不遜なる者の予兆
少し空きましたね。お久しぶりです。新章もある程度、書貯めが出来てきたので、ゆるゆる更新していきたいと思います。それでは、またお付き合いくださいませ。
改めて、”遺物”とは何だろうか?一般に”遺物”と呼ばれるモノは人の力を越えた不思議な力を持つ武具や道具といったモノである。それは例えば、魔を滅する聖剣であったり、一撃を以て敵を殲滅する魔槍であったりする。が、その力の大きさはそれぞれ異なる。
”神話級”に分類される最上級の遺物はその存在のみを以て一国を滅ぼすことが可能であると恐れられる。神話級遺物は文字通り、神話の時代から存在し、自ら好んで人や動物の姿をとる。神々の手によって創造された者が多く、唯我独尊、あらゆる意味で規格外だ。
”伝説級”に分類される遺物は神話級には劣るものの、強大な力を持っている者が多い。人の手では太刀打ちできない魔を打ち払う。はたまた、その力で人の心を飲み込み破滅に導く。いずれも神話級遺物よりも人に寄り添う姿勢が見られる。伝説級遺物は良くも悪くも人と共にある存在だ。強大な力を持っていても、人と契約していない者は人や動物の姿をとることが出来ないことが多い。しかし、気難しい神話級遺物たちよりも、人に理解を示す良き友になる。
”御伽噺級”に分類される道具は伝説級遺物よりもかなり力に劣る。影響を及ぼすことのできる人の数はせいぜい一人から、一家族。多く見積もっても一族と規模が小さい。しかし、確実に人を呪うなど強力な力を持つ者もいる。彼らは人の姿をとることが出来ない。代わりに異形の姿をとる。分かりやすく言えば、付喪神が御伽噺級遺物と分類されることが多い。
さて、力量の隔絶が甚だしいとも見て取れる”遺物”たちにも共通する点がある。それは、「意思を持つ」ということだ。人の姿をとることのできる神話級、伝説級は言わずもがな、御伽噺級の遺物たちも意志を持ち、人との疎通が可能だ。
”意志”があれば”価値観”も存在して当然だ。先にも触れたが神話級はそれぞれ独自の、独特な価値観を持つ。比較的に理解出来る例を挙げるとすれば、それは”誇り”だろう。
とある聖楯は次のように語った。
『誇り?私の誇りは秩序の守護者であること。この世界に害をなす如何なる存在からも守るべきものを守護する。その力を身に宿し、行使することが私の誇り』
とある魔槍はこう言った。
『彼の大英雄と共に戦場を駆け抜け、その枝葉を託されたのが俺の誇りだな。こりゃあ、秘密だが……今の契約者が一番可愛いな!ヒッヒッヒッヒ!』
とある剣は…………。
『ほこり?……難しいことは分からないが……我はソーマと一緒なら嬉しいし、楽しいぞ?』
これは特殊な例だ。
では、伝説級の遺物はどのような意志を持つのか。多くはこう語るだろう。
『自らが認めた使い手に一生を捧げることが存在意義であり、本望である』
強大な力を持ちながら人に寄り添う伝説級遺物らしい強固な意志だ。
しかし、どんなところにも変わり者はいるものだ。例えば、伝説級遺物ながら神話級遺物のような価値観を持つ者がいるのだ……
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四月下旬、パリからロンドンへと向かう高速列車、その最上級貴賓車両で一人の男が大きな車窓から流れゆく景色を眺めていた。
ホワイトブロンドの天然パーマ、髪型に似合わず強固な意志を感じさせる金色の瞳、細い鼻筋の段鼻、大きな口、見るからに自信に満ち、精悍な顔立ちの美青年だ。屈強なその身には修道服と甲冑を合わせたような特徴的な白い服を纏っている。
「…………汚らわしいな……やはり、バティカヌムから出るものではない。そうは思わぬか?シスター・アンジェリカ」
青年は眉根に皺を寄せながら振り返った。視線の先には煌びやかな金細工で彩られた深紅のソファーに座る一人の女性がいた。
”アンジェリカ”と呼ばれた若く小柄な女性は、黒の修道服を身に纏い、首からは十字架を下げている。青年の声に気づいた女性は膝の上に置いた分厚い聖なる書から顔を上げた。
「当たり前よ。バティカヌムは私たちの主に最も近い聖なる地の一つなのだから。出るのが久し振りとは言え、そんなことをいまさら言われても困るわ」
「フハハハハハハッ!確かにそうだ。これは失言だったかな?」
「そうね」
青年は尊大に笑って見せた。それを見たアンジェリカはどうでも良さそうに膝の上に視線を戻した。
「あとどれくらいでロンディミウムに着く?」
「あと一時間もすれば着くわ。それよりも座ったら?わざわざ立って汚らわしい景色を見続ける必要もないでしょう?」
ソファーの真ん中に座っていたアンジェリカは少しだけ右にずれた。しかし、青年は立ったままだ。
「ハハッ!アンジェリカ、戦士はそう簡単に座らぬものだ。それよりも喉が渇いた。ワインを一杯所望するぞ」
「……」
チリーン
アンジェリカは顔も上げずに手元に置いてあったベルを鳴らした。すると数秒経たずに燕尾服を着た乗務員が姿を現した。
「ご用件を」
「赤ワインが欲しいそうよ」
「かしこまりました」
「ああ、すぐに飲みたいのでな。テイスティングなどは不要だ。グラスに注いで持って来てくれ」
「そのように」
乗務員は深々と頭を下げるとすぐに姿を消した。そして、一分と経たずに赤ワインを注いだグラスを持って戻って来た。
「お待たせいたしました。ロマネ・コンティの最上級品でございます」
「うむ……んぐっ……ふぅ……美味いな。もう一杯所望するぞ」
青年はグラスに口をつけると一気に飲み干し、満足げに笑い、乗務員の前にグラスを突き出した。
「かしこまりました」
グラスを受け取り乗務員は再び姿を消す。一瞬、青年とアンジェリカの二人だけになる。
「して、何故、我らがロンディミウムくんだりまで出向かねばならぬのだ?」
「……法皇の話を聞いていなかったの?」
「うむ、聞いていた。覚えていないだけだ」
アンジェリカは誰もが呆れかえるような青年の開き直りに眉一つ動かさず、聖なる書を読み続けながら答える。
「ロンディミウム……ブリタニアで気になる情報が入ったから、王立魔導学園の学園祭の来賓として招待されたついでに探ってこいと言っていたわ」
「間諜の真似事か。戦士には侮辱甚だしいな。あの男の信仰心は美しく素晴らしいが、それ以外は気に食わぬ」
「そんなことを言ったって仕方ないわ」
「それで、気になる情報とは?」
「……”獣”が現れるんじゃないかと言う話」
「”ブリテンの獣”か。我には関係ないな。それよりも……ブリタニア王立魔導学園には名のある遺物共が多い。一同、我には劣るが……久々に会うのが楽しみだ」
「……そう言えば、新しく神話級遺物の契約者が出たらしいわよ」
「何?名は?」
「……伏見双魔とティルフィング」
「……聞いたことのない遺物だな……まあ、いい。物分かりの悪い愚物であれば……ついでに、この手を下し、我が偉大さを教授してやるまでだ」
「お待たせいたしました」
乗務員が持ってきたワイングラスを受け取ると、青年はまた一息に飲み干した。ガラス窓には不遜に笑う、黄金の瞳が爛々と輝いていた。
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