恋の問診:クラウディア編(その1)
バタンッ!
扉が閉まり、広い大会議室の中には年頃の女子四人だけとなった。
「さーてさてさてー!お邪魔な宗房と、とっても罪作りな双魔くんがいなくなったことだし!恋バナしよ!恋バナ!」
両手をすり合わせてルンルン気分なフローラをイサベルが冷ややかな目で睨んだ。
「……議長、そんなことをしている時間は……」
「シャラーップッ!自分の恋が叶って順風満帆!ラブラブ街道まっしぐらなイサベルくんは黙っていてくれたまえ!」
「なっ!!…………」
言い逃れのない言葉の矢に射貫かれたイサベルは咄嗟に言い返せずに沈黙してしまう。これでもう完全にフローラのペースだ。
「え?え?」
「……?」
クラウディアは怪しい話の流れに動揺し、ロザリンは何の話をしているのかピンと来ていないのか首を傾げている。
「うーん!どっちからにしようかなー?」
「??」
「っ!はわわわっ……」
まるで獲物を捉えた蛇のように二人を交互に見るフローラ。ロザリンは意に介していない。が、クラウディアは完全に怯えてしまっていた。そして、狩りは弱そうな獲物から狙いものだ。
「よーし!クラウディアくんからに決めた!さあ、クラウディアくん!私に素敵な恋バナを聴かせてくれたまえ!」
「はわっ!そ、そんな……いきなり言われても!」
大仰に両手を広げて見せるフローラに対して、クラウディアは動揺したまま答えてしまった。一言目で否定しなかった時点で意中の相手がいることがほとんど確定してしまったに等しい。
(ま、そこは分かっていたけどね!クラウディアくんの場合は自分から話してもらうより、こっちから質問した方がよさそうだぞう!フッフッフ……)
これまで数え切れない恋愛話を聞いてきたフローラにとってクラウディアは赤子のようなものだ。すぐに話を聞き出す算段をつけて、満面の笑みを浮かべる。
「分かった、分かった!それじゃあ、私の質問に答えてくれればいいよ!」
「し、質問に……その、答えないという選択肢は……」
「ないね!!答えてくれないと会議は一生始まらないよ!?」
「……うぅ……」
押しに弱いクラウディアは完全にフローラに飲まれてしまった。そして……。
「……その……答えられる範囲なら……いいです……」
何度か唸った後、諦めがついたのか、フローラの笑顔の圧力に心が膝をついてしまったのか、クラウディアは恐る恐る頷いた。
「本当かい!?ありがとう!ああ、怖がる必要はないさ。ロザリンくんとイサベルくんもいるし、根掘り葉掘りは訊かないよ……少し聞けば大体わかるからね?」
「……は、はい……お手柔らかにお願いします……」
「任せてくれたまえ!それでは、まず、クラウディアくんには今、恋焦がれている素敵な相手がいる。これは間違いないかな?」
「こ、恋……焦がれて…………その…………」
クラウディアはぽぽぽっと頬を赤く染め、少し間を空けてからコクリと頷いた。
「ふんふん……因みに、その人のことが好きになった切っ掛けは?ああ、気になりはじめた切っ掛けでもいいよ?」
「切っ掛け……ですか?……えーと……小さい頃……お屋敷の庭の高い木から降りられなくなったところを……助けてもらって……その、その時……優しくて……かっこよくて……それから……ずっとです……」
恋に落ちた瞬間を思い出しているのか、クラウディアはぽつりぽつりと話しながら身体を震わせた。その仕草と話の内容にフローラは大興奮だ。
「うーん!美味しい!良質な天然物の恋バナだね!そうか!小さなころからずっとその人のことが好きなんだね?」
「………………その、はい……」
バンッ!バンッ!
「うーん!いいね!いいね!実にいい!……因みに、その話、もう少し続きがあったりするかい?」
フローラは円卓を叩きながら、さらに話を促した。
「え?あ、はい……その……私を助けてくれた後、すぐに体調が悪くなって倒れてしまって……それ以来しばらく会えなくて……その、何年か前に再会したというか……そうしたら凄くかっこよくなっていて…………でも、変わらずに優しくて……今でも……その……お慕いして……ます……」
話を進めていくにつれてクラウディアはどんどん俯いていく。恥ずかしさで熱くなった頬を両手で覆っているせいで顔が見えなくなってしまったが、微かに見える耳も真っ赤だった。
(……ホーエンハイムさんの話……どこかで聞いたような……いえ、もの凄く身に覚えがあるわ…………もしかして、ホーエンハイムさんの好きな人って……)
途中からフローラの制止を諦めてクラウディアの話を聞いていたイサベルはクラウディアの思い人に心当たりが浮かんでいた。困っているところを助けてもらい、その後、助けてくれた本人が体調不良で倒れるという流れ。自分が双魔を好きになった時と全く同じだ。
自分の場合は悪さをしている年上の生徒を注意して、逆上されて危ういところを助けてもらった後に、高熱を出して双魔は倒れた。もはや、心当たりではなく、確信だ。
(……双魔君って……昔から…………)
自分の知っている双魔が昔から変わらないことと、自分と同じような経緯で他の女の子にも好かれていることに、イサベルは嬉しさと呆れを感じていた。
(……ということは……鏡華さんに私……クラウディアさん……それに……)
「?」
イサベルの視線に気づいたのか、ロザリンは首を傾げて、ひらひら手を振ってきた。
(……キュクレインさんも双魔君のことが好きよね……もし二人が双魔君に思いを告げたら……って、駄目よ……こんなの私だけじゃ処理しきれないわ……他のところで話すのはクラウディアさんに申し訳ないけれど、鏡華さんに相談しないと……)
イサベルが一人考えを巡らせているうちも、フローラのクラウディアへの質問は続いていた。
「なるほど、なるほど!いやー、なかなか素敵で衝撃的な出会いじゃないか!それで?君の思い人は今はどうしてるんだい?」
(……この人、絶対分かった上で聞いてるわ……)
クラウディアは一生懸命話しているせいで気づいていないのかもしれないが、フローラは全て把握した上で話をしている。双魔に「罪作りな」なんて言っていたのがいい証拠だ。
「え……と……その……学園に……」
「ここにいるのかい?」
「…………」
「うんうん、話は大体分かったよ!それじゃあ、聴かせてもらうだけじゃ悪いからね!私からクラウディアくんの恋に指針を示してあげよう。そこで、最後の質問だ」
「……さ、最後ですか?」
「うん、最後さ!君は、その人とどうなりたい?それと、その希望を叶えるとして、不安なのは?」
「っ!…………」
フローラの表情が真剣なものに変わり、核心を突く問いを投げかけてきた。クラウディアはびくりと身体を大きく震わせると、また、俯いてしまうのだった。
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