MSM公式登録魔獣データベース:影狼ヴェルディグリス
【MSM公式登録魔獣データベース】
※以下は基礎原種の公式記録。
※人工調整個体・契約改造体は本登録には含まれない。
■ 登録番号:
MB-0096-B
■ 一般名称:
影狼ヴェルディグリス
Shadow Wolf Verdigrys
別称:
・霧読みの狼
・観測する影
・谷の目
■ 魔獣分類:
獣型・魔素適応種
(Beast Class / Magic-Adapted Species)
分類補足:
中型狼型魔獣〈霧狼〉系統の派生種。
高魔素密度・視覚阻害環境に長期間適応した結果、感覚器官と空間感応能力が異常発達した“感応特化型魔獣”。
本種は戦闘力ではなく、
「生存と観測に最適化された進化形」と評価されている。
■ 生息地域:
・高霧濃度の霧樹林帯
・地熱と霊脈が重なる山岳性谷間
・湿地・岩盤・苔地が混在する高魔素地域
※共通点は以下の条件:
・視界が常に不安定
・音の反響が歪む
・魔力粒子が滞留する
※単独行動が基本で、固定縄張りは持たない。
環境条件そのものを“一時的な住処”として利用する。
■ 出現頻度:
【希少・単独遭遇型】
同種個体同士でも距離を保つ傾向が強く、群れを形成しない。
遭遇した場合も即座に戦闘に移行する例は少なく、
観測のみを行い、無干渉で離脱する記録が多数。
冒険者の証言では、
「姿を見たと思った瞬間には、すでにいなかった」
という報告が最も多い。
■ 討伐レベル:
Lv.14(MSM正式評価)
※純粋な戦闘力は中位クラス。
※ただし以下の要因により、実質危険度は高い。
・索敵能力の異常な高さ
・撤退判断の速さ
・奇襲成功率の高さ
単独行動者にとっては、
実質Lv.16相当の脅威と評価される。
■ 外見的特徴:
・体長:約2.2〜2.6メルト
・体高:約1.3メルト
・体重:180〜240キロ
・体毛は黒灰色で短く、光をほとんど反射しない
・霧中では輪郭が溶け、境界が曖昧になる
・眼は暗紅色〜紫紅色で、暗所においてのみ微弱に発光
脚部は細長く、関節可動域が異様に広い。
これにより、停止状態からの瞬間的な方向転換が可能。
観測者の多くが、
「数が増えた」「位置がずれた」と錯覚するが、
これは高速移動ではなく、知覚の追従遅延によるもの。
■ 能力・行動特性:
・霧感応(Mist Sense)
視覚・嗅覚・聴覚を統合した感応能力。
霧・蒸気・粉塵・魔力粒子の微細な流れを読み取り、
立体的な空間像を構築する。
・位相跳躍(Phase Leap)
脚部筋繊維に魔素を瞬間集中させ、
移動の“始点と終点”のみを強調する挙動。
結果として、位置が飛んだように知覚される。
・非捕食優先行動
明確な飢餓状態でなければ攻撃を行わない。
対象の魔力量・反応速度・重心移動を測定後、
「不要」と判断すれば接触せず撤退する。
・環境同化行動
縄張りを持たない代わりに、
その場の霧・地形・音響特性に行動を即応させる。
環境が変われば、行動パターンも即座に変化する。
■ 食性:
・肉食寄りだが捕食頻度は低い
・主な捕食対象は小型魔獣、霧棲生物、地脈寄生体
・人間を積極的に狩る例はほぼ確認されていない
※ただし、魔力密度の高い個体には強い興味を示す。
■ 食材としての評価:
・肉質は淡泊で魔素臭が強く、食用には不向き
・骨および眼球は高感度感応素材として研究価値あり
・実用的な食材価値は低く、流通例はほぼ存在しない
■ 注意事項:
・戦闘よりも観測を優先するため、
不用意な追跡・深追いは危険
・霧環境下では複数体に見える錯覚が発生する
・討伐失敗例よりも
「存在を確認できなかった例」の方が圧倒的に多い
■ 総評(記録官備考):
影狼ヴェルディグリスは、
「倒すべき魔獣」ではない。
それは、
見られていたことに、後から気づく魔獣である。
霧地帯における索敵・感応能力の基準点として、
現在も多くの調査報告が参照対象として扱われている。
熟練者ほど、こう語る。
「――あれに姿を見せられた時点で、
こっちはもう試されている」
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【非登録個体/研究所製人工魔獣】
■ 仮称:
契約魔獣〈観測個体K-α〉
Contract Beast “Observer K-Alpha”
■ 開発元:
帝都・中央魔導研究院
第七監査系統/非公開部局
■ ベース原種:
影狼ヴェルディグリス(MB-0096-B)
■ 人工改変要素:
・単眼化魔導視覚器官の埋設
・地脈非同調型魔力循環炉心
・環境魔力への「擬似非干渉化」処理
・感情・捕食欲求の抑制
・命令系統を【観測・識別・帰還】に限定
■ 特徴的差異:
・谷・地脈・霊脈に「触れていない」のに拒絶されない
・自然魔獣に見られる「生存欲求」がほぼ存在しない
・戦闘は目的ではなく、反応計測手段
■ 想定任務:
・高位存在の生存確認
・環境異常地帯における反応計測
・特定人物の魔力・身体反応の観測
※討伐されること自体は「想定内」。
■ 総評(機密注記):
これは魔獣ではない。
魔獣の形をした測定器である。
谷が拒んだのは、その力ではなく、
「ここに在る理由を持たない存在」だった。




