賢翁の弁明
こんばんは!久々に高評価がいただけたようで嬉しい限りです。今年もあと三日なので最後まで頑張りたいところ。
『それでは話してもらおうか、その事情とやらを』
「うむ…………そうじゃな、まず先に確認しておくとじゃ。魔術師が魔術協会に所属し、その序列が定められるのは魔導学園などで学を修めた後という規定になっている……それは良いな?」
ヴォーダンの問いに聞かれた三人は各々肯定して見せた。
ヴォーダンの語った規定は魔術師個人の自由や保護を観点に魔術協会が定めた決まりだ。
子供という存在はあらゆる意味で純粋さが大人よりも高いため、悪意の被害を受けやすい。
故に、魔導学園等教育施設を卒業し、一人前になる前は世界に晒さずに保護すると言う理念に基づいたものだ。
そもそも、大人と子供の魔術の腕は比べ物にならない。
もし仮に魔導学園在学中の魔術師の雛や卵たちを序列に入れたとしてもそのほとんどが最下層に留まるだろう。
「しかし、一部、例外も存在する」
「…………つまり、私と同じってこと?」
「うむ、そうじゃ…………例の魔術師は若年故に序列に入ることはないはずなのじゃが…………その固有魔術の強力さ故に序列に入れざるを得んかった」
どの業界においてもだが、幼くして突出した能力を持つ神の子のような存在が稀に発生する。
その場合、どうするか。
それはその幼き天才を一人前とし、その上で別の配慮を加えると言う処置を取る。
強大な力を持つ者にある程度の地位を与えることはその者自身を守ることに繋がる故だ。
例を挙げれば、本人が言った通りヴィヴィアンヌだ。
彼女は在学中に先祖であるマーリンから受け継いだ魔力が覚醒し、同年代、また並みの魔術師とは比肩するべくもない強力な力と固有魔術を身に着けた結果、在学中に”枢機卿”のトップクラスの序列を与えられ、卒業後すぐに”叡智”の席に座った。
「儂とジルニトラはよく話し合った上でその者を”枢機卿”にすることを決めた。そこでその者の保護者とも言える存在に接触したんじゃが…………」
『にべもなく断られたか?』
呂尚の言葉にヴォーダンは重々しく頷いて見せた。
「うむ…………その保護者は儂や呂尚、マーリンに匹敵、場合によってはそれ以上の力を持つ者でな…………」
「噓でしょ!?」
衝撃の発言に驚きを露にしたのはヴィヴィアンヌだった。
それもそのはず、現在この世界に存在する魔術師でヴォーダンが挙げた三人より上の実力を持つ者はいないはずだからだ。
秘境などに隠れ住んで表に出てこない神に準ずる者や神獣、魔獣も三人は敵わないとされる。
『ナハハハ!ヴィヴィちゃんはやっぱりまだ若いね!視野はもっと広く持たなきゃ!表に出てこない怪物なんてゴロゴロいるよ!中には神代から残る爆弾とかもあるし!』
『小童!』
『僕は本当のことを言ってるだけじゃないか!』
『今話すことでもないじゃろうが!』
「お二人とも、今は暫し……」
茫然としているヴィヴィアンヌを横に口喧嘩をはじめそうな二人を沈黙していた晴久が止める。
「まあ、兎も角、大人しくしている化物たちは儂らが思っているより多くいるということじゃ。そこは子牙殿の言う通りじゃ……」
『して、結局は序列入りは叶ったのか?』
「うむ、彼奴は聡明な者だった故、儂とジルニトラが説く利も理解したのじゃろう。かなり厳しい条件付きじゃが彼奴の幼い弟子を”枢機卿”とすることを許可してくれた」
「その、厳しい条件って何?」
理解が追いついたヴィヴィアンヌが会話に戻ってきた。
「そこが、先ほどお主が指摘したことじゃ…………」
「……つまり……一切情報を公開しないってこと…………かしら?」
『ああ、それだけは徹底するように、と……『我が弟子は賢い故自ら世に出る機会を決める。己の立場も良く理解し、”枢機卿”の名を悪用することもない。貴様らが我が弟子に過干渉しないならば我は何も言わん。但し、何かあれば、例え世界が滅びようと文句は言わせん』と凄まじい脅迫をされた…………役目とはいえ、要らぬ心労は負いたくないものだ…………』
その時のことを思い出しているのかジルニトラは遠い目をしていた。
ヴォーダンもそれを見て思わず苦笑した。
「フォッフォッフォ…………あのように脅されたことなどそうない、忘れられんな…………」
『お主らにそこまで強く出る者か…………そうすると心当たりは数えるほどじゃが……まあ、考えるだけ野暮じゃな』
「子牙殿はよく分かっておるのう!フォッフォッフォ!」
『ひょっひょひょっ!世界が滅んでは堪らん故な!』
老人二人の高笑いを聞きながら、初めに詰問しようとしたヴィヴィアンヌの表情からは一瞬、覗かせた激情が一片も残らず消えていた。
「…………私が子供だったわ……世の中には触れない方が良いこともあるのね……」
『うむ!驕らず反省するその態度やよし!ヴィヴィは若いからのう、その辺は段々と判断できるようになるじゃろうて』
「今は”名も無き枢機卿”でも必ず世には出てくる。もし、その時、助けを求められたら、快く手を貸してやって欲しい。悪い者ではない故な。頼むぞ、ヴィヴィアンヌ」
「……ええ!分かったわ!」
尊敬する先人二人に諭されてヴィヴィアンヌは万事納得したようだった。
口を噤んでいた晴久も、ジルニトラもホッとした表情を浮かべた。
一件落着、と思いきやこの場には長い時を生きている癖に我慢が出来ず、悪気無く厄介事を呼び込む者がいることを、ヴォーダンたちは失念していたのだった。
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