ふわふわ傀儡姫
あけましておめでとうございます!今年もどうぞよろしくお願いいたします<(_ _)>
元旦からブックマークが1件増えていました!中々幸先いい感じです!
今年も頑張っていきたいと思います!
二月のとある日曜日、ブリタニア王立魔導学園、事務棟の三階の一室。シンプルながら豪奢さを醸し出す扉の上には”魔術科評議会室”の文字が刻まれた木札が掲げられている。
「じゃあ、遺物科の評議会と学園祭についての交渉をしてきます」
「ほいよー、いってらー」
吞気な声に送られて扉が開き、リノリウムの廊下に一人の少女が姿を現した。
動きやすそうな白のシャツブラウスと紺のスキニーパンツの上に魔術科指定のローブを羽織り、紫黒色の髪の美しい、凛とした風貌。魔術科評議会の新副議長イサベル=イブン=ガビロール、その人だ。
日曜日は基本的に講義はないのだが、今日は評議会の仕事で学園に来ている。
出て来た部屋の中から聞こえてくる間延びしたやる気のなさそうな声を遮るように手早く扉を閉めると手にしたファイルの中の書類を確認し、それから歩きだした。
イサベルは人のいない廊下を音も立てずに一定のリズムで進んでいく。
それに合わせてトレードマークのサイドテールが前後にフリフリと揺れている。
イサベルの表情は普段通りの真面目さを保っているのだが、足取りと言い、髪の揺れ具合と言い、心なしか嬉しそうに見える。
そして、それは歩いているうちに表情にも伝播し、口元には笑みが浮かび、顔色もつやつやと輝いているようだ。
イサベルのテンションが目に見えて上がっているのは何故か。その理由はすぐに視界に入った。
歩くこと一分と少し、目の前にイサベルが出てきた部屋と同じような扉が見えてきた。
扉の上の木札には”遺物科評議会室”の文字。その名の通り、遺物科評議会の執務室だ。
魔術科評議会と同じく事務棟の三階の時計塔に近い位置にその部屋はある。
時計塔に近いのは時計塔にある職員や学生の契約遺物たちの社交の場である”サロン”に近い方が何かと便利であるとのことらしい。
しかし、イサベルにとってそんなことはどうでもいい。大事なのは遺物科評議会室に誰がいるということだった。
遺物科評議会室には遺物科の評議会メンバーがいるに決まっている。
つまり、愛しの双魔がいるのだ。
昨年末、双魔が遺物科の副議長になったことを契機にイサベルは魔術科の選挙で必要以上の実力を見せつけ双魔と同じ副議長になった。
副議長は各科間の交渉を担当することが多いため必然的に双魔と話せる機会が増えるに違いないとの下心があったことに後ろめたさを感じないでもなかったが、それはそれ。やはり好きな人に会えるのは嬉しい。
先月にはひょんなことから互いの両親公認の仲になることができた。
双魔には鏡華と言う正妻がいるので独り占めという訳にはいかないが、その鏡華も実に聡明な人で自分を排除しようとはせずに、友人として、同じく双魔を好いた者として受け入れてくれた。あらゆる面でイサベルは絶好調だ。
鏡華のように長い付き合いとは言えないので少々ぎこちない所はあるが、鏡華も加えて三人で出掛けたり二人きりでデートも何度かした。
過激なことをしたわけではないが短期間で自然に手を繋げる程に仲は進展している。
(わ、私ったら……な、何を考えているのかしら!?い、今はそういう時じゃないわ!)
気づくと遺物科の評議会室の目の前まで来ていた。
双魔との甘い時間を思い出し、朱に染まった顔をぶんぶんと振って浮ついた気分を振り払う。
ここ数日は会えていなかったので、会えると思うと自然と心も身体ものぼせ上ってしまうのだ。
「…………スー……ハーーー……スー……ハ――……よし!」
ついでに深呼吸をして騒ぎだした胸の鼓動を落ち着かせると意を決して扉を叩く。
コンッ、コンッ、コンッ!
『はーい、どなたですか?』
少し疲れているようだが明るい声が扉の向こうから聞こえてきた。この声は聞き覚えがある。双魔の友人で書記のアッシュ=オーエンの声だろう。
「魔術科のイサベル=イブン=ガビロールよ。来季の学園祭について確認したいことがあって来たわ」
『あ、ガビロールさんですか、どうぞー』
「失礼するわ」
慣れてきたとは言え、双魔と会うのはやはりドキドキする。
胸のときめきを感じながら、イサベルはドアノブに手を掛け、扉を押した。
「こんにちは、双魔君はいるかしら……って……え?な、なにこれ!?」
室内の光景を目にした瞬間、イサベルの表情から乙女な色は消え去り、驚愕に染まるのだった。
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