縁側の二人
こんばんは!今年の梅雨は中々開けませんね…………皆さん健やかにお過ごしでしょうか?
まあ、世間話はさておき、今回を合わせてあと3話ほどで2部が終わります。3部に関しては鋭意執筆中ですので今月中に何とか始められるよう頑張ります!
それでは今回もよろしくお願いします!
時は元旦からしばらく飛んで一月十日、今日は今回の帰郷で双魔たちが京都で過ごす最後の日だ。夕方には空港に向かい、夜には出国する。
ブリタニアの知人への土産の調達や、荷造りは既に済んだ。
時刻は十二時過ぎ、鏡華の家で昼食を終えた双魔は…………縁側に腰を掛けてぼーっと呆けていた。
「……………………」
ここ数日は雪が降ることもなく、連日晴天だ。今も陽が照らしていてとても暖かい。
疲れの余り、うつらうつらする。どうせ、電車と飛行機では酔ってしまってまともに眠れないのだ。このまま寝てしまってもいいかもしれない。
大晦日に事件を解決してから今までは休暇中にもかかわらずほとんど休めなかった。
三が日は剣兎と檀の事件の後処理を手伝いだった。山縣はすっかり大人しくなり、今は陰陽寮の一角にある、特殊な牢に入れられているらしい。
翌日の四日と五日は土御門宗家の新年会に鏡華共々招待されてしまい、寝る暇もなくどんちゃん騒ぎ。
六日から八日に掛けてはせっかく京都にいるのだからと、父母の知り合いに挨拶をして回り、昨日は自宅の大掃除だった。
伏見家はほとんど留守にしているので殊の外、汚れていた。
鏡華が言い出さなければ双魔は放っておくつもりだったのだが、鏡華の笑顔には逆らえず、掃除をする羽目になった。普段は左文に任せきりなので、改めて左文に感謝しなければ、と思えたのがせめてもの収穫だろうか。
とにかく疲れ果てた。今にも寝そうになっていたところに、ふと、こちらに近づいてくる何者かの気配を感じた。
振り返るのも億劫だ。が、振り返らずとも誰かは分かった。左文とティルフィングは出掛けているはずだ。浄玻璃鏡の気配は少し特殊だ。消去法で一人しかいない。
「双魔、少しええ?」
鈴の音のような声が耳を撫でる。
「ん…………鏡華か…………何だ?」
声の主、鏡華は双魔の隣に正座した。鏡華の甘い匂いが鼻腔をくすぐる。疲れているからかその姿に見惚れてしまった。美人の座る姿は牡丹の花に例えられるが、まさにそれだった。
「フフフ……どしたん?そないに変な顔して」
双魔の顔を見て鏡華は口元に手を当てて笑って見せた。
「ん……何でもない。それより何か用か?」
「ああ、そうそう。ブリタニアの話、あまり聞けへんかったから聞いとこ思うて!向こうはどう?」
「…………どうって言われてもな…………」
「あ、聞き方が悪かった?双魔は楽しんでるかなーって」
どうやら具体的な話を聞きたいわけではないらしい。
「……………………まあ、それなりにな」
「そ、それなら良かったわ!」
双魔の要領を得ない返事にも鏡華は満足そうだった。
「そっちは……どうなんだ?」
何となく気になって鏡華にも聞き返してみた。それを聞いた鏡華は意外そうな表情を浮かべた。
「うち?フフフ……そんなん、双魔に聞かれると思ってなかった……そやなぁ、ぼちぼちかな?ああ、でも……」
「でも…………なんだよ?」
鏡華が勿体ぶったのが気になって、顔を庭から鏡華に向けた。そこには、悪戯っぽい笑みを浮かべた幼馴染がいた。
「双魔がいないのは寂しいなぁ……フフフ!」
「ま、そればかりは仕方ないだろ…………」
鏡華はこの国の冥界を司る神の孫娘だ、おいそれと異国の地に渡るわけにもいかない。
「うん、そやね…………まあ、ええわ!双魔もうちの名前呼んでくれるようになったし」
一瞬、空を見上げて、双魔の顔を見ると瞼が半分閉じていた。ここ数日の忙しさを考えるとかなり疲れているのだろう。
「…………双魔、眠いん?」
「…………ん…………」
最早返事をすることもままならない。そのまま、双魔は鏡華の方に倒れ込んできた。
「あらあら、しゃーないねぁ…………少し、寝るとええよ」
鏡華は倒れないように双魔の身体を支えると頭を自分の膝の上に誘った。
「…………すー……すー……」
すぐに穏やかな寝息が聞こえてくる。何となく、双魔の顔を覗き込む。
「フフフ……随分ふてぶてしくなったけど、寝てる時の顔はあの頃と変わらへんねぇ」
起こさないように優しく、黒と銀の混ざった髪を撫でる。
「…………ん…………んん…………」
くすぐったかったのか双魔が身をよじってからだの向きを変える。それに合わせて、膝の上の顔も横から正面に変わった。
「…………すー……すー…………」
気持ちよさそうに眠っている顔が真下にある。顔を上げて周りを見回す。もちろん、人などいない。
縁側に少し気の早い春風が吹き込んだ。
垂れた髪の片側を耳に掛ける。一瞬、二人の顔の距離が零になった。
艶やかな髪を飾る曼殊沙華が、思い人に貰った大切な髪飾りがしゃらりと音を立てる。
「…………」
言葉なく、二人の距離は元に戻る。口元に笑みを浮かべた、雪のように白い肌は、梅の花のように紅に染まっていた。
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さて、明日と明後日の更新ですが、急用のためお休みさせていただきたいと思いますのでご容赦のをば。
本日もお疲れ様でした!それでは、良い夜を!





