最後に……
「さて、そろそろ視界も霞んできたな……最後が近いみたいだ……というわけで最後の頼みを……聞いてくれるかい?」
「っ!?」
『小母様っ!?』
突如、穏やかに減衰していたロキの神気が急激に縮小した。黒い瞳は光を失い虚ろに宙を見上げていた。
「…………ん、最後の頼みってのはなんだ?」
数千年を孤独に、己の願いと不確かな使命にその命を捧げた一柱の神の最後の願いを聞き届けなければならない。叶えなければならない。若き神の転生者、魔術師、そして遺物使いである少年は熱を失った神の手を優しく、両手で包んだ。
「……は……な…………花を……君は……失わ……れた……世界樹……の……加護を受けて……いるから……ね……植物も……よく……使役す……る……だか……ら……手向けの……は……な……を……」
「……どんな花がいい?」
「……フ……フフッ……そう……だな……ああ、鏡華と……言ったかな?……あの子の……髪飾りのような……花が……いい……あれは……綺麗……だった……から……ね」
「……そうか…………アンタ、いい趣味してるよ……飛び切りの花を用意する」
「……ふ……お……ほめ……に……あずか……て……こ……えい…………だ」
ロキは弱弱しいながら変わらぬ人を食ったような言葉を微かに紡いだ。
「…………」
双魔は右手をロキの冷たい手をから離すと瞳を閉じて離した手の平を上に向けた。一筋の涙が頬を伝い、右手が淡い紫色の光に包まれる。光は徐々に強まり、やがて弾けたかと思うと結晶化し一輪の花へと姿を変えた。
気高くもどこか愛らしいく、そして寂しげにも見える紫色の花。輝きを帯びた目の前の死にゆく神の一生を象ったかのような美しい花が双魔の手に麗しく咲いた。
「………………アンタに俺が捧げる最初で……最後の贈り物だ……」
「……ふ……ふふ……あり……がと……う……も……見え……な……れど……わか……る、よ……き……れい……な…………はな……」
双魔は左手で握ったままでいたロキの手に花を持たせるとゆっくりと優しくロキの胸に冷たくなった手を置いた。
ロキの神気は最早ほとんど残ってはいなかった。この空間は間もなく崩れ去る。
「……そ……じゃ……いく……と……いい……そう……ま……き……と……だい……じょう……ぶ……さ……」
「……ん、色々あったけどアンタと話せて良かった……じゃあな」
『小母様……どうか安らかに』
「…………」
瞳を閉じたロキは双魔とフォルセティの別れの言葉に返事をすることはなかった。耳ももう聞こえていないのかもしれない。ただ、口元には笑みを浮かべていた。優しく、穏やかな笑みを浮かべていた。
目覚めないレーヴァテインを抱き抱える双魔とティルフィングの前に光の扉が現れる。
双魔は光の中に足を踏み入れる。扉は鏡華たちの許へと繋がっている。最後に、もう一度だけロキの顔を顧みた。最期を看取られた孤独な神はやはり笑みを浮かべていた。
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