帝国魔獣管理討伐機構
■ MSM(魔獣管理・討伐機構)詳細:帝国と七大陸を繋ぐ“魔獣統制機構”について
MSM(Magical Species Management)は、正式名称〈帝国魔獣管理討伐機構〉。
その名の通り、魔獣の発生・進化・変異・消滅に関するあらゆる現象を「記録・評価・統制」するための、ルミナ帝国直属の公的機関である。
帝国魔導庁の直轄下にありながらも、学術院(神学・生物・魔導・兵学・環境学)や、騎士団・冒険者ギルド・地方自治組織といった、複数の専門機関の連携によって成り立つ、いわば「国家をまたいだ知の連合体」でもある。
● 設立経緯と歴史的背景
帝国暦1124年――いわゆる“第二紀中期”、魔導文明の絶頂期。
魔導炉の暴走、魔力汚染、そして大規模な魔物の発生が立て続けに発生し、各地で被害が急増。
特に“魔素蓄積地”と呼ばれる地域では、生物が異常進化を遂げ、都市単位の壊滅事件が相次いだ。
その惨状を受けて、当時の帝国議会は「魔獣という存在を記録・分類する恒久的な監視組織」の設立を決定。
こうして生まれたのが、初期MSM――通称“第一観測局”である。
当時の目的は討伐ではなく、あくまで「観測」と「記録」に留まっていた。
だが、魔獣の進化速度は想定を超えており、三十年後には観測から“実戦対応”へと移行することになる。
帝国暦1172年、正式に「討伐権限」を付与され、現行のMSM体制が確立。
以来200年以上、MSMは“魔獣と人類の境界線”を維持する最後の防壁として機能し続けている。
● 機構構成と主要部門
MSMは全体で七部門に分かれる。
各部門は異なる目的を持ち、相互に補完関係を築いている。
【部門名/主な役割】
① 情報観測局(O.S.D.) / 魔獣の出現、行動、変異に関する記録・監視。主に浮遊監視衛塔〈アストラム・ネット〉を通じて大陸全域を網羅的に観測する。
② 危険度評価局(R.A.D.) / 討伐レベル・生息域危険度を算出。魔力指数、筋力、速度、知能など12項目の複合スコアに基づく精密な評価を行う。
③ 討伐依頼局(C.M.D.) / 討伐依頼の発行、報酬算出、公式ハンター認定を管轄。ギルドや帝国軍との橋渡し役を担う。
④ 研究開発局(A.R.L.) / 魔獣素材の解析、魔導学的応用の研究。特に「魔核再利用」や「生命構成式の安定化理論」などが中心。
⑤ 封印・収容局(S.E.D.) / 生け捕り個体・禁忌種・古代種の管理を担当。封印施設〈ネクサ・ケージ〉を運営。
⑥ 教育育成局(T.D.D.) / 調査員・解析士・討伐者などの育成。魔獣学における国家資格「MSM公認ハンター免許」の試験も実施。
⑦ 監査統制局(I.C.B.) / 各支部の行動監査、情報漏洩の防止、政治的中立の維持を担当。最も秘密主義的な部署であり、局員の顔を知る者は少ない。
これらの部署はすべて、帝都セレスティアの中央行政塔〈ルミナ=ハロス管区〉内に本庁を置く。
特筆すべきは、「第六・教育育成局」が最も人員規模が大きい点だ。
MSMは単に討伐を行う組織ではなく、“魔獣に関わる全分野の専門家を育てる教育機関”でもあるのだ。
● 討伐レベルの社会的基準とその影響
MSMの討伐レベルは、単なる戦闘指標に留まらない。
各地域の治安、経済、学術研究、そして宗教観にまで影響を与える、いわば“文明の温度計”である。
例えば、Lv1〜10の地域では、魔獣被害は日常的リスクとして扱われる。
それに対応する職業は主に冒険者・自警団・傭兵などであり、これらの層が地域社会の基盤を形成する。
一方、Lv20を超える魔獣が確認された地域では、国家の「封鎖権限」が発動される。
交通規制、物資供給の制限、避難指令が発令され、経済的な孤立が発生する。
この措置は“封鎖指定地”と呼ばれ、帝国地図では黒線で囲まれている。
有名なのは、イグニス大陸の〈赤炎砂原帯〉や、ネプトラ海沿岸の〈沈む湿原地帯〉などだ。
討伐レベルが30を超える個体は「帝国特認個体」として登録され、
その行動履歴、気象・地脈変動、被害推移がすべて記録される。
このデータは学術的にも極めて重要で、魔力環境や気候変動の観測にも利用されている。
MSMの存在意義は、単なる魔獣の殲滅ではなく――
“世界の均衡を保つための、魔力流動の観測装置”として機能している点にある。
● 政治的立場と帝国における影響力
MSMは建前上「学術的・中立的立場」を維持しているが、実際にはそのデータが“帝国の政治力”を左右するほどの影響力を持つ。
ある魔獣の出現情報一つで、国家間の交易路が閉ざされ、地方都市が孤立することもあるためだ。
そのため、各国はMSMの報告を「準条約文書」として扱う。
報告を無視した国家は、結果的に魔獣災害に見舞われ、信頼を失う――そんな歴史的事例がいくつもある。
こうした経緯から、MSMは実質的に「国境を越えた統治機関」と化しているのだ。
また、“情報の独占”という性質から、時折「情報統制陰謀説」や「魔獣生成実験説」などの噂も囁かれるが、公式には否定されている。
ただし、帝国の封印局には確かに「人為的魔獣化実験」の記録が存在し、これは今でもMSM内部でタブーとされる議題である。
● MSMが抱える課題と倫理的ジレンマ
MSMの理念は「記録・分類・制御」だが、その裏には常に“矛盾”がつきまとう。
討伐しなければ人が死に、討伐すれば生態系が崩壊する。
捕獲すれば魔力汚染が広がり、放置すれば勢力圏が拡大する。
魔獣という存在は、まさに「自然と文明のはざまに生まれた病理」なのだ。
ゼンのような元S級冒険者がMSMに正式所属しない理由も、この矛盾にある。
彼は“守るための力”を信条としており、MSMのような「数値で命を計る仕組み」に馴染めなかった。
だがその一方で、彼の討伐記録は今もMSMの教育資料として使われており、
現場の若手ハンターたちは「灰の盾ゼン・アルヴァリード」を伝説として学んでいる。
● 結語:MSMという文明の防波堤
MSMは単なる討伐機関ではない。
それは、七大陸における「魔力の秩序」を可視化し、
人類が“神々の沈黙”の時代を生き延びるための理性的枠組みである。
魔獣が現れるたびに、文明はそれを恐れ、憎み、記録する。
だが、その行為そのものが――すでにMSMの理念の一部なのだ。
世界は混沌を必要としている。
そしてMSMは、その混沌を数値で測ろうとする、人類最後の知恵である。
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■ 魔獣という存在:分類・進化・生態圏と七大陸の相関図
魔獣――それは、単なる“巨大で危険な生物”を意味する言葉ではない。
この世界において、魔獣とは「魔素」を肉体構造に取り込み、
自然の摂理を逸脱した進化を遂げた存在すべてを指す。
本稿では、魔獣の分類学的定義、生態的特性、進化傾向、
そして七大陸における魔獣の地域差について詳述する。
● 魔獣の基本分類(MSM公式カテゴリ)
魔獣は、MSMにおいて以下の五大分類と、十の補足要素によって評価される。
▼ 五大分類
【分類名/概要】
① 獣型 / 元は獣や鳥など自然生物。魔素との適合により巨大化・変異を遂げたもの。例:グラウベルク(魔鉄巨熊)
② 幻型 / 霊体的性質を持つ。実体と非実体の中間に位置し、物理法則を無視した挙動を取る。
③ 魔造型 / 古代魔導文明によって“作られた”魔獣。意思を持つものも存在し、封印対象に分類されることが多い。
④ 深層型 / 地下や深海など、極限環境に適応して進化した種。高い魔力抵抗と再生能力を持つ。
⑤ 変異型 / 他の分類から逸脱した、予測不能の進化系。特定種との混血、環境適応による再構築などを含む。
これらの基本型に加え、以下の十項目で個体ごとの危険度が算出される。
【危険性評価項目】
・筋力(STR)
・機動性(AGI)
・耐久力(END)
・魔力放出(MAG)
・魔素適応(MSA)
・知能(INT)
・群生傾向(COL)
・領域支配(TERR)
・変異因子(MUT)
・人間特異反応性(HUM)
これらをスコア化したものが、いわゆる「討伐レベル」である。
(例:討伐Lv18のグラウベルクは、筋力と耐久が突出して高く、知能・群生傾向は低い)
● 魔獣の進化と“魔素変異”という現象
魔獣が魔獣たる所以――それは「魔素変異」にある。
あらゆる生物は、ごく微量ながらも魔素を取り込んでいる。
だが、通常の生物はそれを排出・消化することで肉体の平衡を保っている。
一方で、特定の条件下では魔素が“浸透”し、生体構造の一部として組み込まれてしまう。
この状態を「第一段階変異(初期魔素融合)」と呼び、外見に大きな変化はないが、
既に体内では細胞構造や神経伝達経路が“魔素的再編”を起こしている。
第二段階変異(完全融合)に至ると、外見上にも顕著な変化が現れ、
筋肉量の増加、角・鱗の出現、異常な再生力、魔力放出能力などを獲得する。
こうした変異の蓄積が「魔獣」としての進化であり、
第三段階(特異融合)では、もはや“種”という概念から逸脱し、個体単位で独自の系譜を持つようになる。
※補足:一部の古代魔術学派では、魔獣を「人類進化の別系統」と捉える説もある。
● 七大陸における魔獣の地域特性
魔獣という存在は、単なる獣の異常進化ではない。彼らは“魔素”を自然的に、あるいは強制的に取り込んだ生命体であり、その進化・変異は環境に強く依存している。
ゆえに、七大陸それぞれの風土、信仰、文明、そして“神の影響”が、魔獣たちの生態や特徴を大きく左右している。
【Ⅰ】ルミナス大陸(光)
光の神ルミナの加護を受けたこの大陸では、かつて“聖獣”と呼ばれる純粋種の魔獣が存在していた。戦後、多くは姿を消したが、一部は聖王国の聖域や神殿遺跡に潜んでいるとされる。
魔獣の多くは“神性残滓”を持ち、純白の外皮や光属性の攻撃手段を備えている。反面、人工的な魔導実験によって生まれた“光熱変異種”が多く、魔導兵器との交雑個体が目撃されることもある。
討伐レベルは中〜高程度。数は少ないが、一体一体の質が非常に高く、神殿保護区では討伐が禁じられている種も多い。
【Ⅱ】イグニス大陸(炎)
火山帯と焦土の広がるイグニス大陸では、熱と魔力に適応した“耐炎系魔獣”が主流となる。
例えば、〈マグマトカゲ〉や〈火葬鳥バルゲン〉など、高温環境に完全適応した個体が数多く確認されている。魔獣の魔素吸収量も高く、暴走個体や自爆性魔獣の出現率が高いのが特徴。
また、火山灰による視界不良と地形変動が討伐を難航させるため、MSMによる支部ランクも高く設定されている。
討伐レベルは幅広いが、地形と天候要因により“実質難易度”は常に1〜2段階上に見積もられる。
【Ⅲ】ネプトラ大陸(水)
海と湿地に囲まれたネプトラ大陸は、“水棲魔獣”の宝庫である。だが、その多くは深海に潜み、滅多に陸地には姿を見せない。
しかし、神殿近海や珊瑚列島付近では、魔導漂流物や異界の影響を受けた“混成変異種”が発生しており、その生態は極めて不安定かつ危険である。
また、〈霧潮鰐〉や〈夜哭貝〉のような擬態型・捕食型魔獣が多く、港町では船乗りたちの魔獣対策訓練が義務付けられている。
討伐レベルは中〜高。水中戦の難易度が非常に高いため、専用装備と術者によるサポートが不可欠。
【Ⅳ】グラシア大陸(岩)
岩の王国と呼ばれるこの地では、土属性の魔獣が多く確認される。特に鉱脈や地層帯に出没する“鉱魔獣”の存在は、鉱山国家にとって深刻な脅威である。
中でも〈鉄甲虫グロスティ〉や〈土竜王バルグム〉など、装甲硬度に優れた魔獣が多く、通常の物理攻撃では通用しない個体も多い。
一方で、生態系は比較的安定しており、定期的な討伐・封印によって管理が進んでいる大陸でもある。
討伐レベルは中級中心だが、“土中突発出現”による事故率は高め。
【Ⅴ】テネブル大陸(闇)
この大陸の魔獣は、異端とされる“精神系”に分類されるものが多い。姿を見せず、幻覚や精神干渉を行う魔獣が跋扈しており、実態把握が困難とされている。
〈夢喰いの蛇〉〈影泣き蝶〉など、精神への干渉を主とした魔獣は、戦闘力ではなく“知覚崩壊”や“記憶改竄”といった形で被害を及ぼすため、討伐ではなく“無力化”が原則とされる。
また、死者の骸を取り込んで進化する“霊蝕種”の報告もあり、未だに危険度不明の魔獣が多数存在している。
討伐レベルは“未知”。MSMもここだけは分類不能の項目を設けており、賢者層の協力のもとに限定的な調査が行われている。
【Ⅵ】エーリア大陸(風)
風と自由の大陸では、浮遊・高速移動に特化した魔獣が多い。〈飛刃鳥フュルカス〉や〈雷羽竜クレイヴァ〉など、気流と魔素の共鳴を利用した飛行型魔獣が多数確認されている。
また、情報の流通が早いため、魔獣情報の“都市伝説化”も起きやすい傾向にあり、MSMは「誤情報の検証班」まで設置して対応している。
討伐レベルは中級程度が中心だが、空中戦の特殊性ゆえに“装備・機材”によって難易度が激変する。
【Ⅶ】エレトゥス大陸(雷)
雷と機巧の国では、人工物との干渉によって魔獣が“半機械化”する事例が多い。
〈導雷獣ゼクター〉や〈機芯猿モノクス〉など、魔導器と融合した個体が発見されており、魔導炉暴走や廃棄工場跡地などが発生源となっている。
これらは「人工魔獣」と仮分類されており、自然魔獣とは異なる思考パターンを持つことから、対応プロトコルも別扱いとされる。
討伐レベルは高めだが、再現性や研究価値も高いため、一部では“捕獲優先”の指示が出されるケースもある。
● 魔獣と人類:共生か、排除か
魔獣という存在に対する人類のスタンスは、地域・文化・宗教観により異なる。
たとえば、ルミナス大陸の一部部族では、魔獣を“精霊の使い”として祀っており、
特定の祭事では“魔獣との契約”によって守護を受けているとされる。
一方で、イグニスやエレトゥスでは“討伐対象”としての扱いが徹底されており、
その素材は武器・防具・薬品などに利用される“高級資源”とされている。
魔獣が“災害”か“資源”か――その解釈の違いこそが、世界の多様性を生んでいる。
● 結語:魔獣とは何か?
魔獣とは、魔素と自然が交わることで生まれる「存在の歪み」である。
それは時に、破壊であり、進化であり、鏡でもある。
人類が魔獣を恐れ、分類し、討伐しようとする限り、
この星にはきっと魔獣という存在が生まれ続けるだろう。
彼らは問いかけてくる。
「お前たちは、どちらの化け物だ?」――と。




