はたらくアメリア
「おー……なんか大人っぽい店だね?」
双魔のいつもの店と言えば”Anna”の他にはない。
少々古惚けた木製の看板と入り口から漂う洒脱な温かさと熟成された雰囲気にロザリンは感嘆の声を上げた。
「ヒッヒッヒ!中々いい店知ってるじゃねぇか!」
楽しそうな声で尻尾をゆらゆらと揺らしているゲイボルグを見てたまたま通りがかった夫婦がギョッとした顔をしていた。
それも当たり前だ。ゲイボルグの姿は大きな犬なのだから。
(…………動物は大丈夫だったか?…………まあ、遺物だし、何とかなるか…………)
このパブの主人であるセオドアは双魔の両親やハシーシュの友人で遺物などにも理解がある人物だ。恐らく大丈夫だろう。
(一応、聞いてみるか……)
そんなことを考えながら扉に手を掛ける。
カランッ!カランッ!
扉を押すと来客を告げる鈴がけたたましく鳴った。
「どうぞ」
「んー、ありがとう……おー、賑わってるね」
扉を押さえてロザリンとゲイボルグを店に入れる。店内はいつも通り繁盛しているようでグラスがぶつかり合う高い音や豪快な笑い声が響き渡ってくる。
「いらっしゃいませっス!……って伏見くんじゃないッスか!お疲れ様っス!」
店員の一人がポニーテールをフリフリ、エプロンをひらひらさせながら元気よく寄ってくる。彼女は顔見知りこの店でアルバイトをしているイサベルの友人でクラスメイト三人娘の一人、アメリアだ。
「……ギオーネか」
「ややっ!?今日は一人じゃないッスね?…………ムムム?また、女の子連れて……って!?遺物科の議長さんじゃないっスか!?え!?なんで!?お嬢と六道さんがいるのに…………まさかっ!三人目っスか!?」
「…………?」
驚くアメリアにロザリンは不思議そうに首を傾げている。
双魔は後ろめたいことは特に無いので普通にしているがアメリアのハイテンションにげんなりだ。
「おい……声が高い、それに人聞きも悪いからやめろ……先輩と飯食いに来るくらい普通だ……」
「おっと!これは失礼したっス!取り敢えずいつもの席で……って大きなワンちゃんがいるっス!?」
「ヒッヒッヒ!面白れぇ嬢ちゃんだな?双魔、知り合いなんだろ?」
「しかも喋ったっスッ!!」
アメリアが騒ぎ過ぎたのか食事や酒を楽しんでいた客たちがチラチラとこちらに視線を送ってくる。
ゲイボルグを見て驚いている客も多い。普通の大型犬より二回りほど大きな緑色の犬が店の中に入ってきたのだから当たり前と言えば当たり前だ。
「アメリアちゃん、どうしたんだい?」
「あっ!マスター!」
流石に気になったのか普段はカウンターの奥の方でバーテンに徹しているセオドアが出てきた。
「おや、双魔じゃないか」
「ん、お疲れさん、マスター」
「…………ああ、今日は一人じゃないんだね。いつもの席においで。アメリアちゃんは他のお客さんたちのところに戻っていいよ」
「りょ、了解っス!じゃあ、伏見くんあとでお話聞きに行くっス!」
セオドアはロザリンとゲイボルグに視線を遣るとアメリアが大きな声を出していた事情を全て察したのかゲイボルグの入店を認め、アメリアに指示を出して奥へと戻っていった。
アメリアも忙しなく接客に戻る。
「…………いいの?」
ロザリンもゲイボルグが店に入れるのか心配だったのかチラリとゲイボルグと目を合わせてから双魔に訊ねてきた。
「ああ、大丈夫みたいですよ……行きましょう、こっちです」
「……うん、分かった」
ロザリンはコクリと頷くと奥のカウンターへと向かう双魔の後をついてくる。ゲイボルグもロザリンに続く。
「おー!でかい犬だな!ガハハハッ!」
「何でこんなところに犬が……ってそんなこたぁどうでもいいか!今日も酒がうまいぜ!」
「違ぇねぇ!乾杯だ!乾杯!って酒がねぇ!アメリアちゃーん!」
「はーい!ご注文っスか?」
「おじさんたちにビール三つちょうだーい!」
「かしこまりましたッスー!」
「んー!アメリアちゃんは今日も可愛いなー!」
「本当、本当!」
ゲイボルグが注目を浴びるかと思ったがそうでもなかった。この店常連の気のいい酔っ払いたちには些細なことだったのだろう。
パブ”Anna”の賑やかさは突然訪れた異分子を一瞬で溶け込ませ温かな酒場を作り上げた。
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