表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/622

傀儡姫、第二の試練

 こんばんは!相変わらず暑いですね……来週からは涼しくなるみたいですがそれはそれで体調を崩しそうです…………皆さんもお気を付けください!

 挨拶はこの辺りで、今回もよろしくお願いします!

 それからしばらく、学園での出来事などの世間話をして談笑の時間が続いた。


 そして、各々が皿の上のパイを食べ終わると、左文が新しく温かいお茶を注いで周り、落ち着いた雰囲気になった時、双魔は膝の上で三切れ目のパイを食べているティルフィングを降ろして、居住まいを正し、イサベルに向き合った。


 空気を察した左文がテーブルの上に広げられた残りのカボチャパイや食器を下げつつ、ティルフィングを連れて食卓の方に移った。


 双魔の真剣な面持ちにイサベルも姿勢を正す。和やかな雰囲気ですっかり忘れかけていたが、今日イサベルは双魔に大切な頼み、「お見合いでの婚約を回避するために恋人役をして欲しい」などと言うどう考えても常識外の依頼をしに来たのだ。


 自然と身体と表情は硬くなる。


 「さて、そろそろ相談事を聞くか…………ん?俺が出来る限りのことなら何でも言ってくれていい」


 イサベルが言い出しやすいように気を使ってくれたのか、張り詰めた雰囲気は一瞬で、双魔はすぐに柔らかな表情を浮かべた。


 身体を少し前のめりにして”話を聞く姿勢”を整えている。


 「…………ええと……その、ですね…………」

 「……その前に、ちょっと、ええ?」


 イサベルが相談事の内容を双魔に打ち明けようとした時、少しの間沈黙を保ち、イサベルの様子を窺っていた鏡華がそれを遮るかのように口を開いた。


 「ん?鏡華?」

 「うち、まだ、ちゃんとイサベルはんにきちん自己紹介してへんかったから……しといた方がいい思て……ほほほ」


 鏡華は微笑みながらイサベルを見た。


 「っ!?」


 イサベルはその笑みに何か嫌な予感を感じた。


 そう言えば、六道鏡華と名乗った彼女は何者なのだろうか。余りにも自然に自分を出迎え、自然と双魔の隣に座っている自分の同年代の見目麗しく、よく見るとどこか妖艶な少女。


 一度気になってしまえば鏡華への疑念は加速度的に大きくなっていく。


 ふと、双魔の傍らに立つティルフィングを初めて目にした時に胸の中で暴れ出した何かが沸々と息を吹き返してきていた。


 ティルフィングは双魔の契約遺物で恋人などではなかったから良かったものの、この少女はもしや、双魔の、想い人のそのような存在なのではないだろうか。


 そう考えた瞬間、胸の鼓動が激しくなり、呼吸が浅くなる。それを双魔に、そして鏡華に悟られないように必死に押さえつけるが、僅かに表情が歪む。


 「ガビロール、どうした?大丈夫か?」


 目聡くそれに気づいた双魔が声を掛けてくれる。


 「は、はい!何でもありません、大丈夫です!鏡華さんも、……続けてください」


 その声を聴いて徐々に荒ぶった動悸が収まりがはじめる。ああ、自分はなんて単純なんだろう。こんなにも双魔に心配してもらえるのが嬉しいなんて、そう思ったのも束の間だった。


 数瞬前に感じていた悪い予感は直後に的中してしまった。


 「改めまして、うちの名前は六道鏡華、歳はあんはんと双魔より一つ上、双魔の……この人の婚約者させてもろうてます。どうぞ、よしなに」


 そう言って鏡華はイサベルに優雅に頭を下げた。


 「…………え?……こ、婚……約…………者?」


 イサベルは自分の耳を疑った。今、鏡華は何と言ったか。あろうことか自分の想い人、恋人役を頼もうとしていた少年の婚約者だと宣った。


 縋るように鏡華から双魔に視線を移す。


 「…………」


 双魔はバツが悪そうに、と言うよりも照れているのを隠すのにわざと不機嫌な表情を浮かべているのか、片目を閉じて親指でこめかみをグリグリと刺激しているだけで否定はしない。


 「…………本当ですか?鏡華さんの……言っていることは…………」

 「…………ん、間違いない」


 消えてしまいそうなか細い声で問うたイサベルに、双魔は視線を合わせて確かな口調でそう言った。


 「っ!!……………………」


 イサベルは完全に沈黙してしまった。何が何だか分からない。先ほどまでの楽しくも照れ臭い気持ちなど何処かに消え失せてしまった。涙が、いつの間にか膝の上で強く握りしめていた拳の上に一粒落ちたかと思うと、後を追うように止めどなく落ちてくる。


 今まで浮ついていた自分は何だったのか、わざわざ服を用意してくれた梓織たちに申し訳ない。何より、自分が想い人と結ばれる可能性を断たれたのが耐え切れないほど悲しかった。


 「…………」


 双魔は、そんなイサベルを黙って見つめていた。イサベルが突然泣き出した理由はいまいち分からないが自分か鏡華が関わっているのは明らかだ。


 こういう時、下手に慰めたりしない方が良いというのが双魔のスタンスだ。


 一方、食卓でパイを食べていたティルフィングはオロオロと落ち着かなくなってしまっている。それを、左文が事の成り行きを静観しながら抱き留めている。


 そして、どれほど時間が経ったか、イサベルがすすり泣く声だけが響いていたリビングの静寂を、鏡華が破った。


 「…………双魔」

 「…………なんだ?」

 「ティルフィングはんとちょっと、席外してくれへん?」


 真剣な面持ちでそう言った鏡華だったが、すぐに双魔を安心させようと思ったのか柔和な笑みを浮かべる。


 「…………ん、分かった。ガビロールのことは任せたぞ」

 「うん」

 「ティルフィング、散歩に行こう。左文、見送りはいい」

 「む?出掛けるのか?分かった!はむっ!むぐむぐむぐ…………」

 「かしこまりました、行ってらっしゃいませ」


 左文の腕から解放されたティルフィングは困惑の表情から一転、にぱっと笑顔を咲かせ、残っていたパイを口いっぱいに詰め込み、飲み込むと廊下に足を向ける双魔の後をついていく。


 リビングを後にした双魔は階段を上がって自分お部屋から財布を取ってくると、コートを羽織り、右手に手袋を嵌めた。


 ティルフィングのコートのボタンを留めてやり、玄関を出た。


 外の空気は思ったより冷たい。吐き出した息が白く染まり、僅かに吹く風に流れていく。


 「ソーマ!どこに行くのだ?」

 「ん……そうだな、川の方にでも行ってみるか」


 双魔の手を引いて見上げてくるティルフィングの顔を見ながら、歩き出す。


 十歩ほど歩いたところで少し振り返って、赤レンガの我が家を見つめる。


 (…………事情は呑み込めないが…………鏡華に任せておけば大丈夫か)


 「フンフフーン♪」


 機嫌よく鼻歌を歌いはじめたティルフィングの手をしっかりと握り、双魔はテムズ川に向けて道を行くのだった。



 いつも読んでくださってありがとうございます!

 よろしかったら評価していってください!ブックマークやレビューもお待ちしてます!してくださると励みになりますので是非!

 本日もお疲れ様でした!それでは、良い夜を!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ