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無垢なる剣の生誕

 ブックマークが一気に3件増えました!あな、珍しや!

 「まずはティルフィングについてだけど……双魔もきっと夢で見ているはずよ?どうかしら?」


 両手を胸の前で合わせてフォルセティがまず口にしたのはティルフィングのことだった。こちらの思考が漏れているのか、はたまた同一人物と言うだけに思考が同じ名のかはさておき双魔も何よりまずティルフィングについて知りたかった。


 しかし、フォルセティの言うようにぼんやりとした記憶はあるものの明確なものではない。


 「あら?夢だからよく覚えてないのかしら?それなら……えいっ!」

 「っ!?……何を……って……これは…………」


 突然前に身を乗り出して手を伸ばしてきたフォルセティの細い指が双魔の額に触れた。面食らった双魔だったがまたすぐに押し黙った。脳裏には伏見双魔としてではなくフォルセティの記憶が勢いのいい湧水の如く溢れかえっていく。


 ふわふわと頭が浮くような感覚を覚え、やがて記憶の湧水が止まると双魔は思わず椅子に背を預けた。ツーッと額から一筋の汗が流れ落ちた。高密度の情報を一気に得たせいでどっと疲れてしまった。


 「どう?思い出した?」

 「……ん……何とか……」

 「そう!良かったわ!それじゃあ、やっぱり最初からお話ししましょうか!まず、ティルフィングが生まれるきっかけ何だけれど……」

 「……神々の王オーディーン、アンタにとっちゃ祖父さんか。オーディーンがグングニル以外の強力な遺物を欲した、だったか」

 「そうそう、あの頃の神々と巨人たちの関係は緊張状態だったのよ……それで、ね」


 当時の情勢によってオーディーンはいつの日か訪れる巨人たちとの最終決戦”神々の黄昏(ラグナロク)”を強く意識せざるを得なかったらしい。それを理由にオーディーンは戦力増強を図った。


 「神々の決議でおじい様のために新たな剣を作り出すことを決定したの。でも、どんな剣をどうやって作るのか、その判断は中々つかない。そこで私のお父様、バルドルが泉のミーミル翁に助言を求めに向かったの」

 「そして、ミーミルの助言に従いトールがティルフィングの素材を集めた、と」

 「ええ、返ってきたトール叔父様はそれはもう大変だったけれど仕事は早い方が父上もお喜びになるってエールを飲みながら豪快に笑っていたわ、お鬚に白い泡をたっぷりつけながらね!フフフッ!」


 フォルセティが可憐に笑うと記憶を共有している双魔の脳裏にも赤髭の大男が顔を真っ赤にしながら豪快に笑っている姿が浮かんだ。


 ”ミーミル”とはオーディーンの叔父にあたる巨人でとある事情により首だけの姿で知恵の泉を守っていたと言う。彼のミーミルは卓越した知恵を有し、オーディーンの良き相談役であったとされる。ティルフィングを生み出す原案はこのミーミルが授けたらしい。


 バルドルとはオーディーンの嫡子にしてフォルセティの父。光明を司り雄弁で慈愛の心を持ち、その輝く美貌に多くの者から愛された神だ。”神々の黄昏”開戦への導火線はこのバルドルが殺害されることによって一気に短くなったとされる。


 ”トール”はオーディーンの息子の一人でバルドルの異母弟。雷と農耕を司る北欧神話最強の神だ。赤毛と赤髭の大男で稲妻の象徴である遺物”ミョルニル”の他にも多くの遺物を保持していた。”神々の黄昏”では”界極毒巨蛇(ミドガルズオルム)”と相打ちになったと謳われる。


 「材料がそろったなら後は作るだけ!ロキ小母様の勧めに従って鍛冶の特異な小人族(ドヴェルグ)の中から一番の腕前を持つと言われていた鍛冶師をおじい様は召し出した。名前はドヴァーリン、荒っぽい小人のなかでも穏やかで優しい人格者だったわ。そして、知恵の泉の前でおじい様とミーミル翁立ち合いのもとティルフィングは生み出された……」


 小人の鍛冶師ドヴァーリンは不眠不休で剣を鍛え続けて七日ついに剣が完成した。


 剣は柄頭から鍔までが黄金、刃は半透明で、眩い銀色の光を放つ、実によく斬れそうな剣だった。


 オーディーンは剣をドヴァーリンから受け取ると自らの手で剣身にルーンの刻印を施した。半透明の刃は銀に色づき、剣の輝きはいっそう強くなりました。それを持って剣は完成。


 「完成した剣はそのまま強く光り輝くと銀髪の美しい少女に姿を変えた」

 「神話級遺物が人間態をとるのはまあ、当たり前だが……初めからって訳じゃないとは聞くな」

 「そう、グングニルもミョルニルも初めはただの槍であり、槌であった……あの子は初めから特別だったのよ……そして、その剣は”ティルフィング”と名付けられた。綺麗であの子にピッタリの名前!」

 「ん、そうだな……んでその後、ミーミルの勧めでティルフィングは鍛冶師ドヴァーリン夫妻に預けられた。その役目を果たす時が来るまで……」

 「ええ、ドヴァーリンの奥さんはドゥリンと言ってね、ドヴァーリンと同じく大らかで優しい小人だったわ……ティルフィングを我が子のように慈しんでくれた……ティルフィングはきっと幸せだったはずよ……きっと……」


 明るかったフォルセティの顔色が曇った。きっと双魔も同じような表情を浮かべているに違いない。二人は罪なきティルフィングに訪れる一つ目の悲劇を知っているのだから。



 いつも読んでくださってありがとうございます!レビューや感想お待ちしてます!

 本日もお疲れ様でした!それでは、よい夜を!


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