間がいい刑事
「……いや、俺は違うんだが……全員同じ格好なのに俺だけ違うのは変だろう?」
「一人だけ一般人に紛れ込む作戦かもしれない!……そのマントは王立魔導学園のものだな!?どこでそんなものを手に入れたんだ!」
どうやら双魔に向かって銃を構える三人は、双魔が強盗団の一員であると勘違いしているらしい。
「これは本物だ!俺は強盗団の仲間じゃない!」
「それならばその手に持ったナイフはなんだ!?」
「ナイフ?……あ……」
言われて気づいた双魔だったが、左手には男から取り上げたナイフが逆手に握られていた。床に捨てて万が一が合ってはいけないので、とりあえず持っていたのを忘れていたのだ。
「いや、これはコイツから取り上げただけだ。取り敢えず、床に置くから銃を下ろしてくれ」
「「「…………」」」
双魔はその場にゆっくりと屈むとナイフを床に置いた。しかし、他の警官たちが店内の人々の保護を行う中、三人は銃を下ろしてくれない。
「……後輩君」
警官三人の向こうではロザリンがこちらをじっと見ていた。
(……ないとは思うが、ロザリンさんが手を出したら不味いな……かと言って俺がどうにかする訳にもいあかないしな……)
強盗団と違って警官たちは公務を全うしているため、非はない。故に倒すわけにもいかない。
(っても、いつまでも銃口向けられてると気分も悪いしな……どうするか……)
強盗という面倒事を潜り抜けたと思ったら、今度は強盗の一員と勘違いされる災難だ。もう、嫌になってしまう。
「……あの男の後ろにいる三人はどうして全く動かないんだ?」
「あの男と一緒に何かたくらんでいるのかもしれん!警戒を解くな!」
しかも、双魔がガンドで拘束した三人も不自然に硬直しているせいで怪しまれているようだ。勿論、双魔も共犯だと思われている。このままでは埒が明かない。
(…………どうするか……)
双魔が心の中で途方に暮れたその時だった。
「どうしたのよ?強盗団は店内の一般人に制圧されたって話じゃなかったのかい?」
(お?)
警官たちをかき分けて知った声が聞こえてきた。声の主が双魔の予想通りなら、この状況を全部解決してくれるはずだ。
「それが、警部殿!一般人を装った強盗団の一員と思われる不審者がおりまして……」
「不審者?どれ、俺がそいつの顔を拝んで……って、双魔じゃないの!?お前さん、こんなところで何してるんだ?」
顔を出し、双魔の顔を見た途端、素っ頓狂な声を上げた小太りの男はスコットランドヤード勤務の魔術師刑事、かつ双魔の飲み仲間、ジュール=レストレイド警部だった。
「いや……まあ、偶然居合わせてな」
「かーっ!この前もそうだったじゃないのよ!間の悪いやつだなぁ!おい、こいつは強盗団なんかじゃない。俺の知り合いだ!」
「け、警部殿の?王立魔導学園の関係者を偽った強盗団の一味では……」
「馬鹿野郎!ハリー!お前の勘違いだ!正義感が強いのはいいが、そそっかしさは直せって言ってるだろうが!?こいつは王立魔導学園で教鞭を取ってるんだよ!ここは俺が預かる!お前らは負傷者がいないか確かめてこい!」
「負傷者なら、そこの椅子に座ってる人が首筋を薄く切られてる。応急処置はしといたけど、一応、医者に連れて行ってやってくれ」
「そうか、分かった。おい!」
ジュールがあるのかないのか分からない顎で指図すると、叱られていたハリーという警官が店員さんを外へと連れて行った。
「あ、ありがとうございました!」
去り際に振り返った店員さんのお礼に、双魔は軽く手を上げて答えた。
「後輩君、大丈夫だった?」
双魔に銃を向けていた警官たちの背中を見つめていたロザリンがこちらにやって来た。
「ん、ご心配なく」
「おいおい、双魔!この前とは違うお嬢ちゃん連れてるのか?しかも、美女!モテるのは勝手だがそのうち刺されるぜ?」
ロザリンを見たジュールは目を丸くし、その後ニヤニヤ笑うと冷やかしてきた。
「この人とはそう言うのじゃない……」
「…………」
双魔とジュールのやり取りを聞いたロザリンは不思議そうに首を傾げていた。
「つーか、仕事中に一般人と雑談してていいのか?」
「いいんだよ!指揮官はエリート連中がやってるからな!ガハハハッ!」
「警部殿っ!」
双魔に白い目で見られても豪快に笑ったジュールの傍に部下が一人やって来た。
「どうした?」
「それが……主犯と思われる三人なのですが……見ていただければ分かっていただけるかと思うのですが……あの姿勢のまま全く動かないのです……何か企んでいるのではないかと、迂闊に近づくことができない状況でして……」
「全く動かない……うん?」
「…………」
部下の話を聞いたジュールがこちらを見てきた。口に出すと面倒なことになるかも知れないので、目配せをする。
「いや、恐らく何もしてこないはず。そのまま確保していいぞ」
「は?しかし……」
「大丈夫だ。俺のことが信じられないのかよ?」
「は……はっ!了解しました!確保―!確保―!」
ジュールから指示を受けた警官は慌ただしく、三人を取り囲む仲間のもとへと走っていった。
「ありゃあ、双魔の仕業だな?」
「ん、まあな」
「俺としちゃ、双魔とそっちのお嬢ちゃんが居合わせてくれて助かったぜ・楽に仕事が済んだからな?まあ、そっちからしたら不幸かもしれないが……」
「……スマートフォン」
ジュールの”不幸”という言葉を聞いて、ロザリンは今日はもうスマートフォンが手に入りそうにないと思ったのか、双魔の目にはしょぼんと落ち込んでいるように見えた。
「……俺たちもこのまま残った方がいいのか?」
(……ロザリンさんも落ち込んでるっぽいからな……埋め合わせして喜んで欲しいし……このまま拘束されるのは……)
「……ガハハッ!おう、双魔!心配すんなよ!野暮なことは言わないさ!俺が適当に誤魔化しとくから、さっさと言っちまいな」
ジュールは豪快に笑うと手をひらひらと振って双魔たちに立ち去るように促した。
「……まあ、ありがたいけど……この前もそうだったよな?職務的に問題ないのか?」
「いいんだ!いいんだ!全部は分からねぇが、大体は分かるからな!分からなかったら後で連絡するぜ!」
「……まあ、それでいいなら。じゃあな」
「あー!ちょっと待て!双魔!」
「ん?」
踵を返しかけた双魔は、何かを思い出したらしいジュールに呼び止められた。
「少しだけど貰ってくれ。面倒なのは嫌いだろ?報告書には双魔とお嬢ちゃんのことをボカして書くからな。協力感謝する!」
ジュールは笑みを浮かべると双魔の手に紙幣を一枚握らせてきた。警察から出ない感謝状代わりのつもりらしい。
「いや、こんなの悪い……こういう時に俺が関わってないように頼んでるのも俺なのに……」
実は双魔は以前からジュールが担当する事件に何度か関わっている。下手にマスコミなどに嗅ぎつけられて付き纏われては堪らないので、ジュールに情報操作を頼んでいるのだ。そんな苦労を掛けているのにお金をもらうなど気が引ける。
「いいんだ、いいんだ!俺の気持ちだ!それじゃあ、本官は職務に戻る。改めて協力感謝する!さっさと言っちまいな!」
ジュールは双魔とロザリンに敬礼をすると、もう一度ニコリと白い歯を見せて、双魔のガンドで拘束された三人を捕縛する部下たちの元へと向かった。
双魔の手には握らされた紙幣だけが残る。
「お金、もらったの?」
「ええ……返し損ねました」
「刑事さんがいいって言うならいいんだと思うよ?」
「……まあ、そうですね……それじゃあ、このお金で何か食べましょうか?ロザリンさん、腹減ったでしょう?」
「っ!うん!おなか減った」
ぐー……………
自分の言葉に連動したのか、ぱあっと表情を明るくした(ように見える)ロザリンの腹の虫が盛大に鳴いた。
「んじゃ、スマートフォンは今日はお預けですから。せめて、お腹いっぱい何か食べましょう」
「うん!」
ロザリンは来た時と同じように双魔と腕を組むと引っ張るように歩き出した。気分は散歩が楽しみで我慢できない大型犬と歩くようだ。が、胸が当たっている上に、仄かに甘い匂いがして、胸が高鳴ってしまう。
双魔はやれやれと言いたげな笑みを浮かべて平静を装いつつ、ついていく。ジュールが言い含んでくれたのか、店内を取り囲む警察関係者たちに引き留められることはなかった。
予定は変わってしまったが、ロザリンの後輩君との楽しいお出かけはまだまだ終わりそうにない。
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