魔術科議長のサプライズ!
『ピンポンパンポーン!ピンポンパンポーン!みんな!学園祭は楽しんでいるかなー?と言は言っても、まだまだ始まったばかりだけれどねー!』
ブリタニア王立魔導学園に陽気で可愛らしい声が響き渡る。それを耳にして、作業や接客する学生たちは手を止め、歩く新入生や来場者たちは手を止めた。顔の見えない見えない彼女の声はそれほどまでに人々を惹きつけた。
『まずは名乗っておくよ!私はブリタニア王立魔導学園魔術科評議会議長!そして!みんなの恋のキューピッド!フローラ=メルリヌス=ガーデンストックだよっ!!学園祭中はこうしてたまに放送するからよろしくねっ!』
「あの人は何やってるんだ……誰か、放送システムに関与する手引きをしたな?」
「あのぉ……すいません……押し切られてしまって……あはは」
双魔が愚痴をこぼすと、魔術科の庶務が気まずそうに手をあげた。が、誰も攻めようとはしない。全員、彼女に同情しているのだ。
「まずは何を言うか注意して聞きましょう……」
イサベルが眉間を押さえながら言った。既に問題への対応をしなければいけない前提だ。その気持ちは皆にもよく分かった。
『それじゃあ、早速お知らせだよー!今回の学園祭では各クラスの出し物をお客さん評価、投票してもらってグランプリを決めることになっていまーす!お客さんは入場するときに貰ったパンフレットの真ん中のページを見てね!そこに投票券があるよ!』
「誰か持ってるか?」
「…………ああ!本当だ!見てくれっ!」
フェルゼンが持っていたパンフレットを開いて、見せてきた。確かに、フローラのデフォルメされた似顔絵とハートマークが描かれた投票券が付いていた。
「……いつの間に……賞品って何でしょうか?」
誰かが呟いた。もう、半分諦めて楽しむ方にシフトしようとしているらしい。どちらかと言うとそっちの方が得だろう。双魔とイサベルには少し難しいが……。
『投票してくれた人にはささやかだけどプレゼントが用意してあるよ!もちろん、学生諸君にも投票券はあるから、楽しんだら奮って投票してね!次に、グランプリになったクラスへの賞品を発表しまーす!』
フローラがそう言った瞬間。気のせいかもしれないがざわついていた学園に静けさが訪れた。
『優勝賞品はー……学食のスペシャルメニュー優待無料券一年分っ!!』
おおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!
賞品を聞いて、学園に歓声が響いた。学園の食堂ではたまにスペシャルメニューが提供されることがある。実は学食で働いている気のいいシェフたちは、元々王室や超高級ホテルで腕を振るっていた一流の料理人たちなのだ。そんな彼らが気まぐれに、スペシャルメニューを出すことがある。
それは時にはフルコース。時にはワンディッシュメニューだったりするのだが、兎に角美味。そして、値段もお高め。それでも食べたい。でも、限定十食。とかそんな感じで学生たちの憧れの的なのだ。それを必ず一年間ただで食べられるとは、食べ盛りの若人たちにとってはかなり魅力的な賞品だ。
「……スペシャルメニュー……スペシャルメニュー…………」
後ろでロザリンが反芻していた。やはり、食べ物の賞品だと気になるようだ。
「スペシャルメニューが毎回必ず食べられる、かぁ……」
何気にグルメで、限定メニューに弱いアッシュも興味津々だ。
「……全員が欲しがるような賞品ぶら下げたな……これは……はぁー……荒れるぞ」
双魔は深いため息をついた。間違いなく、客引きや接客でおかしなことをする連中が出てくる。警備主任としては頭がとても痛い。トラブルの予感だ。
『さらにさらにー!今回はお得にもう一つ賞品があるよー!そ・れ・はー……』
「もう一つ賞品がある」、勿体ぶったフローラの言葉が響き渡ると再び静寂が訪れた。
『なんと!なんとー!私たち各科の評議会メンバー、お好きな誰かと記念撮影出来ちゃう権利!どーかな?どーかな?やる気出たかな?』
「……え?」
「俺たちと?」
「記念撮影?」
「……議長……」
「…………俺たちと記念撮影って、誰が喜ぶんだ?そんな……」
おおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!
「……は?」
双魔たちが呆れかえっていると外から先ほどに負けず劣らずの大歓声が響いてきた。意味が分からないが、兎に角壮途に盛り上がっているらしい。
「……どういうことだ?……アッシュ」
「え!?僕に聞かれても…………」
「……そうか、お前さんモテるもんな。女子はアッシュと写真が撮りたい。男子は……イサベルにロザリンさん、クラウディアもか。美人な女子と写真が撮りたいと…………」
「……そう言うことなの?」
アッシュが首を傾げると錬金技術科の書記を務める眼鏡を掛けた女子がズイっと前に出てきた。
「そう言うことです。あと、他人事みたいに言ってますけど伏見さんもかなり人気ですからね?」
「……は?俺が?」
「ええ。オーエンさんは遺物科の女子全体。伏見さんは魔術科の女子全体にかなりの人気があります。そうでしょう?ガビロールさん?」
「……ええ……双魔君はかなり人気よ。鏡華さんが転校してきた時は“伏見ロス”なんて現象が起きたってアメリアと愛元が言っていたわ…………双魔君、素敵だから……」
「……意味が分からん」
自分の知らないところで、自分が中心の現象が起きているとは何とも気味が悪い。双魔は混乱が頭から離れない。ついでに、イサベルがボソボソと何か言ったが聞こえなかった。
「というか、身も蓋もないことを言ってしまえば、各科とも評議会のメンバーはかなりの人気があります……その筆頭株の皆さんは理解していないようですけど、合法的に一緒に記念撮影なんてかなり豪華な賞品ですよ……というわけで、この学園祭、荒れに荒れるのは間違いないです」
錬金技術科の書記は何故か得意げに胸を張ってそう言い切った。
「いや……その前に俺たちの承諾がないのはどうなるんだ?」
話が勝手に進んでいるが双魔たちは自分自身が賞品になることを今初めて聞いた。当然、承諾もしていない。
「綸言汗の如し。ってな!全員諦めろ!カッカッカッ!いいじゃねぇかっ!」
「確かに。魔術科の議長が言ってしまったのなら撤回は難しい。ここは腹をくくるしかないなっ!皆、頑張ろう!」
ニヤニヤしながら黙っていた宗房が豪快に笑い飛ばした。それに同調してフェルゼンもキラリと眼鏡を光らせて、皆に発破を掛けた。もう逃げ場は何処にもなかった。
「ソーマ、大変そうだな?我も何かした方がいいか?」
「……その気持ちだけで俺は嬉しいよ……はあ……」
双魔はティルフィングの頭を優しく撫でながらため息をついた。イサベルも同じようにため息をついているし、アッシュは苦笑いだ。ロザリンはいつも通り無表情なので、どう思っているのかは分からなかった。学園祭運営の要、大会議室の中に何とも言えない空気が漂う中、スピーカーから聞こえるフローラの明るい声は続く。
『どうかな!?皆、やる気が出たようだね!それでは、各々励んでくれたまえ!私からは以上っと、忘れるところだった!百発百中、恋占いフローラの館は絶賛開店中だよ!恋に悩める老若男女の皆、来店を心待ちにしてるよそれじゃあ、楽しんでくれたまえー!!』
ちゃっかり自分の店の宣伝をすると今度こそフローラの放送は終わった。
双魔たちには分かった。放送前と放送後で、学園内の熱量が全く違う。フローラの火付けは良くも悪くも効果覿面だったようだ。
「……まあ、とりあえず仕事、始めるか……しばらくはここで様子を見て、そのあと俺も見回りに参加する。宗房、それでいいな?」
「カッカッカッ!それでいいんじゃねぇか?それじゃあ、全員気張って仕事に取り掛かるぞー!」
宗房がそう言うと、各自、自分の席に座って運営やトラブル対応の準備に取り掛かる。既に少し疲れた顔の双魔だったが、自分でも気づかないうちにその顔には笑みが浮かんでいた。
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