蒼き少女の助言
こんばんは!今回で6章が終わりまして、次の更新から7章に入っていきます!本当はもう少しコンパクトにしたいのですが……つい、長々と書いてしまうので、ご愛敬と思ってお許しのほどを……。
そんな感じで今回もよろしくお願いします!
それまで影もなく、一切の気配も感じなかった少女がベッドにゆったりと腰掛けて、優雅な笑みを浮かべている。
炎のように逆巻く蒼髪、陶器のように白い肌、細雪を思わせる華奢な身体。
身に纏うは純白のドレス。頭にはドレスと同じく純白のつばの広いキャペリンを被っている。そのつばの奥からは蒼い瞳、見つめられた者を凍てつかせるであろう剣呑さを帯びた眼差しが自分に向けられていた。
「フフッ……フフフフフ、どうしましたの?そのように顔を蒼くなさって……」
「っ…………!」
オーギュストの身体は時が止まったかのように動かない、動いてくれない。
(こ、こいつ……な、何者!?…………なに!?)
混乱渦巻く、思考と共に、ある一点にオーギュストの視点が定まった。
蒼き少女の手元、何かを撫でるように手を動かしている。
そして、撫でられているのはベッドの上に置かれた、古めかしく、厳重に封を施された革製のトランクだった。
「き、貴様!それから離れろッ!!」
直後、時間の凍結が瞬時に終わり身体が動く。勢いのままにベッドに飛び込んだ。
「あら?あらあら…………」
それを察知してか少女はトランクをそのままにふわりと跳び上がると窓際のスペースに着地した。
「…………っ!!」
オーギュストはトランクに覆いかぶさるようにして両手で抱き上げるとそそくさと立ち上がり、謎の少女から一瞬たりとも目を離さないよう、足早に部屋の入り口のドアの前まで後退した。
「き、きき貴様!な、何者だ!?」
「フフッ……ウフフフフ!おかしなお顔ですわね!?そんなに慌てることはなくてよ?私、貴方に一言、助言しに参りましたの……」
「じょ、助言だと?」
オーギュストの問いが耳に入っていないのか少女は名乗ることなく一方的に自分の用向きを済ませるようだ。
得体の知れない恐怖に晒されたオーギュストはトランクを抱きしめて少女の言葉を繰り返すのが精一杯だ。
自分の実力に絶対の自信を持つオーギュストだが、目の前の少女を相手にしてはいけないと本能が叫んでいた。
「貴方、今からお姉……あ、此度は違うのかしら?兎も角、決闘をなさるのでしょう?」
「……っ!……っ!」
首を可愛らしく傾げる少女にオーギュストは大きく頷いて応える。
「はっきり言ってしまいますけど、残念ながら、貴方は勝てませんわ。決して」
少女の口から発された言葉は聞き捨てならなかった。
自分があのような伝手と遺物の加護だけが取り柄の子供に負けるとは思わない。そう言おうとしたが、再び身体が固まって、口が開かない。
「ですが……それを使えば話は別ですわ」
そう言うと少女はオーギュストを、否、オーギュストが抱えているトランクを指差した。
「もし、どうしても、どうしても勝ちたくて、それでも勝利が叶わない、そう思ったなら…………それを使って、貴方の最もお得意とする魔術を行使することをお勧めしますわ……それでは、これにて失礼いたしますわね?フフッ、ごきげんよう」
少女はドレスの両裾を摘まみ上げ、ぺこりと一礼するとその姿を揺らめかせ、空気に溶けるようにその姿を消した。
「…………っ!はー……はー…………な、何だったんだ?」
数瞬後、オーギュストは硬直から解放され、大いに呼吸を乱した。
突然、そして僅かな間の出来事に理解が追いつかない。ただ、一言だけ。
『それを使って、貴方の最も得意な魔術を……』
幻のような少女の言葉が脳にこびりついていた。
「…………」
まだ、少し強張ったままの足を動かしてベッドの傍に寄って、抱きかかえていたトランクをベッドの上に置いた。
「…………」
何故か、今ここでトランクの中を確認しておかねばならない気がした。
トランクに右手をそっと置き、微量の魔力を流し込みながら、父より教えられた合言葉を呟く。
「…………ル=シャトリエ、二十六代当主、オーギュスト=ル=シャトリエの名において其の戒めを解かん」
……カチャ……カチャッ、カチャカチャカチャカチャ!……ガチャッ!
合言葉が終わると共に幾重にも施されていた鍵と魔術による封印が一気に解かれ、自ずとトランクが開いた。
「…………これは……」
開かれたトランクの中にはもう一つ、見るからに古めかしい、まさに神代の時代からやって来たような木箱が入っていた。
「…………んぐっ……」
思わず喉が鳴った。恐る恐る木箱に手を伸ばし、そして開いた。
「…………これは」
中に入っていたのは黄金でできた短杖だった。増幅器だろうか。遡ること二十代ほど前の当主までは目にすることのなかった一族の秘宝を今自分は目にしている。
オーギュストが持っている物より造りや装飾はシンプルだが、目を引くものが在る。
大粒、檸檬の果実ほどもある煌々とした紅玉が先端につけられている。
まるで灼熱の炎を凝固させたかのような紅玉。荒れ狂う魔力が渦巻いているように感じる。
「…………くっ!」
見続けているだけで身体から発火して、燃え尽きてしまうのではないかという恐怖にかられ、木箱の蓋を閉めた。
「これは……なんだ?……む?こ、これは!?」
次の瞬間、ドクンッ!と心臓の鼓動が大きくなり、身体が熱くなる。体内を巡る魔力が活性化したように感じられ、魔力が湯水のように溢れ出てくる感覚がした。
「フフフ……これは凄い!凄いぞ!これならば!確実に伏見双魔を葬れる!いや……落ち着け、気に喰わない奴だが葬ってしまっては元も子もない……フフフ……しかし、原理は分からないが、これを使うまでもなく僕の勝利は間違いない…………これで、イサベルとエバの心臓は僕の物だ!ハハッ!フハハハハ!」
広い広いホテルの一室に若き魔術師の哄笑が響き渡る。
四半刻後、オーギュスト=ル=シャトリエは再び封をしたトランクと愛用のステッキを手に決闘に赴くべく、部屋を後にするのだった。
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