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修羅場の予感……?

 今日の鍋奉行は左文だ。手慣れた様子で的確なタイミングで具材を入れていき、しばらくすると生姜鍋が完成した。


 生姜鍋とは書いて字の通り生姜を大量に使った鍋だ。だしにすりおろした生姜を入れた汁で具材を煮込む。


 「さっ、出来上がりましたよ!取り分けますね」


 左文は器を手にすると具材と汁を入れて各々の前に置いていき、瞬く間に四人分が行きわたる。


 「玻璃は?」

 「此方……は……遠慮……す……る……」

 「そ、気変わったら言い」

 「承……知……し……た」

 「ん、じゃあ、食べるか、いただきます」

 「いただきますだ!」

 「いただきます」

 「どうぞ、お召し上がりください」


 双魔はまず、薄く色づいた汁からゆっくりと口に含んだ。


 生姜とだしの香りが鼻に抜け、少し辛みを感じさせる生姜の風味が喉を通って胃に到達するまでにじんわりと身体の芯から温めてくれる。


 「ん、美味い……」


 次にティルフィングが作ったという鶏団子を口にする。肉汁と生姜の旨味が口いっぱいに広がる。噛むごとに感じる細かく刻まれた生姜と葱の食感もいいアクセントになっている。


 「うむ!美味だ!やはり鍋はいいな!」

 「ほんと、流石、左文はんやな……うちも敵わんわ」

 「そのようなことはありませんよ。鏡華様も十分お料理はお上手です」

 「そう言われて悪い気はしぃひんけど……うーん、うちも修行が足りひんわぁ」


 双魔が黙々と食べる一方、ティルフィングたちも楽し気に箸を進めている。


 双魔が二杯、ティルフィングが四杯、鏡華と左文が一杯お代わりをする頃には鍋の具はすっかりなくなり、締めのうどんを投入して四人は最後まで鍋を堪能したのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 「あー、食った食った……身体を温めるにはやっぱり生姜だな」


 食事を終え、食後のお茶まで済ませた双魔は自室の椅子にゆったりと腰を掛けてパラパラと本のページを捲っていた。


 暖房と生姜鍋のおかげで帰ってきたときには冷え切っていた身体も内外から温まっている。


 この時間に自分の部屋で過ごすのは久々だ。一人でいれば無意識に気を遣うこともないので心の底から緩み切っていた。


 温まった身体、緩んだ心、心地の良い満腹感に、溜まった疲れ。自然と瞼が重くなってゆく。


 (……ま……ずい……風呂……まだ……なの……に……)


 今、風呂には鏡華かティルフィングと左文が入っているはずだ。


 出来れば風呂に入ってからベッドで寝たい。このまま椅子で寝て確実には身体を痛める。


 しかし、思っていたより疲れが溜まっていたのか意思に反して瞼は閉じていく一方だ。


 最早眠りに落ちる寸前そう思った瞬間だった。


 コンッ、コンッ、コンッ。


 部屋のドアが控えめにノックされた。その音で意識が一気に引き上げられる。


 「っ!……ん、入っていいぞ」

 『…………』


 眠気眼をこすりながら扉の向こうの誰か、と言っても鏡華か左文だろう。その誰かに部屋の中に入るように声を掛けるが一向に入ってく様子はない。


 「…………?よっこらせっと……」


 向こうから入ってくる気はないらしく、仕方ないので立ち上がって扉を開ける。


 「誰だー……なんだ……何か用か?」

 「…………」


 扉を開けるとそこには白の襦袢に紺の羽織り姿の鏡華が立っていた。


 「……入ってええ?」

 「いや、いいって言っただろ……」

 「……うん」


 少し俯き気味な鏡華に何やら不穏な空気を感じ出ないでもないが鏡華も部屋に入れる。


 「よっ……と、で?どうしたんだ?」


 双魔は椅子に座りなおすと部屋の真ん中でこちらを向いて立ったままでいる鏡華と目を合わせた。


 風呂上がりから間もないらしき鏡華の白い肌は火照って赤くなり、襦袢の薄い生地が所々身体にぴったりとくっついていてかなり艶っぽい。


 (…………目の毒だな)


 余りの艶やかさに目を逸らしたくなるがジッとこちらを見つめている褐色の瞳はそれを許してはくれなかった。


 「…………双魔」


 しばし、見つめ合った後、鏡華は唇を艶やかな小さな唇を動かした。


 「……ん?」

 「立って、こっち来て」

 「…………ん」


 鏡華の言われた通り、双魔は再び立ち上がると鏡華の手が届くであろう距離まで近づいた。


 「そのまま、両手、上げて」

 「……?ああ……っておい……」


 双魔が降参するように両手を頭の辺りまで上げた途端、鏡華はそそっと距離を詰め、双魔の胸に柔らかくもたれかかった。


 「ふふふ……双魔とくっつくの、久しぶりやなぁ……ふふふ……」

 「俺はまだ風呂に入ってないから汚いぞ……汗の臭いもするだろうし……」

 「ええの、女は好いた男の匂いを感じたら安心するもんやさかい……」


 双魔の文句には構わず鏡華はさらに身体を預けてくる。


 (……まあ…………そんなもんか…………)


 双魔は行き場を失っていた両腕を鏡華の背に回して軽く力を入れた。思いきり抱き締めたなら壊れてしまいそうなほど華奢な身体だ。双魔の鼻腔を鏡華の甘い匂いとシャンプーの匂いが混じった蠱惑的な香りがくすぐった。


 (…………こういうドキッとするのはやめてほしいんだが…………)


 普段は一歩引いているくせに時折大胆になる鏡華に少々困惑する双魔。一方、鏡華は双魔の胸に顔をうずめてご満悦の様子だ。


 「うーん……やっぱり、安心するわぁ…………あら?」

 「ん?どうした?」

 「…………何や、うちやない女の匂いが混ざっとるねぇ……ふふふ……双魔?」


 鏡華は冷たい声を出すと双魔の肌をシャツ越しに軽くつねった。


 「っ!?いやっ!その……だな…………」


 突然、雰囲気が変わった鏡華に双魔の中に戦慄が走った。


 ”うち以外の女”にはばっちり心当たりがある。なにせ、双魔は家に帰ってくる直前までイサベルといたのだから。


 温まったはずの身体からサーッと熱が引いていき、背筋に冷や汗が伝うのをはっきりと感じた。


 いつも読んでくださってありがとうございます!よろしかったらブックマークしていただけると嬉しいです!レビューや感想もお待ちしてます!評価はどうぞお手柔らかに……。

 本日もお疲れ様でした!それでは、よい夜を!

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