかったわね」
アンジェリカがそう呟いた次の瞬間、デュランダルを包んでいた美しき紅の氷が霧散した。
「くはっ!……なかなか手こずってしまったな。我としたことが……フハハハハハ!」
氷の中から出てきたデュランダルは一瞬でいつもの不遜な笑みを浮かべて見せた。あのティルフィングとかいう少女の姿をした遺物の剣気を自分の剣気で打ち破って出てきたのだ。伏見双魔は自然と溶けるなどと言っていてが、改めて考えると剣気の氷が自然と溶けるわけなどない。
(伏見双魔……食わせ者ね。それにあの遺物も……デュランダルがここまで時間をかけるだなんて……)
アンジェリカが双魔とティルフィングへの評価を新たにしている間、デュランダルは肩や首を回し、開放感を味わっていた。
「フハハハハハ!実に窮屈だったわ!あのティルフィングとやら……我にここまで面倒を掛けるとは、その点は評価してやっても良いな!フハハハハハ!」
「……いいの?仕返ししなくて」
静謐の満ちていた部屋に愉快気な哄笑を響かせるデュランダルの顔を見上げてアンジェリカは訊ねてみた。返事は分かり切っているがデュランダルも言葉にした方がすっきりするだろう。
「仕返し?フハハハハハ!そんなものはどうでも良い!確かに気に食わないが……我は強い者は嫌いではない。それに、よくよく考えれば我にはあの小娘を忘れさせる楽しみがあるのだからな!」
デュランダルは言葉通り、心底待ち遠しそうに言い切った。長い時を過ごす遺物のくせにご馳走を前にした子供のような笑顔だ。何を考えているのかは言おうとしないが、アンジェリカはデュランダルに合わせるだけだ。
「……そう、それならいいわ。メインの仕事は明日。その後はブリタニアの視察をしなければならないのだから……夕食を食べて休みましょう」
「うむ!そうだな!では、赤ワインを用意させるのだ」
「ええ、分かったわ」
アンジェリカは世話役を呼ぶためか、部屋を出ていったしまった。デュランダルだけが残される。彼は大股で窓の傍に近づいた。眼下には見事な闘技場の舞台がある。
「フハハハハ!……我の望みは強者と闘うこと。そして、勝利することだ……胡坐をかいた者の鼻を……明かしてやる良い機会だ!フハハハハハ!」
デュランダルの哄笑は窓を突き抜けて闘技場の空気をも僅かに振動させた。双魔の予想した通り、学園祭の波乱はまだ、始まりさえ迎えてはいなかった。
次回から新しい章に入れそうです!お楽しみに!





