アルザリオス大陸群:現代世界情勢記録(帝国暦1385年)
アルザリオス大陸群:現代世界情勢記録(帝国暦1385年)
編纂:アルザリオス史学院外務記録局
機密等級:帝国第三級公開可
用途:大陸間会議・神殿調査・学術参考資料
■ 【Ⅰ】ルミナス大陸 ― 光の聖王国圏(神:ルミナ)
首都国家:ルミナ=セレスティア聖王国
宗教:ルミナ信仰(ルミナ神教会)
政治体制:神聖君主制(聖王+教会統治)
⚫︎ 概要
かつて光の神〈ルミナ〉を象徴として七大陸統一を目指した、超大陸規模の軍事宗教帝国「ルミナ帝国」。
その拡大主義と信仰による支配体制は他大陸諸国との対立を招き、テネブラル皇国を中心とした反帝国連合の形成を引き起こすこととなった。
終焉戦役の結果、帝国は広大な支配圏を喪失し、軍事力・経済力ともに大きく衰退。
戦後、残された領土を再編し、現在は「光の戒律」を掲げる信仰国家としての再構築を進めている。
⚫︎ 政治
戦後、ルミナ帝国は“帝政”を廃止し、政教統合を推進する「聖王国」へと再編。
戦中の軍閥支配と官僚機構の腐敗を背景に、旧体制に対する民衆の不信が高まり、王政は一時的に空位となった。
その後、「聖導院」と呼ばれる神殿と王政を統合した新体制が発足。統治権は血統ではなく、“神託による選定”制度へと移行された。
⚫︎ 宗教
ルミナ神教は再興したが、奇跡の発現率が著しく低下。
かつての“光の加護”は失われ、
“神の沈黙”が神学者たちの議論を呼んでいる。
異端審問は緩和されたが、依然として戒律は厳しい。
⚫︎ 文化
聖典の朗読と合唱を中心とした宗教文化が続く。
芸術・詩・建築は「光を描く影」を主題にしたものが増え、
戦争の記憶を象徴的に描く“白と灰の聖画”が流行。
帝都跡地には“聖光の回廊”が再建され、巡礼者の聖地となっている。
⚫︎ 外交・社会情勢
隣接する雷大陸 (エレトゥス)との交易を再開。
しかし、帝国支配時代の支配構造が残っており、
他大陸からは“道徳的覇権主義”として警戒されている。
“光の貴族”と“戦災孤児の平民”の間に格差が生まれ、
国内では「教会への信仰か、人の理性か」を巡る論争が続く。
■ 【Ⅱ】イグニス大陸 ― 炎の連邦(神:フレイア)
主要国家:イグナ=ヴォルカ連邦共和国
宗教:鍛炎信仰(フレイア炉教)
政治体制:職人評議制(ギルド共和国)
⚫︎ 概要
終焉戦役で最も被害を受けた大陸。
火山帯が多数噴火し、一時的に居住不可能になった地域も多い。
しかし鍛冶と技術の民は、灰の中から再び立ち上がった。
⚫︎ 政治
封建制を廃止し、鍛冶師ギルド連盟による評議政治を採用。
各都市が自治権を持ち、代表が「鍛炎議会」で政策を決定する。
軍事力は低下したが、技術と産業力は七大陸随一。
⚫︎ 文化
“火を制する者が魂を鍛える”という思想が根強く、
子供の通過儀礼に「鉄を打つ儀式」がある。
戦争の反省から、武器よりも農具や建築器具の製造が盛んになり、
「鍛冶=平和の象徴」として尊敬される。
⚫︎ 外交
ルミナス大陸との関係修復が進む一方、
雷大陸 (エレトゥス)からの技術流入により産業革命が加速。
一部の若者層は「機械神信仰」に傾倒し、
伝統派との思想衝突が問題視されている。
■ 【Ⅲ】ネプトラ大陸 ― 水の海洋王国(神:アクアリス)
主要国家:海王国ネプトリア
宗教:潮流信仰(アクアリス潮教)
政治体制:貴族商議会制(海商王政)
⚫︎ 概要
終焉戦役で唯一、神殿を失わなかった大陸。
神官たちの祈りにより海が守られたとされ、
“癒しと再生の国”として再び繁栄している。
⚫︎ 政治
王家と商人貴族が並立する体制。
海上交易を支配する「潮商会」が莫大な富を握る。
近年は魔導船・浮遊艦の導入により、
他大陸との海上ルートが復活した。
⚫︎ 文化
アクアリス信仰では「流れはすべてを洗う」という教義があり、
罪を悔い改めた者は“潮の巡礼”により清められる。
音楽と舞踊が盛んで、海の歌と祈りの舞が国家祭礼として定着。
料理文化も豊かで、“海塩と香草の献饌”が宗教儀式に用いられる。
⚫︎ 外交
中立国として七大陸間の外交を仲介する立場。
“海の聖都”アルメリアは各国の外交官が常駐する港都市。
ただし、貿易競争の裏でスパイ活動が横行している。
■ 【Ⅳ】グラシア大陸 ― 岩の王国(神:テラ=グラス)
主要国家:グラン=ロック王国
宗教:地母信仰(テラ聖殿会)
政治体制:封建王政+鉱山自治領制
⚫︎ 概要
大地と秩序の神を信奉する堅実な王国。
戦後も政治体制を維持し、七大陸の中で最も安定している。
鉱山資源と防衛技術により、経済力も高い。
⚫︎ 政治
古来より“石の誓約”を重んじる。
王は国民との契約を守る限り神聖不可侵。
司法制度は厳格で、法と秩序の維持が最優先。
一方で「停滞の国」とも呼ばれ、革新に乏しい。
⚫︎ 文化
大地の音を聴く“石詠師 (ストーンシンガー)”の文化が残る。
建築・彫刻・鉱芸が盛んで、神殿建築は大陸屈指の美しさ。
金属加工・魔鉱石精製の技術は他国からも輸入される。
⚫︎ 外交
雷大陸との技術提携を推進しつつ、
光大陸 (ルミナス)とは信仰的な摩擦が続く。
“神より法を尊ぶ”姿勢が他宗派から異端視されることも。
■ 【Ⅴ】テネブル大陸 ― 闇の隠者連合(神:テネブラ)
主要国家:隠者王国テネブラル
宗教:影祀信仰(テネブラ古教)
政治体制:評議連合制(賢者統治)
⚫︎ 概要
かつて魔神族の本拠地だったとされる大陸。
終焉戦役後、残存勢力が一時台頭したが、
ゼンの介入により封印された地域が多い。
現在は「影の学術都市群」として再生中。
⚫︎ 政治
“光の統制”を拒み、“知と沈黙の自由”を理念とする。
統治者は存在せず、各都市を導く「影の賢者会」が合議制で管理。
表向きは穏やかだが、裏社会の情報流通を掌握している。
⚫︎ 文化
闇は悪ではなく、“内なる自己”の象徴。
芸術・文学・演劇が極めて発達し、
「真夜中劇場」「幻影詩」など独特の文化を持つ。
死を穏やかに受け入れる“影葬”の儀礼が有名。
⚫︎ 外交
表向き中立だが、諜報と魔術研究の拠点として各国に影響を及ぼす。
帝国残党や異端宗派の亡命地ともなっており、
潜在的な火種を多く抱えている。
■ 【Ⅵ】エーリア大陸 ― 風の諸島連邦(神:アエラ)
主要国家:空航都市国家群アエリス連邦
宗教:風巡信仰(アエラ自由教)
政治体制:自由都市連合(民主評議制)
⚫︎ 概要
浮遊島と海上都市から成る自由国家群。
航海技術と気流制御によって大陸間交通の要となる。
“風の商人”たちが世界経済を握るとも言われる。
⚫︎ 政治
中央政府を持たず、各都市が自治を維持。
“風の会議”で政策を決めるが、
実際には有力商家・飛空艦ギルドが実権を握る。
通貨・物流の中心地として繁栄。
⚫︎ 文化
自由と旅を尊ぶ気風。
市民は姓ではなく「航路名」で呼び合う習慣がある。
音楽・酒・空祭りが盛んで、世界で最も陽気な国とも。
ただし治安は緩く、海賊・傭兵も多い。
⚫︎ 外交
中立を保ちつつも、他大陸の動向をいち早く察知。
商人ギルドが外交を担い、
風の情報網は“空の新聞”と呼ばれ恐れられている。
■ 【Ⅶ】エレトゥス大陸 ― 雷の機巧帝都(神:エレクトロス)
主要国家:雷都エレクトロニア帝都連合
宗教:機導信仰(エレクトロス創造教)
政治体制:技術官僚制(評議+王位制)
⚫︎ 概要
革新と技術の象徴。
蒸気・電力・魔導工学が融合し、
“第二の産業革命”が始まった大陸。
機械都市の灯は夜でも消えることがない。
⚫︎ 政治
王家は象徴的存在。実権は技術評議会が握る。
民衆は階級より能力を重視するため、
貧富の差はあるが社会流動性が高い。
科学と魔法の融合が進み、他大陸に技術輸出を行う。
⚫︎ 文化
理性と効率を尊ぶ風潮。
芸術も工学的で、時計塔・歯車機構を用いた建築が主流。
“雷の音楽祭”や“発明博覧会”などが定期開催。
一方で「機械に心を宿す」思想も芽生えつつある。
⚫︎ 外交
火の大陸との技術同盟、
光の大陸との学術交流を推進中。
だが、急速な技術発展に他国が警戒しており、
“第二の神の塔”を建造しているという噂が絶えない。
◆ 世界全体の潮流(帝国暦1385年時点)
・神々の加護が薄れたことで、“人の時代”が本格化。
・交易と文化交流が活発化する一方、技術・信仰・思想の衝突が顕在化。
・ゼン・アルヴァリードの名は一部の古文書や民謡にのみ残るが、“灰色の盾”という象徴は今も各地で語られる。
・一部の神官や学者の間では、再び属性バランスが揺らぎ始めた兆候が報告されている。
“神々が眠り、人が夢を見る時代。
七つの風はまだ止まらぬ。
それを静かに見つめる一人の男が、
山の古民家で今日も鍋をかき回している。”
― 『現代アルザリオス地誌・終焉後編』より




