レーヴァテインの想い
今回短めになってしまいました。ご容赦ください。
双魔は静かにティルフィングを構えなおした。剣気を放出することはない。真の姿を取り戻したフォルセティの力の化身”真実の剣”であるこの白銀のティルフィングの刃のみがロキに終焉をもたらすことができることを既に理解していた。
「”真実の剣”」
透き通るような女神の声と共にティルフィングの刃が白銀の閃光に包まれた。
『…………』
双魔に寄り添うフォルセティは何も言わなかった。ただ、その瞳にロキの姿を映し出している。
「…………」
輝きが収束する。準備は整った。一柱の神の願いを叶える時が訪れたのだ。”真実の剣”を携えた女神の転生たる魔術師は音もなく近づいてく。
一歩、二歩、三歩……宙を踏みしめるようにロキとの距離を消失させる。そして、刃がロキに届く双魔が、フォルセティがロキがそう思った時だった。
『………っ!やっぱり、ご主人様の命を奪うなんてそれがご主人様の願いであったとしても私は許せませんわ!』
蒼い炎が双魔とロキを隔てる壁の如く巻き上がった。悲痛な叫び声を上げたのはこの瞬間までロキの手に握られたまま沈黙を貫き通していたレーヴァテインだった。主を守るために自らの意思で膨大な剣気を放出したのだ。それは幾度となく衝突した蒼炎とは比べものにならないほどの炎熱を生み出した。
主を失う恐怖と主を守りたいという思いがレーヴァテインを限界まで燃え上がらせた。
「っ!」
突如現れた蒼炎の壁に双魔はティルフィングを水平に振るった。その一閃で壁は絹のように切り裂かれた。”真実の剣”を以ってすればレーヴァテインの剣気など障害にもならなかった。
思わぬ邪魔が入ったが今度こそロキの胸を刺し貫こうと双魔は狙いを定めティルフィングを突き出した、その瞬間だった。
双魔とロキの間に白い影が割って入った。双魔の手は止まることはなく白い影ごとロキの心臓を刺し貫いた。
「あっ……」
微かな声が聞こえた。白い影の正体は純白のドレスに身を包んだレーヴァテインだった。
胸を刺し貫かれたレーヴァテインの閉じられた瞳から涙が伝った。そのまま力なく気を失ったように動かなくなる。そんなレーヴァテインの華奢な身体をロキは優しく抱き留めていた。
「……レーヴァ」
ロキの黒い瞳には慈愛が浮かんでいた。母の子への愛が浮かんでいたのだ。
ティルフィングの刃は確かにレーヴァテインの胸を貫通し、ロキの心臓を刺し貫いていた。そのせいだろう、空間を圧迫するほどに膨大だったロキの神気が徐々に弱まっているように感じられる。神気の縮小と同時にレーヴァテインを抱きすくめたロキは落下していく。双魔の目的はまだ済んでいない。ロキに聞かねばならないことがあるのだ。
「”紅氷の山峰”」
瞬時に紅の剣気が迸り落ち行くロキの真下に巨大な氷山が出現させる。双魔はそのまま氷山の頂きに転移するとティルフィングを一閃した。
剣のように尖っていた山頂は平らかになる。ロキはまだ落ちてこない。
「配置”綿花の白詰草”」
平らかになった紅氷に足を下ろすと手を足元にかざす。山頂とほとんど同じ大きさの魔法円が浮かび上がり、一斉に緑の葉と白く丸い花が衝撃を吸収するクッションを生み出す。
その白い花園にロキとレーヴァテインは静かに着地するのだった。
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