進撃の号令
使ってるソフトのエラーメッセージが消えてくれないのでストレスを感じつつも執筆しています……。
「フフフフ……流石にあれくらいの奇襲じゃ物ともしないね。なかなかの連携力だ」
巨人たちに指図した張本人であるロズールはミドガルズオルムの頭に置かれた金の装飾が豪奢な椅子へと優雅に腰掛けて笑みを浮かべていた
「…………」
初手を破られたにもかかわらず楽しそうな主の横でレーヴァテインは黙って控えている。
「さてさて、後は普通に進軍でいいかな。レーヴァ、伝令を。歩兵隊、巨人部隊を前進、ムスペルも二体を残して同様に」
「かしこまりました」
ロズールは懐から黒い水晶玉を取り出すとレーヴァの方に放り投げた。手を離れた水晶玉はふわふわと宙を浮かび、レーヴァテインの手に収まった。
”黄昏の残滓”は個々に意思がある軍勢ではない。巨人たちはレーヴァテインの剣気に反応してこちらの命令を実行できるようになっており、それ以外の魔獣や戦士たちは前進とそれを阻むものに対しての攻撃のみを行うように設定してある。
「歩兵隊及び魔獣、前進。巨人部隊前進。ムスペル個体番号一から八まで前進。全軍進軍」
黒い水晶に蒼白い光が灯る。その数秒後、眼下に広がる軍勢が徐々に前進を始めた。
「先頭より順次突撃させよう」
「はい、最前列突撃開始。次列突撃用意……突撃開始。以下、同間隔で突撃」
「数の上では圧倒的に私たちが有利、それに加えて可愛い我が子たちもいる……若き遺物使い諸君はどうするかしばらく見物させてもらおう。永い時を過ごしたんだ最後に余興を楽しんでも文句は言われないだろうさ……ハハハハハハッ!」
「……グルルルル……」
「んー?どうしたんだい?フェンリル?お前の出番はまだまだだよ?」
ロズールの笑い声が止むミドガルズオルムの横にお座りの状態で控えているフェンリルが低い唸り声を上げた。見下ろすとフェンリルは一点を見つめて思うところがあるような仕草を見せていた。
「ご主人様」
「何だい?レーヴァ」
「恐らく、フェンリルはあの槍使いに興味があるのではありませんか?」
「ふむ……ロザリン=デヒティネ=キュクレインか……レーヴァの報告だと……」
「はい、スコルとハティを屠ったのはあの槍使いですわ」
「グルルルルッ……」
”スコル”と”ハティ”、その名にピクリと耳を動かしたフェンリルが再び低い唸り声を上げた。その黄金の瞳には静かな殺意と凍てついた憎悪が込められているように揺れていた。
「……そうか、我が子の仇を取りたいのか……まあ、私の孫でもあるわけだけどね。私は冷たいから仕方ないか!ハハッ!」
ロズールの口元に笑みが浮かんだ。可笑しくて笑うのではなく少し自嘲的な笑みだ。
「……分かった、フェンリル、お前は好きしていいよ。ただし、もう少し待ってからだ。いいね?」
「……ワフッ」
フェンリルは唸り声を収め、息を吐くように小さく吠えた。了承の合図だ。
「うん、いい子だ。レーヴァ、さっきも言ったけどしばらくは見物だ。君も少しくつろぐといい」
「かしこまりました……けれど……私も早くお姉様と楽しみたいですわ」
「……フフフッ、残念だけどレーヴァの出番はクライマックスだ。我慢して欲しいな」
珍しく我儘を言って見せたレーヴァテインにロズールは苦笑を浮かべた。
「……私の言うことが素直に聞けるのはお前だけだね。ミドガルズオルム」
「…………」
名前を呼ばれたミドガルズオルムは巨大な舌をチロチロと揺らして見せた。
「まあ、私もさっさと願いを叶えたいというのもあるんだけどね、渡り鳥のように跡を濁さずに。けど、永く過ごしていると気が長くなってしまってよくないね……きっと兄上も同じかな…………ハハハハハッ!」
何度も様々な笑みを浮かべたロズールはもう一度楽しげに笑うと独り言ちた。
仮面の奥の瞳はフェンリルが獲物を見定めたのと同じように広大な戦場の一点を、黒き魔剣を手にした少年だけを見つめていた。
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