ロザリンVS白狼二頭
ロザリンは夜闇の中を疾走、跳躍しながらゲイボルグに問うた。
「私に何かして貰いたいのかな?」
(……分からねぇ……ただ、奴らの攻撃は食らうな。嫌な予感がするからな)
答えるゲイボルグはいつものような茶化しは一切なく、真剣そのものだ。
「うん、わかった」
「グルルルルッ!バウッ!」
「おっと」
ロザリンが頷いたのを隙と捉えたのか一頭が鋭い牙を光らせて飛び込んでくる。
「バウッ!」
「わっ、こっちも?ひょいっと」
上半身を逸らせて噛みつきを避けたと思うと今度はそこにもう一頭が頭から飛び込んだ。
逸らせた上体をそのまま後ろに倒し、片手をついてバク転の要領で体当たりを回避する。
「ギャウンッ!」
そして空いた方の腕をしならせてゲイボルグの石突を突き出した。ロザリンの一撃は白狼の右足のつけ根辺りを捉え、悲痛な鳴き声が上がった。
ズドンッ!バシャアー!
吹き飛んだ白狼は無防備なまま近くの建物の屋上に設置されていた給水タンクに突っ込んだ。
「ッ!?グルルルルッ!」
それを見たもう一頭がタンクに突っ込んだ一頭を庇うように割って入った。
「うんうん、仲良しだね」
ロザリンはそんなことを言いながら二頭と距離を取り三つ隣の建物の屋根に降り立って態勢を整えた。
「避けるのもいいけど、攻撃しないと終わらないよ?」
(なるべく近接は避けるようにな)
「うんうん、それじゃあ、よいしょっと、”猛犬爪装”」
また気の抜けそうな声を出してロザリンが四肢に力を籠めるとゲイボルグから碧の剣気が噴出し両手両足を包んだ。
そのまま、剣気は凝固して手甲脚甲に変化する。
「それじゃあ、やろうかな?」
そう言ってロザリンがクルリとゲイボルグを回す。するとゲイボルグを握っていない左手に剣気が集中し、バチバチと空気が弾けた。
「えいっ」
その手を掛け声と共に白狼のたちの方へとかざすと剣気は幾本もの投槍へと変化し、飛翔した。
「「ッ!」」
剣気の投槍に態勢を立て直しつつあった白狼たちは瞬時に反応する。そして、あろうことか軽快なステップで槍を回避しながらロザリンへと疾走しはじめた。
「うーん、やっぱり剣気は必中じゃないね?」
ロザリンは首を傾げながらもう一度、二度と剣気の短槍を投げ続ける。が、足止めもとい時間稼ぎにはなっているようだがそれでも徐々に距離は詰められている。
「……あ」
そこで、ふと視界の端に黒い塊、ローブを纏った双魔がこちらに向かってくるのが見えた。
一生懸命に走っているようだが如何せんロザリンは高速移動が得意故、なかなか追いついてこない。
双魔が普通であって、逆に平然と追いついていた白狼たちがおかしいのだ。距離が離れていては双魔の援護も当てにはならない。
「…………そうだ」
が、そこでロザリンはあることを思いついた。そのまま、跳びまわるのをやめて少し低い建物の屋根にしっかりと両足をつける。
(ロザリン?どうするんだ?)
「大丈夫、大丈夫。いくよ」
ゲイボルグの問いを受け流してロザリンは四肢に力を込めた。
「ゲイボルグ”必中拡散枝垂柳”!」
そして解技を開放しゲイボルグを迫る白狼たち目掛けて思い切り投げ放った。
ロザリンの手を離れた瞬間、光り輝く深碧の槍は七条の光線へと姿を変え数多の軌跡を描きながら獲物を補足する。
「バウッ!……バウッ!」
白狼の片割れは危険性に気づいたのかすぐに身を翻して跳び回ってゲイボルグによる貫撃を避けようと奔走しはじめるが、もう一頭は蛮勇のままにロザリンへの突進をやめない。
「グルルルルッ!バッ!?ギャウンッ!」
三本の光線が白狼を捉え、刺し貫いた。その勢いのままに動きの止まった白狼の身体は後方へ吹っ飛んでいく。
「うんうん、いい感じ」
そう呟いたロザリンは手許に戻ってきたゲイボルグを華麗に受け止め頷いた。
手応えはあった。逃げた方の白狼も残った四条の光線が追っていく。ゲイボルグから直に放たれた槍撃はある程度の追尾機能がある。このまま行けばもう一頭も仕留められるはずだ。
意識をこちらに向かっていた双魔に向けると何やら揉めているようだが地面に墜落した方の白狼をしっかりと拘束してくれたようだった。
「大成功かな?……っ!?」
思った通り双魔は自分の意図を察して動いてくれた。これでもう一頭に集中できる。ロザリンが逃げ回っていた白狼に意識を向けた瞬間だった。
夜闇を切り裂くような鋭く、獰猛な気配がロザリンの全身に突き刺さった。
(ロザリンっ!気をつけろ、来るぞ!奴は……神獣の類だ!)
「……神獣」
「……ワオォォォォォォォォォオオン!」
大気を振るわせるほどの遠吠えが響き渡る。白狼の身体は遠吠えに合わせて一回り大きくなり、ギラリと双眸を金色に輝かせてロザリンを睨みつけた。
ビリビリと肌が痺れる。先ほどまでとは全く異なる、獣性が覚醒した神々しくも一抹の禍々しさを備えた白き獣がそこに立っていた。
「…………」
明らかなる強敵を、ロザリンは翡翠の右眼に見据え、静かに愛槍を握り直した。
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