遺物科棟、閑古鳥鳴く謎
私事ですが、本日は誕生日につき更新しておかねばと思った次第……執筆の時間も多少とれるようになったので、頑張ります!
一方、宗房の指示に従って遺物科棟に入った双魔たちはすぐに違和感を感じていた。
「……む?静かだな?」
「人がほとんどいませんわ……私は過ごしやすくていいですけれど……ここはお祭りではありませんの?」
ティルフィングは不思議そうに首を傾げる。レーヴァテインは帽子のつばを両手で触りながら、きょろきょろと周りを見回している。二人の言う通り、遺物科棟には生徒、一般客を問わず、ほとんど人がいなかった。
賑やかなところから来た分、余計に寂しさを感じてしまう。
「……アッシュ、どういうことだ?……もしかして、賑やかなのは外だけで、魔術科棟と錬金技術科棟もこんな感じなのか?」
「そんなことないと思うけど……ほら」
廊下の窓越しに向かい側の魔術科棟を見てみると、一般客に魔術科のローブを纏った生徒たちは勿論、遺物科の制服を着た新入生らしきも楽しそうに出入りしている。まるで違う世界にいるようだ。
「……どういうことだ?」
「さ、さあ……去年はこんなことなかったんだけど…………」
「……尚更分からん」
アッシュ曰く、昨年の学園祭は遺物科棟にも普通に客が入っていたらしい。宗房の言う通り、今の状況は何か不自然だった。
「ソーマ、どうするのだ?キョーカがいるのではないのか?料理を作っていると聞いたが……」
ティルフィングはクラスの出し物で鏡華が腕を振るうといったのを覚えていたらしい。先ほどのホッとドックだけでは足りなかったのだろう。双魔とアッシュは顔を見合わせた。
「……とりあえず……」
「うん、そうだね。自分のクラスで事情を聞いてみるのがいいと思う」
二人の意見は一致した。何よりも自分たちのクラスはどうなっているかが気になっていることは言うまでもない。
アッシュを先頭に階段を昇っていく。耳を澄ませてみると、楽しそうな笑い声も聞こえてくる。客が全くいないわけではないようだが、何処かの教室の笑い声が階段まで聞こえてくるということは、逆に人の少なさ故だ。
「あっ、オーエン先輩!伏見先輩!お仕事ですか?もし時間があったら……」
双魔たちの教室の一つ下の階に差し掛かると、何やら中華風の仮装をして看板を持った後輩たちが声を掛けてきた。客引きのために立っているようだが、客が来ないので暇なのだろう。二人を見た瞬間に皆、目を輝かせた。双魔はあまり実感していないが、評議会のメンバーは各科で尊敬の的だ。二人に自分のクラスに来てほしいと思ったのだろう。が、まずは遺物科棟全体の状況を確認しなければならない。こういう時の対応はアッシュに任せるに限る。
「ごめんね。君が言う通り仕事中なんだ。でも、後で絶対に顔を出すよ!何のお店かな?」
「本当ですか!?中華出身の子がいるので杏仁豆腐だとか月餅を出す中華喫茶をやってるます!」
「そうなんだ!美味しそうだね!他にはどんなものが……」
「アッシュ」
「ああ、双魔、ごめんね。また後でね!」
「「「はいっ!」」」
アッシュが軽く手を振ると後輩たちは嬉しそうに手を振り返していた。
「双魔も後で行くよね?」
階段を昇りながらアッシュが訊ねてきた。「後で行く」、には双魔も含まれていたらしい。
「いや……俺は……まあ、行けたらな」
「…………」
一瞬迷った双魔だったが、ティルフィングから送られる熱い視線に気づいてしまったので、行く以外の返事は持ち合わせなかった。それはさておき、まずは仕事だ。
「あっ、お二人さん!どうしたの?あっ、警備の巡回かな?」
階段を昇り切るとすぐに声が掛けられた。差し入れをした時に双魔を「鏡華の旦那」と呼んだ明るいクラスメイトが、先ほどの後輩と同じように看板を持って立っていた。名前は確かモニカ=ヴィンセンスと言ったはずだ。身に纏うのはクラシカルなヴィクトリアンスタイルのメイド服。グングニルが着ているものとほとんど同じだが、それよりかはフリルの装飾が多いように見える。
「ん。まあ、そんなところだ」
「遺物科棟が魔術科棟とか外の出店よりも人が入ってないみたいだから、何か問題があるんじゃないかと思って見に来たんだ。モニカさん、お店をやってて何か感じる?」
うろ覚えだったが、クラスメイトの名前は合っていたようだ。アッシュが手短にやって来た目的を説明すると、すぐに察しがついたのか、モニカはやれやれといった風に二、三度頷いた。
「あー、なるほどね。評議会でも問題になるくらい差がついちゃってるのかー。私たちも分かってたけどねー。最初の一時間くらいは普通にお客さんが入ってたんだよ?でも……ほら、途中でフローラさんの放送が入ったじゃない?」
「……他の科が賞品目当てにサービスを向上させたってわけか」
「そうそう。ほら、遺物科はここのクラスの出し物より二日目の闘技会の方が集客のメインだからね」
モニカが言った通りだ。遺物科は毎年、クラスの出し物よりも学園祭の二日目に闘技場で開催されるデモンストレーション戦闘がイベントとしては高い集客率を誇っている。双魔は出る予定はないが、評議会からはアッシュとフェルゼンが選手として参加することになっている。流れによってはロザリンも参加するかもしれないが、運営本部が手薄にならないよう、出るのは二人で決まっている。
フローラはデモンストレーション戦闘を人気投票でどう扱うかは特に言っていなかったが、選手として参加する者のクラスに票が入るのが自然だろう。つまり、このクラスはアッシュがいるだけである程度の票が入ることが予想されるわけだ。
二日目に遺物科に票が多く入ることを知っている他の学科はすぐに対応策を取ったのだろう。魔術科も錬金技術科も遺物科よりは小回りが利く。
「そっか……でも……せっかくみんなで準備したのに、お客さんが来てくれないのは残念だよね……」
アッシュが表情を曇らせると、明るく笑っていたモニカも少しだけ俯いた。
「そう言われると、ね……お客さんには来て欲しいかな?内装も凝ったし、料理もおいしいしね。まあ、私は商品にはあまり興味はないから、いっぱい来て欲しいわけじゃないけど……そうじゃない奴もいるから……」
モニカがそう言って教室の入り口の方に目を遣った。双魔とアッシュもつられてそちらを見る。すると一人、いつもは賑やかな奴がこの世の終わりを見たかのように項垂れて、どんよりとした雰囲気を纏いながら教室から出てきた。
「……ああ……アッシュのお蔭である程度票は入るだろうけど優勝には足りねぇ……俺も闘技会には出るけどそんなに活躍できないだろうし…………この喫茶店で票を稼ぎたいのに……このままじゃ、賞品は手に入らねぇ……」
教室から出てきたの、坊主頭のウッフォだった。屈強な体格せいか、髪型は全くマッチしていないのに、執事服が妙に似合っている。いつもは明るく、イイ感じの馬鹿さ加減が楽しい奴だが、今は見たことがないくらい湿った空気を纏っていた。何時だか、双魔に嫉妬していた時よりも湿っている。
「……うわぁ」
「……アレのことか?」
「うん、そう。限定メニューが食べてくて、食べたくて仕方ないみたい。他の子たちもロザリン議長とかと写真を撮りたいって言ってた」
ロザリンは遺物科の女子からの人気も高い。よく知らない人からするとミステリアスなお姉様という感じがするらしく、憧れている生徒が多いと前にアッシュが言っていた。
ウッフォを見て、アッシュが思わず小さな声を漏らしていた。雰囲気がどんよりしすぎて、さしものアッシュも我慢できなかったのだろう。クラスの中には食欲や憧れを叶える欲望が渦巻いているらしい。
「……何か手は…………あ」
腕を組んで唸っているウッフォがふと、顔を上げた。そこにいたのはアッシュと双魔。脳裏にお客を呼び込む名案が一瞬ではじき出された。
「……げ」
「……嫌な予感、かな?」
ウッフォと目が合った瞬間に何かを察した双魔とアッシュ。だが、時は既に遅かった。
「野郎どもーー!!客寄せの材料が来たぞーー!!確保っ!確保だっ!!!」
「うるさいな……何を騒いで……って!アッシュに双魔じゃないかっ!?」
「何っ!?なるほどそう言うことかっ!!いくぞっ!!」
「二人とも覚悟しやがれっ!!」
「「「うおおおおーーーーーーっ!!!!」」」
ウッフォの呼びかけで教室から出てきた執事とコックが状況を察して、鬼気迫る表情で向かって来る。あまりの気迫に逃げようにも逃げられない。
「……南無三」
「……アハハハハ」
双魔は死んだ目で、アッシュは乾き切った笑い声をあげながら、神輿のように担がれて教室の中に運ばれてしまうのだった。
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