表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
364/622

”閉じる者”

 閉じた瞼が瞳に闇を見せていた。全身に感じる冷たい風に双魔は静かに瞼を開く。闇から解き放たれた燐灰の眼には戦場の空が映った。


 目の前には豪奢なローブを纏った仮面の神霊ロズール改め女神ロキが金髪を風に靡かせ、黒い瞳でこちらを情熱的に見つめていた。口元には笑みが浮かんでいた。期待の中にある拭いきれない微かな不安を隠すような笑みだった。


 「…………」

 「…………」


 訪れた静寂にものを言う者は一人もいない。そして、数瞬が過ぎた後、初めに口を開いたのはロズールだった。


 「さて、私の顔を見て、名を呼ばれてすべてを思い出したようだけど……今の君はどちらだい?フォルセティかな?それとも双魔かな?」

 「……さあ、どっちだろうな?」


 瞳に光を取り戻した双魔は期待を隠しきれていないロキに笑って見せた。姿はフォルセティだ。ロキはこの言葉をどう受け取るだろうか。


 「フフフフッ……その憎まれ口、双魔だね?フォルセティの意識は表出してくれなかったか……残念だよ」

 肩を竦めて笑みを返すロキは明らかに落胆していた。求めていた結果がに辿り着けなかったと思っているのだろう。しかし、それはロキの早とちりに過ぎない。何故ならばこの場にはロキが永遠に求めて止まなかった彼女が既にいるのだから。

 「……アンタの言う通り、俺は双魔だが……こっちはどうかな?」

 「なんだって?ッ!?」


 双魔は敢えて挑発的にロキへと語りかけた。彼女は眉根を寄せて不快感を露にしたがすぐに息を吞むことになった。


 秋桜の可憐な花弁が何処からか舞った。ティルフィングを握る双魔の傍らに瓜二つの白銀の女神、フォルセティが姿を現した。二人で話した通り魂だけだ。そのせいで姿は半透明の幻のような乙女に儚い。しかし、フォルセティは確かにロキの前にいた。


 「……君は……君は……フォルセティなのかい?」


 道化のように、役者のように何処か胡散臭く大仰に振舞っていたロキの声が初めて震えた。


 『ええ、そうよ。私はフォルセティ。と言っても身体はこの子、双魔のものだから魂だけだけれど……改めて、お久しぶりねロキ小母様』

 「…………」


 フォルセティに微笑みかけられたロズールの頬に涙が伝った。


 「……フフフフッ……ハハハハハハハハハッ!!!……良かった……君にもう一度会えると信じていたよ!……さて、その前に言っておくことがあるかな?改めて名乗ろうロズールとは偽りの名……私の真の名はロキ!厄災をもたらす者、”閉じる者”ロキである!」


 感極まったのかロキは高らかに偽りなき己の名を明かした。神話に名を燦然と輝かせる終焉を導く狡知の神、その真の姿がそこにあった。


 「……ロキ、か…………改めて”神喰滅狼(フェンリル)”に”界極毒巨蛇(ミドガルズオルム)”……巨人の軍勢を引き連れているのも納得だ……」


 ロズール改めロキの言葉を聞いても双魔は特に驚くことはなかった。記憶は全て共有し、足りない部分もフォルセティに全て聞いてきた。後はロキを打ち倒し学園とロンドンの街を救う公への奉仕。


 そして、ロキしか知りえない話を聴かなければならない。自分自身とティルフィング、フォルセティにとって大切なことを成し遂げるだけだ。


 『……小母様……』

 「フフフフッ!フォルセティ、本当に久しぶりだね!君と会えたことで私の悲願は半分叶った……あともう半分だ……さあ!双魔!殺し合おう!そして私を越えてくれ!私を越えてくれ!さあ……さあ!さあ!さあ!」


 フォルセティとの対面を果たしたロキは既に眼の輝きが変わっていた。黒い瞳は爛々と光を放ち、動くたびに薄く光の筋を描いている。


 これまで片手で持っていたレーヴァテインの柄を両手で握りしめ、己の神気とレーヴァテインの蒼炎を迸らせ、今にも斬りかかってきそうな勢いだ。


 再会を切に願っていたフォルセティの悲しげな声にも反応を見せない。闘い、決着を着けるしか静寂を破った荒ぶる神を鎮める手段はないように見えた。


 「…………フォルセティ…………」

 『……いいのよ……少し話せたわ…………後はこれが終わってからにしましょう……お願い、双魔……小母様を、ロキ小母様を解放してあげて』

 「…………分かった」


 フォルセティは寂しさの中に一握りの満足を見せて微笑むと頷いて見せた。今やフォルセティの心と双魔は繋がっている。双魔は彼女の意思を汲んで力強く頷き返した。


 「さあ!双魔!麗しのフォルセティの転生たる魔術師よ!これが最後の闘いだ!全てを賭して闘おうじゃないか!」


 ロキが叫びながらレーヴァテインを振り上げ、その身に蒼炎を纏って一歩踏み出した。双魔は静かに自分の髪と同じ銀の輝きを放つティルフィングを構えた。


 両者は三度目の激突を果たす。それが最後の剣戟となることを確信して。



 いつも読んでくださってありがとうございます!レビューや感想お待ちしてます!

 本日もお疲れ様でした!それでは、よい夜を!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ