対面、憔悴
こんばんは!いや、本編は修羅場に入っていきますね。執筆が進まなくて私も修羅場ですが…………まあ、そんな感じですが今回もよろしくお願いします!
「…………来たようだね」
「ええ」
キリルは羽織ったジャケットの襟を整え直すとゆったりと背もたれに身体を預けた。
サラも膝の上で両手を組んで嫋やかに座りなおす。
「…………」
双魔は扉を見ているイサベルを背中に隠すように扉の方へと身体を向けた。
「入りたまえ」
キリルが入室を許すと扉が開き、双魔の目の前に大輪の深紅の薔薇の花束が突き出された。
「初めまして!私のオーギュスト=ル=シャトリエ!ガビロール一門、ル=シャトリエ家の嫡男です!イサベル嬢!貴女にお会いしたく聖フランス王国よりやって参りました!」
「…………」
薔薇の向こうから自分に酔っているような双魔にとっては嫌悪感に溢れた声が聞こえてくる。
突然の出来事にイサベルとキリルは目を丸くして驚き、サラは双魔が部屋に入ってきた時と同じく見定めるような視線で入室してきた人物を見ている。
長身で所々渦巻いた金髪が特徴的な美青年。ダブルのコートを身に纏い。手には純白の手袋を嵌めている。
「やあ……オーギュスト君、久しいね。お父上はお元気かな?」
「これは失礼いたしました!お嬢様のことで頭がいっぱいになってしまいました!こちらこそご無沙汰しております、キリル殿!父は息災です!今回はお嬢様との縁組のお話をいただきまして誠に感謝申し上げます!」
「あ、ああ……そのことなんだが…………」
キリルがオーギュストの勢いに押されながらも事情を説明しようと試みるが、自分に酔いしれているオーギュストの耳に入らない。視線は隣のサラに移った。
「キリル殿の細君、イサベル嬢のお母上のサラ殿ですか?」
「ええ、そうよ。初めまして」
「お初にお目にかかります、オーギュスト=ル=シャトリエです!なんとお美しいご婦人だ!イサベル嬢の美しさはお母上譲りでしたか!」
「フフフ、お上手ね」
オーギュストの称賛にサラは微笑みで応える。が、その目の奥まで笑っているのかは定かではなかった。
そして、オーギュストはここでいつまで経っても花束を受け取ってもらえないことに気づいて首を傾げた。
「……イサベル嬢?」
自分の見合い相手に呼び掛けるが返答はない。代わりに花束の向こう側に座っていた人物が立ち上がり、その顔がオーギュストの目に映った。
「き、貴様はっ!」
オーギュストの顔が肝を嘗めたかのように歪んだ。差し出していた花束を胸元に引き戻す。
「…………数日振りだな、オーギュスト=ル=シャトリエ」
ブリタニア王立魔導学園に初めて訪れた際に自分に屈辱を与えた忌々しい少年がふてぶてしい表情で何故かそこに立っていた。
「…………こんなところで何をしている?ここは私とイサベル嬢の見合いの場のはずなのだが?」
キリルとサラの目があるからだろう。オーギュストはすぐに表情をにこやかにして、爽やかな声音で改めて双魔に話しかけた。
が、額に浮かんだ青筋がピクピクと痙攣しているので内心、腸煮えくり返っているのは明白だ。
「俺は……」
「双魔君」
双魔が敢えて挑発的な表情でオーギュストの本性を暴き立て、イサベルの両親に少なくともオーギュストの相手として相応しくないと理解させようとした時だった。
後ろで座っていたイサベルが落ち着いた声を上げ立ち上がった。
振り向くと、学園の皆が認識している普段の凛々しくしっかり者のイサベル=イブン=ガビロールがそこにいた。
微かな目配せでイサベルの意思を読み取った双魔は身体を横にしてイサベルが通れるようにする。
イサベルはそのままオーギュストの前に歩み出る。そして、笑みを浮かべた。ここ最近、双魔に見せていたような本物の笑顔ではなく、どこか作ったような笑顔だ。
「初めまして、オーギュスト=ル=シャトリエ殿」
「お、おお……お初にお目にかかります、イサベル=イブン=ガビロール殿…………いやはや、写真で拝見した時にも貴女の美しさには心を奪われましたが……こうして直にお会いするとさらに美しい……」
オーギュストの表情は一転し、喜色満面、イサベルとの対面に感激した様子だ。
「ありがとうございます……フフフ、お世辞だとしても嬉しいです」
「そ、そんな、お世辞などとはお戯れを……私の本心です。貴女は美しい、それにお父上譲りの才覚をお持ちだ……そんな貴女にはこの鮮やかな薔薇の花束がお似合いです……どうか、お受け取り下さい」
オーギュストは胸元に引き戻していた薔薇の花束を改めてイサベルに差し出した。
「……ありがとうございます」
イサベルは一瞬の沈黙の後で笑みを浮かべたまま花束を受け取った。
「っ!!…………フッ」
「…………」
贈り物を受け取って貰えたオーギュストは感極まって顔をすると黙っている双魔に向けて勝ち誇ったように笑って見せた。
「それで……キリル殿、何故この者がここにいるのです?」
オーギュストの顔が再びキリルに向いた。
「……そのことなんだが……その前に伏見君とオーギュスト君は顔見知りだったのかね?」
複雑な表情のキリルは一旦お茶を濁そうと思ったのか、それとも純粋に疑問に思ったのか双魔とオーギュストの顔を見比べながらそんな質問をしてきた。
これに複雑な表情を浮かべるのはオーギュストの番だった。
「い、いえ……先日少し」
オーギュストの煮え切らない答えにキリル、そして、静観しているサラの視線が双魔に向いた。
「……ふー」
双魔は浅く息を吐き、口を開いた。
「先日、今週の頭でしたか……自分は学園で授業を行っていたのですが……」
「授業?伏見さん、貴方は学生ではないの?」
双魔の発言が気になったのか途中でサラが口を挟んできた。口調に険はなく、ただ興味本位の質問のようだ。
「それは……」
「双魔君は遺物科の学生だけど、魔術科では臨時の講師をしているの!」
双魔が答えようとした言葉をイサベルが答えた。「ね?」と言った風に首を軽く傾げて同意を求めてくるイサベルに、双魔は片目を閉じて、スーツの胸ポケットをまさぐると一枚のカードを取り出してキリルとサラに見えるように差し出した。
「…………あら」
「ベ、ベル同じ歳なのに……大したものだね……」
双魔の手の上に乗ったカードは学園の講師たちに配られる身分証明書のような物だ。学園長、ヴォーダン=ケントリスの印が入っており、彼に選ばれた者だけが持つものだ。
サラは感心したように右手を口元に当て、キリルは驚いたようにカードと双魔を交互に見ている。
「っ!そんな物は私も持っています!」
対抗心を燃やしたのかオーギュストも同じくカードを取り出して掲げる。
「おお、オーギュスト君もブリタニアの魔導学園で教鞭を取ると聞いていたよ。おめでとう」
「はい、ありがとうございます」
キリルに祝福されたオーギュストは双魔を激情を潜めた眼で見てくるが、双魔はそれをいなす。
「ところで、遺物科に所属していると言ったけれど……契約している遺物はいるのかしら?」
「ふむ、僕も気になるな。伏見君どうなんだい?」
イサベルの両親の興味は本来のオーギュストではなく、双魔に移ってしまっている。
そのことに不満を抱くオーギュストは不興を買いたくないためか黙っているが、一旦静まっていた額の青筋が再び浮かび上がってきている。
それに気づきながらも双魔は聞かれたことに答える。
「ええ……昨年の末に学園長の紹介で……剣の遺物と契約しました」
「うん、そうかそうか。イサベルは会ったことがあるのかい?」
「何度かね。とても可愛らしい子だったわ。それに、神話級遺物ですって」
「神話級遺物!そ、それは何とも……」
「まあ……凄いわね」
「っ!?…………」
キリルとサラが驚いて見せる一方、オーギュストは密かに歯軋りをした。
(……こ、こんな小僧が神話級遺物の契約者だと?……いや、そうか……そう言うことか)
背筋がうすら寒くなった。が、幾つかのことに納得がいった。
先日、教室で感じた妙な圧力も遺物との契約によるものならばおかしいことではない。
他学科の学生の身分で魔術科の臨時講師をしているのも学園長が眼に掛けているのが理由であれば合点がいく。
そもそも、自分がこんな生意気な子供に劣るなどあり得ない。
そう考えるとオーギュストの胸中にも余裕が出てくる。そこで、戻ってくるのはやはり最初に浮かんだ疑問だった。
キリルは自分が部屋に入った時から何か言いにくそうにしている。ここは、イサベルか忌々しい少年に聞く方が話を進めるには得策だろう。
オーギュストは気を刃のように研いで伏見双魔に目を遣った。
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