女神覚醒
伏線回収大変ですね……作家の皆様は凄いのです……。あと、オリンピック危険ですよね……日本の試合ついつい観ちゃうのです……。
「……”神々の黄昏”の最後、だと?」
「ああ、そうさ。君の知っている知識でいいよ?ああ、先に断っておくと本当に”神々の黄昏”の最後のことでいいよ。その後はありふれた一部の神々の復活と人間の繁栄、人の世の始まりだからね……どうだい?」
「…………」
双魔は突然の問いに戸惑っていた。ロズールの意図が読めない。正確にはこれまでも読み切れていない部分ばかりだが決戦に入ったかと思わせるこの時点で問答をしようとするなど理解に苦しむ。双魔は急いでいるのだ。仲間たちの救援に早く行かなければならない。
されど、この問いからは逃げられない何かがある。身体が、魂がそう言っているように感じた。そして、ゆっくりと唇を動かした。
「……”神々の黄昏”、主神オーディーンが率いる神と勇士たちの軍勢とムスペルヘイムの王スルトを中心とし悪神ロキやその子供である”神喰滅狼”、”界極毒巨蛇”数多の巨人、怪物たちの連合軍の最終決戦……その結果は……」
「その、結果は?」
一度言葉を切った双魔を促すようにロズールが言の葉を飛ばした。微かに窺える表情は物悲しいままだ。
「……結果は……オーディーンは”神喰滅狼”に飲み込まれ、雷神トールは”界極毒巨蛇”と相討つ。同じくヘイムダルはロキと相討ち、フレイはスルトに打ち破られ神々の軍勢は敗れる。世界樹はスルトの炎で焼き尽くされ、世界は無限の海に沈みゆく……それが”神々の黄昏”だ」
双魔の語りの中に登場した”スルト”とはムスペルヘイムの王である強大な巨人の名だ。フレイは妖精たちの王であり豊穣を司る神の名で神々の軍勢の中核を為す一柱である。
北欧の神代世界を形成する世界樹の崩壊、それが双魔の語る”神々の黄昏”の結果であった。
「……うん、流石よく勉強しているねっ!関心関心!」
「…………」
話を聞き終えたロズールは数瞬前まで醸し出していた物悲しげな雰囲気が嘘のように明るい声を出して見せた。
その落差に不気味さを感じた双魔は口を噤んでロズールの一挙手一投足を見逃さないように見つめた。が、ロズールは動かない。代わりにまた、口が動いた。今度は口元に幾度も見せた薄笑いが戻っていた。
「……でも、それが真実じゃないとしたら?君はどう思う?」
「真実じゃない?どういう……ッ!!」
「フフフフッ!続きはもう少し楽しんでからだよ!レーヴァ!」
『かしこまりましたわ!』
ロズールは双魔の興味を引かせるだけ引かせておいて話を切り上げレーヴァテインを振るった。ムスペルヘイムの巨人たちを凌駕する灼熱の蒼炎が幾重もの波となって双魔に襲い掛かる。
『ソーマ!』
「ああ!”紅氷の反射盾”!」
双魔もティルフィングもロズールの脈絡のなさには幾分か慣れてきたこともあってすぐさま剣気で分厚い盾を形成する。直径五メートルほどの巨大な盾で双魔側が凸面、ロズール側が凹面となっている。つまり、全てとはいかないがレーヴァテインの剣気をロズール目掛けて反射することが出来る。
ゴオオオオオオオオ!!
「おっと、やはり君は曲者だね!でも、さすがに一度見た手は喰わないよっ!」
ロズールはローブをはためかせて跳ね返ってきた蒼炎を振り払うとレーヴァテインを右斜めに斬り上げた。
ギィィィィィィン!!!
次の瞬間、レーヴァテインは何もなかった場所に現れたティルフィングと激突し甲高い音を上げた。再び冷気と炎熱がぶつかり合う。
「チッ!流石に迂闊だったか!」
空間転移で敢えて先ほどと同じ手を打った双魔だったがロズールは完璧に対応してきた。
「それじゃあ、また剣戟を楽しむとしようか!」
「チッ!」
ヒュッ!ギィィィン!ギィィィィン!ヒュンッ!ギィィィィィィン!
ロズールは先ほどと攻め方を変えて力ではなく速さで仕掛けてきた。風切り音と共に襲い掛かってくる斬撃を双魔は何とかいなしていく。
少しでも気を抜けば対応が間に合わず蒼の刃で真っ二つに焼き切られてしまうだろう。左右上下、左上右下右上左下、縦横無尽の剣筋に目だけでなく勘も合わせて対抗する。
「シッ!ッ!はっ!」
ギィィィィン!!
剣戟の衝撃で手は痺れ、身体を熱が襲う。そんな中、双魔の集中力は極限まで引き上げられていた。そして、この高速の剣戟においてそれが切れた時、敗北が決まってしまう。
「フフフフフフフフッ!」
ロズールはそんな双魔を見て楽し気にレーヴァテインを振るう。一方、白熱していたのは契約者同士だけではなかった。
『お姉様ッ!お姉様ッ!お姉様ァァァッ!!!!』
『いい加減にしろ貴様ぁ――――!!!』
相変わらずティルフィングへの執着を炎と共に荒ぶらせていたレーヴァテイン。ついにティルフィングの堪忍袋の緒が切れた。
パキッ!パキパキパキッ!パキンッ!
「ッ!これはッ!?レーヴァ!!」
『はっ!?かしこまりました!』
双魔の意図から外れたティルフィングの一瞬の暴走によって放出された凄まじい冷気に流石のロズールも動揺を見せた。レーヴァテインもロズールの鋭い声に我に返りすぐさま蒼炎の球壁の形成を試みた。が、それは致命的な隙だった。
双魔はティルフィングの暴走を予期していた訳ではない。しかし、これまで何度かあった同じような事態を経験していたことによってほとんど動じずに本来の鑑識眼を発揮することができた。
「”剣”ッ!」
「何ッ!?ぐあッ!」
『ご主人様ッ!?』
ロズールに生じた隙のおかげで双魔は自由になった左手を素早く掲げ、鋭い声と共に振り下ろした。直後、紅氷の剣が未形成で防御力の伴っていなかった蒼炎の壁を突き破りロズールの顔を直撃した。
ロズールは右手で顔を庇うように覆った。
主の上げた短い悲鳴にレーヴァテインは動揺を悪化させ、完成しかけていた蒼炎の球壁は崩壊する。
『ソーマっ!』
「んっ!シッ!」
生じた大きな隙に双魔はすかさず追撃を掛けんとティルフィングを大上段に振り上げ、袈裟懸けに振り下ろした。
ギィィィィィィン!!
しかし、次の瞬間双魔の耳に届いたのは肉を切る音ではなく既に幾度も聞いた二振りの魔剣がぶつかり合う音だった。
「……アンタ……本当に何なんだ?」
「……フフフフッ」
額から冷や汗を流しながらも口元に笑みを浮かべる双魔の問いにロズールは笑みを持って返した。数度目の鍔迫り合いだ。
が、双魔の一撃は確かにロズールに届いていた。
ピシッ!ピシピシッ!
視界一杯に映ったロズールの豪奢な仮面に薄っすらと直線のひびが入り真っ二つに割れた。
これまで隠されていたロズールの顔が突然露になった。双魔の視界は時の流れが急激に緩まった。割れた仮面がスローモーションで落下していく。
ヴェールの剝がされたロズールの顔。整った美術品のような鼻筋、長い睫毛の下には黒く輝く瞳があった。瞳を縁取る白い円、オニキスの如く怪しく、されど美しい瞳が二つ双魔を見つめていた。素顔が露になった妖艶な美女の額からは一筋の血が流れ、白い肌を伝っていく。
「……フフフッ……ついに仮面を剥がされてしまったね……どうだい?私の顔を見て何か思い出したかな? 双魔……いや、我が麗しのフォルセティ!」
「…………ッ!?」
……ドクンッ!……ドクンッ!!
『ソーマ!?ソーマ!どうしたのだ!?ソーマッ!!』
ロズールの熱烈な視線を受け、優しく放たれた言葉に耳を撫でられた瞬間、双魔の心臓は大きく脈打った。意識が混濁し、瞳の光が消えた。
「……ロ……キ……ロキ小母様?」
自然と、口が動いた。親しいはずもなく一度も読んだことのない名が流れでた。
双魔の身体を包む白銀の神気は輝きを強め、やがてその姿は女神へと転身するのだった。
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