そう言えば……?
ロキの襲来から一週間後、ロンドン市内のとある邸の一室で金髪の美少年が診察を受けていた。
「……うん、いいでしょう。骨折もほとんど治りました。外に出ても大丈夫でしょう、おめでとうございます」
「本当ですか!?先生!ありがとうございます!っ!いたたたた……」
「……アッシュ、全快したわけじゃないのだから大人しくしていなさい」
「そ、そうだった……嬉しくて……いたたたた……」
典医に外出を認められ喜びのあまり大きな声を出したアッシュは両腕で身体を抱いて痛みを訴えたがその表情は明るい。あれから双魔たちとは電話やメッセージを交わしたが直接会っていない。何より、今日は双魔が巻き込んで悪かったと慰労会を開いてくれるというのだ。参加できないのではと不安だったがこれで大手を振って参加できる。
はしゃぎすぎてアイギスに窘められてしまったが、アイギスの表情も優しかった。
「そうですね、アイギス様の仰る通り全快というわけではありません、肋骨のひびはまだ残っておりますのでなるべくコルセットを装着するようにしてください。いつもお使いになっているものでは心もとないため少しきつめのものを用意いたしました。こちらをお使いください」
典医がそう言いうと使用人がコルセットを差し出した。
「わかりました、先生ありがとうございます!……お茶を出して差し上げて」
「かしこまりました……先生、こちらに」
「いつもお気遣いありがとうございます。お大事になさってください。それでは」
典医はにこやかに席を立つと使用人に連れられて部屋を後にした。アッシュとアイギスの二人きりになる。
「……双魔に会いたいのは分かるけど、安静を忘れては駄目よ……コルセット、貸してみなさい。着けるのを手伝ってあげるわ」
「うん、ありがとう……」
アッシュはアイギスの言うままに立ち上がると両腕を肩に水平に上げた。アイギスがコルセットを巻いてくれる。
(……双魔と久しぶりに会える!みんなも元気かな?フェルゼンは先に回復したって言うし……うーん、流石だなぁ…………?……そう言えば……)
評議会の面々に一週間ぶりに会えることにウキウキしていたアッシュの脳裏に微かな記憶と疑問が浮かんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
場所は変わって学園近くの学生寮。その一室、鏡台の前に座ってイサベルが紫黒色の美しい髪を梳かしていた。イサベルも双魔から慰労会に誘われている。
双魔と食事ということだが、二人きりというわけではないのでいつも通りの動きやすいブラウスとスリムパンツのコーディネートだ。
「ベル、またそんな色気のない……伏見くんと食事なんでしょう?もう少し洒落た格好していってもいいんじゃない?例えば……これとか!」
横で雑誌を捲っていたはずの梓織を見ると何処から取り出したのかその手にはイサベルにとっては少々過激な露出が多い白を基調にしたカクテルドレスを手にしていた。
「そ、そんなドレス恥ずかしくて着られないわ!双魔君以外にもアッシュ君やマック=ロイさんだって来るんだから!……それに……双魔君なら普段の格好でも……その……可愛いって言ってくれるわ…………」
「あら?なあに?顔赤くしちゃって!最後の方声が小さくて聞こえなかったのだけど?」
「な、何でもないわ!からかわないでっ!」
「あらら?拗ねちゃったかしら?」
「……もう!…………?」
イサベルは視線を戻して再び髪を梳かしはじめた。鏡に映る自分の顔は赤くなっていた。そして、ふと、鏡の中の自分と梓織が持ちだしてきた白のドレスのイメージが重なり記憶が甦った。
(……そう言えば……)
離れた場所にいるアッシュとイサベルは同時に全く同じ疑問を感じていた。
「うーん……」
「…………」
(……”界極毒巨蛇”に気を取られててはっきり覚えてないけど……)
(……ロズールと闘っていた時の双魔君……)
((……女の子になってなかった?))
一度気になってしまえばどんどんと困惑が押し寄せてくる。家を出るまでの間、表情をくるくると変えながら悶々とし続ける二人の横顔を、アイギスと梓織は怪訝そうに見ているのであった。
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完結まであと3話ですので最後までどうぞお付き合いください!





