二度あることは……(サードインパクト)
チーン!
最早聞き慣れた時計塔の魔力動エレベーターが目的の階に到着したことを知らせる甲高いベルの音を響かせ、扉を開いた。
双魔はゆるりと降りると仄暗い廊下を進む。
いつもはあと数時間後にここを歩いているのだが今日はロザリンが評議会に参加したいとのことなので早めに迎えに来た。
『みんなに迷惑かけてる自覚はあるし……私も頑張って早起きする』
昨日の別れ際、そう言ったロザリンの表情は通常時のぼんやりとしたものではなく、確かな罪悪感が滲み出ていた。
今までは議長の身であったにはあったが、ゲイボルグが強く反対したらしく評議会に参加できたのも指で数えられる程度だとロザリンは唇を尖らせていた。
が、何故か”双魔が一緒”という条件であっさりと許しが出たらしい。
ロザリンとの親交がまってから分かったのは普段は飄々としているゲイボルグがロザリンに対しては異様に過保護だということだ。
その癖、最初に”Anna”に行った時を境にロザリンと双魔が一緒にいる時には姿を現さない。
ロザリン曰く「後輩君が帰ると入れ替わりで戻ってくるよ?」とのことだった。
(…………駄目だ、ゲイボルグの意図が全く読めん)
こめかみをグリグリと刺激しながらも足は止めず、廊下も大して長くないので気づくとロザリンの部屋の扉が目の前にあった。
コンッ、コンッ、コンッ!
「おはようございます、ロザリンさん起きてますか?」
最初のうちは遠慮気味にノックをしていた双魔だったが今やそれも面倒になったので遠慮なく扉を打ち鳴らす。
『うん、起きてるよ……今開けるね』
「っ!」
いつもは眠たげな声が返って来るのだが今日は何とはっきりと返事が返ってきた。
虚を突かれた双魔の隙をついて扉が開く。
「っ!!?」
双魔は咄嗟に手で目を覆った。
部屋の主はまたあられもない、且つ刺激的な姿で現れるかもしれない。年頃の男子としての興味は葛藤するまでもなく良心に跳ねのけられた。
「……後輩君?どうしたの?」
扉を開けた途端に視界に入った目を塞いだ双魔にロザリンが不思議そうな声音を出した。
「……ロザリンさん、確認ですけど……服はしっかり着てますか?」
「服?うん、着てるよ?」
「前も言いましたけど……下着は服の内に入りませんからね?」
「??ちゃんと制服、着てるよ?今日は早く来てって頼んだから、早起きして準備は済ませてあるから」
「……そうですか」
双魔はぴったりとくっつけていた指を僅かに離して隙間を作るとロザリンの服装を確認した。
(…………本当だ、着てる……心臓に悪過ぎる…………)
確かに、半分開いた扉からひょっこりと上半身を覗かせたロザリンは遺物科の制服をしっかりと着ていた。
双魔は脱力して、そのままを覆っていた手を腕ごとだらりと垂らした。
「うん、やっと顔が見えたね?おはよう、後輩君」
「はい、おはようございます……」
「……スンスン……?疲れてる?昨日はちゃんと寝た?」
「ええ、大丈夫です」
ロザリンは鼻を鳴らすと心配げに見えなくもない無表情で再び首を傾げた。
本人から聞いたところによるとロザリンは相当鼻が利くらしい。また滅多にやることはないが人や動物を舐めると考えていることやら魔力の質やらが何となくわかるらしい。
最初に”Annna”に行った時の突然双魔の頬を舐めるという刺激的な行為は「後輩君がどんな人か知りたかったから」というのが本人の弁だ。
今も双魔の気疲れを察知して気遣ってくれたのだろう。と、言ってもその原因が自分であることにロザリンは全く気づいていない。
「もう少しで準備終わるから入って?」
「ん、分かりました。失礼します」
ロザリンが部屋の中に姿を消したので、双魔は誘われるがまま扉を開けた。
「いらっしゃーい」
「…………失礼しました」
吞気な声で歓迎の言葉を発するロザリンの後ろ姿を目にした双魔は絶句し、ドアノブを離すことなくそのまま扉を閉じた。
バタンッ!
『あれ?後輩君?どうしたの?』
扉の向こうからロザリンの声が聞こえてくる。
「……服を着るって言うのは上下揃ってですからね!スカートはどうしたんですか!?」
滅多に大きな声を出さない双魔だが、今回ばかりは我慢が利かず声を荒げてしまった。
そう、ロザリンは確かに、服を着ていた……上半身だけ。
双魔が目にしたロザリンの形のいいお尻は触れれば破れてしまうような薄布、すなわちレースのパンツで覆われているのみだったのだ。
ちなみに色は白だった。
『うん?あ、本当だ、スカート履くの忘れてたよ』
「忘れてたよ、じゃありません!もう、このまま外で待ちますからしっかり準備が終わってから出てきてください!」
『??後輩君、怒ってる?』
「怒ってませんよ!」
『うん、ならよかった。じゃあ、もう少し待ってね』
双魔の答えに納得したのかクローゼットを開く音とスカートを履いているらしき絹すれの音が廊下に聞こえてくる。
「…………あーーーー…………」
双魔は壁に背中を預け、そのままズルズルとローブを擦らせながらしゃがみ込むと本日三度目の情けない声を上げるのだった。
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