“光の帝国”千年史概説
✦ ルミナス聖皇国:歴代皇帝と国家の歩み
――“光の帝国”千年史概説――
ルミナス聖皇国は、表向きは「光の神ルミナの加護を受けた聖なる大帝国」と称されるが、歴史を紐解けば宗教・戦争・政治的闘争が幾層にも絡み合った、極めて現実的な国家である。
以下は、特に国家の体制が固まった「ルクレティア王朝」の皇帝たちを中心にまとめた歴史記録である。
◆ Ⅰ. 皇統の成立と初期の皇帝たち
――“光の帝国”はどのようにして形成されたか
● 初代聖皇:ルシウス・ルクレティア一世(在位:約500年前)
「光は地に満ちよ」――建国の言葉
・七神戦争後の混乱期に、光の神殿を中心とした都市国家同盟を統一。
・“神の声を聞いた”と宣言し、光信仰のカリスマ指導者として即位。
・帝都セレスティアの第一次環状都市化を実施。
・光の神官団と各都市の代表をまとめ、「聖皇制」の基礎を作る。
→ 実態としては宗教勢力が軍事力を持った神権国家の誕生である。
● 第二代:セレスティア二世(在位:47年)
・行政制度を整備し、帝都に大学院・魔導研究区を設立。
・“教育こそが光の普及”という理念を掲げ、識字率を急上昇させる。
・光の教義を“倫理学”へ昇華し、宗教から政治哲学へ転換を始める。
→ 文治国家路線の確立。
● 第三代:ルクレティア三世(在位:31年)
・周辺の独立聖堂都市を吸収し、中央集権体制を強化。
・蒼竜騎士団の原型を創設。
・“光の道(光都街道)”を整備し、帝都を七大陸へと結ぶ物流網を形成。
→ ここで初めて“中央帝国”としての形が整う。
◆ Ⅱ. 中期皇帝:繁栄と緊張の時代
――繁栄が影を生み、影が光を必要とした
● 第七代:アストラ四世(在位:62年)
・ルミナ大聖堂の再建と巨大化。
・帝都の環状区画を「七層環状都市」として再構築。
・宗教儀礼の大部分を形式化し、多民族融和政策を展開。
→ この頃、ルミナス聖皇国は「平和と学術の帝国」として世界的に評価されていた。
● 第十代:グラン五世(在位:18年)
・貴族階級の反乱を鎮圧、枢機院・行政院を強化。
・帝都の地下都市「影市」が拡大、治安悪化。
・内政の整備と引き換えに、影の経済が広がる。
→ この皇帝以降、“光の都の影”と呼ばれる社会分断が顕著に。
◆ Ⅲ. 転換点:聖王と呼ばれた皇帝
――そして、帝国は“光による侵略”を開始した
● 第十五代:セント=ルクレティア六世(在位:52年)
“聖王”と称されたが、その実態は大陸戦争の首謀者
キーワード:「光による平和」「神の名のもとに全ての争いを終わらせる」
● 功績(表向き)
・帝都の第二復興。
・光脈を利用した国家大魔導炉の建設。
・医療・教育支援の拡大。
・“光の平和構想”を提唱し、世界統一の理想を掲げる。
● しかし実態は──?
・“神の声を聞いた”と再び宣言し、教義強硬派を登用。
・「他大陸の争いは闇の介入によるもの」と断定し、
大陸間干渉と軍事派遣を正当化。
・使徒(宣教師)と聖騎士団を送り込み、
周辺諸国の内部を“光の正義”で浸食。
・最終的には、火・水・風・雷・岩・闇の大陸に軍団を派遣。
・結果として大陸規模の衝突が連鎖し、終焉戦役の遠因を作る。
→ “聖王”という称号は政治的プロパガンダであり、
後世の歴史家は彼を『光による統制者』と呼ぶ。
◆ Ⅳ. 近代:沈黙と衰退
――終焉戦役、そして帝国暦1385年現在
● 第十六代(現皇帝):セント・ルクレティア七世(在位:20年)
現フェルミナ王女の父。
高齢で、現在は政務の多くを枢機院に委譲。
● 特徴
・父王(六世)の侵略政策を表向き否定し、“光の節制”を提唱。
・だが実際には政治闘争の処理に追われ、国内の腐敗を止められない。
・神の沈黙により宗教の権威が低下し、政治・貴族・学術の三権が分裂。
・後継者争い激化。七人の王子姫が各派閥の象徴に。
・フェルミナ王女は末娘ゆえ政治派閥の思惑に巻き込まれやすい。
→ 形式上は強大だが、内実は分裂・腐敗・停滞が進む。
◆ Ⅴ. ルミナス聖皇国の歴史年表(簡易)
▼ 建国期(約500年前)
・七神戦争の余波で世界が分断
・初代皇帝が光神殿連盟を統一し「聖皇国」を建国
・宗教国家として急成長
▼ 発展期(第二〜八代)
・教育制度の整備
・帝都の大建築
・各地との外交と貿易の安定化
▼ 中央集権期(九〜十二代)
・貴族制の整備
・魔導技術の発展
・中央主権の強化
・帝都の影市問題発生
▼ 緊張期(十三〜十四代)
・外敵との小規模戦争
・技術革新
・教義強硬派の台頭
▼ 大陸間戦争の時代(十五代:聖王セント=ルクレティア六世)
・“世界平和”を掲げた軍事介入政策
・宣教師と騎士団の海外派遣
・周辺諸国の宗教紛争化
・魔神族の台頭を招き終焉戦役の下地を作る
▼ 復興と沈黙(十六代:七世)
・終焉戦役後、国家的混乱
・宗教権威の失墜
・行政院・枢機院の権力闘争
・経済は好調、しかし格差と治安悪化
・王族内の政治バランスが崩壊しつつある
◆ Ⅵ. 歴代皇帝の思想変遷と国家性の変化
【時代/皇帝の傾向/国家の特徴/備考】
□ 建国期 / カリスマ聖皇 / 神権国家の成立 / 戦後の混乱収束
□ 発展期 / 文治派 / 教育・文化が繁栄 / 宗教国家 → 文明国家
□ 中央集権期 / 法治派 / 官僚国家化 / 影市拡大
□ 聖王期 / 教義強硬派 / 世界宗教帝国へ / 大陸間戦争の原因
□ 現代 / 調停派(弱体) / 権力分散・腐敗増加 / 神の沈黙による空洞化
◆ Ⅶ. 物語への反映:なぜこの歴史が重要か
1. フェルミナは“侵略の血”と“光の象徴”の二重の存在
彼女自身が王家の矛盾の結晶。
2. ゼンはかつてこの帝国の矛盾を体験し、脱出した人物
かつて英雄だったが、光の裏側を知りすぎた。
3. クレアは帝都の“影市”出身
光と影を繋ぐ存在。
4. 聖王六世の政策が、終焉戦役と世界崩壊の原因
ゼンが戦う理由、世界観の根幹。
5. 現在の帝国は腐敗し、正義の定義が揺らいでいる
ゼンの灰庵亭が“光でも闇でもない第三の場所”として重要。
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✦ ルミナス聖皇国・王族七人の詳細設定
―― “光の血統”と呼ばれる者たち ――
(帝国暦1385年現在)
王族七名は、光の神ルミナの“象徴としての七柱”とも呼ばれ、政治的にも宗教的にも特別な意味を持つ。
だが内情は深刻な派閥争いと思想分裂が続いており、聖皇国の不安定化の原因にもなっている。
◆ 第1王子:レグルス・ルクレティア(42歳)
――「光の帝位を継ぐ者」
通称:光冠の皇子
性格:冷静・指導者気質・上品だが冷徹
身長:187cm
外見:白金の長髪、黄金色の瞳。王族の中でも最も“神に近い容姿”と言われる。
職務:枢機院筆頭/帝国軍統括監
派閥:帝国強硬派(貴族・騎士団支持)
得意:光属性の高位魔導、軍略、外交
特徴
・父王の後継筆頭。
・聖皇国の“秩序維持と拡大”を最優先し、大陸への介入も必要と考える。
・聖王六世の政策を肯定しており、彼こそが「真の光帝」と語る。
・ゼンを「逸材であったが、国家より人を優先した裏切り者」と評している。
フェルミナ視点
「お兄様は立派。でも……光が強すぎて、近づくと眩しいの」
◆ 第2王女:アナスタシア・ルクレティア(38歳)
――「聖皇国第一の才媛」
通称:知慧の光姫
性格:温和・博識・控えめだが芯が強い
職務:聖学院最高教導官/帝国図書院総監
外見:白金のストレートヘア、淡金の瞳。細身で清楚。
派閥:学術派・中道(行政院支持)
得意:魔導理論・歴史・教育体系の構築
特徴
・帝国史上最高の魔導理論家と称される女性。
・“光=哲学”と捉え、宗教としてのルミナ信仰には距離を置く。
・聖王六世の侵略政策を批判した数少ない王族。
・フェルミナを密かに支援しており、旅立ちを黙認した一人。
フェルミナ視点
「一番優しいお姉様。いつも“光は人のためにある”って教えてくれた」
◆ 第3王子:フレイン・ルクレティア(34歳)
――「帝国経済と政治の黒幕」
通称:黄金の宰司
性格:合理主義・現実主義・飄々
外見:白金髪を後ろで束ね、片眼鏡をかけた知的な青年。
職務:行政院筆頭/財務局長官
派閥:貴族連合(経済派)
特徴
・帝国の税制・貿易・物流を事実上支配する実力者。
・ルクレティア七世の実務を代行し、政務の半分は彼の采配による。
・「光の秩序? 神の恩寵? そんなものは計算で動かせる」と公言。
・戦争には反対だが、外交操作には冷酷に動く。
フェルミナ視点
「うーん……どこか“ニヤッ”としてて苦手です。でも頭はすごいんですよね」
◆ 第4王女:リュミエール・ルクレティア(31歳)
――「光の歌姫、民衆の象徴」
通称:聖声の王女
性格:明るい・慈愛深い・人を責めない
外見:緩やかな白金カールヘア。歌うたび光が揺らめく。
職務:大聖堂・聖唱会の筆頭歌姫
派閥:信仰派(神殿院支持)
特徴
・帝国最大の歌姫で、民衆の心を掴む“光の代弁者”。
・歌声にはほんの微弱な回復作用があり、信仰の象徴的存在。
・政治には疎く、教義強硬派に利用されがち。
・王女フェルミナを可愛がっている“姉ポジション”。
フェルミナ視点
「リュミお姉様は、歌だけで世界を優しくしちゃうんです」
◆ 第5王子:ヴァルド・ルクレティア(27歳)
――「次期 軍部の怪物」
通称:光圧の騎士
性格:攻撃的・誇り高い・短気・不器用
外見:鍛えた体。短髪。鋭い光の紋章タトゥーを持つ。
職務:蒼竜騎士団・現団長
派閥:軍部強硬派
特徴
・ゼンの後任にあたり、彼を深く尊敬しているが敵視もしている。
→「なぜ英雄が逃げた? 俺なら戦い続けたのに」
・先王六世の“光による統一”を肯定しているが、
実は純粋に「強さこそ正義」と信じている単純な人物。
・フェルミナには優しいが、兄弟間の立場上あまり話せない。
フェルミナ視点
「お兄様……すぐ怒鳴るけど、本当は優しいんです。知られたくないみたいだけど」
◆ 第6王子:カシアン・ルクレティア(23歳)
――「影の諜報王子」
通称:白影
性格:柔和に見えるが、打算的・静かで掴めない
外見:白銀に近い短髪。細身。常に静かな微笑を浮かべる。
職務:神聖魔導兵団〈白影〉諜報部 指揮官
派閥:神殿・影部隊
特徴
・帝国の諜報網「蒼光庁」を事実上統括する。
・見た目は天使のようだが、実態は冷酷無比の策略家。
・ゼンの引退後、彼の出生や“零位種”と呼ばれる種族の研究にも着手している魔導研究機関の重役でもある。
・フェルミナの行方を追っており、彼女の旅を利用しようとしている。
フェルミナ視点
「この人……優しいようで、どこを見てるかわからないの。こわい」
◆ 第7王女:ルミナ・エル・フェルミナ・ルクレティア(20歳)
――「光の末姫。自由を求め山へ降り立つ者」
通称:フェルミナ、フェル
※既に提示されている設定を尊重し、要点のみ簡潔に再掲。
特徴
・七王族の中で最も“光”を自然に纏う。
・性格:陽気・大胆・不器用・まっすぐ。
・能力:光環(感情安定波)、癒し、結界。
・ゼンの英雄譚に憧れて育ち、政略結婚を拒否し山へ逃亡。
・彼女だけが“光を人として使う”という希少な資質を持つ。
→ 王家の中で唯一、“光を支配ではなく癒しに使おうとする者”。
◆ 王族七名:構造と相関図
――ルミナス聖皇国の政治混乱の原因
【王族/年齢/立場/派閥/ゼンへの態度】
□ 第1王子レグルス / 42 / 皇位継承筆頭 / 強硬派 / 批判的・警戒
□ 第2王女アナスタシア / 38 / 学術院長 / 中立・学術派 / 中立、好意的
□ 第3王子フレイン / 34 / 行政院筆頭 / 経済派 / 利用価値ありと判断
□ 第4王女リュミエール / 31 / 歌姫 / 信仰派 / 純粋に尊敬
□ 第5王子ヴァルド / 27 / 蒼竜騎士団長 / 軍部 / 尊敬と敵意
□ 第6王子カシアン / 23 / 諜報指揮官 / 影・神殿派 / 警戒・監視
□ 第7王女フェルミナ / 20 / 末姫 / 無所属 / 強い憧れ
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✦ フェルミナの婚約をめぐる政治構造
――「末姫ひとりの婚約」が帝国を揺るがす理由 ――
■ Ⅰ. 婚約の発端:帝国暦1384年《七極均衡条約》の破綻危機
大陸は現在、七大陸が均衡を保つ「七極均衡体制」によって辛うじて平和を保っている。
しかし近年、
雷属性国家 《エレトゥス大陸連邦》が軍備拡張を開始。
特に“雷導兵器”と呼ばれる次世代魔導兵装の開発が急速に進み、
「エレトゥスが七極均衡を破る可能性がある」
と各国が警戒していた。
ルミナス聖皇国もまたその標的になり得るため、
同盟強化が急務となった。
■ Ⅱ. フェルミナ婚約の目的
―― 七番目の王女を「政治の接着剤」として利用
皇族の中で、
・軍部 → 第5王子
・行政 → 第3王子
・信仰 → 第4王女
・学術 → 第2王女
・外交 → 第1王子
など、主要分野はすべて王族が押さえていた。
だが――
国際関係(特に海路・貿易)だけが弱点だった。
この弱点を補うために浮上したのが、
✔ 「水の大陸《ネプトラ大陸》との同盟強化案」
✔ 「その象徴として、王女フェルミナの政略婚姻」
ネプトラ大陸は巨大な海洋貿易国家であり、
その王太子との婚約は帝国にとって最高の外交カードとなる。
■ Ⅲ. 婚約相手:ネプトラ大陸 王太子
“潮流の王子”リヴァノ・ネプタリウス(22歳)
● 海洋国家・ネプタリア王国の次期国王
● 若くして外交能力に優れ、他大陸とも友好関係を構築
● ただし国内の保守層(潮の祭祀派)が強硬で、
彼自身が王となるためには“帝国との結びつき”が必要だった
ネプタリア側としても婚姻に強い動機があった。
■ Ⅳ. なぜフェルミナが選ばれたのか
理由は三つあり、どれも“彼女の自由意思”とは無関係だった。
① フェルミナは「政治的に最も利用しやすい王族」だった
上の六王族はすべて、
帝国の主要機関を背負う存在であるため、
「誰かを外国に嫁がせる余裕がない」
という状態だった。
一方、フェルミナは
・若い
・地位は低い(第七王女)
・政治的発言権を持たない
・派閥に属していない
ことから、
「最も反発の少ない選択肢」
として扱われた。
② 末姫として“象徴価値”が高い
ルミナ信仰では、
“七”は聖数であり、末姫は特別視される。
外交儀礼上も、
「七王族の末姫を娶る=帝国との永続同盟」
と見なされるため、
ネプトラ側にとっては大きな利点となった。
③ 王家内部の力学
―― 「フェルミナの婚約は、誰の利益になるのか?」
フェルミナの婚約案は、表向きは「帝国とネプトラ大陸の同盟強化」。
だがその裏では、ルミナス皇家の権力者たちの思惑が絡み合っていた。
もっとも巧妙にこの状況を利用しようとしたのが――
第六王子カシアン・ルクレティアである。
以下は、その全貌。
▶︎ カシアンの策略
――「影が海を支配すれば、光の帝国は永遠となる」
カシアンがフェルミナ婚約に賛成した理由は、
兄弟の中でも“最も純粋に政治的計算だけで動いた”ためである。
しかし彼の策略は、単に婚姻を進めるだけではなかった。
➡︎ 1. ネプトラ大陸への“影の橋頭堡”を築く
ネプトラ大陸は海洋国家ゆえに、
ルミナス聖皇国の諜報網が入り込みにくい。
その理由:
・海上移動が中心で、陸路諜報が成立しづらい
・潮の祭祀派(宗教組織)が国内情報の全てを統制している
・魔導通信が水属性に偏り、帝国側と互換性が低い
つまり、
帝国はネプトラ内部の政治構造に干渉しづらい。
だが――
フェルミナが王太子妃になれば状況は一変する。
“王太子妃の護衛”の名目で白翼影部隊を送り込める。
さらに、フェルミナの身柄保護を理由に、
ネプタリア王宮内部に常時諜報要員を配置できる。
これは事実上、帝国影部隊が
① ネプタリア王室の動向
② 海洋貿易路の情報
③ 潮の祭祀派の宗教ネットワーク
すべてにアクセスできることを意味する。
カシアンはこれを、
「帝国の光は大陸を照らす。だが海を照らすのは“影”の役目だ」
と評した。
➡︎ 2. 王太子リヴァノへの“依存構造”を意図的に作る
ネプタリアの王太子リヴァノは外交的だが、
国内保守層(潮の祭祀派)から強い反発を受けている。
この弱点を、カシアンは徹底的に利用しようとした。
● カシアンが描いていた構図
1. フェルミナが王太子妃になる
2. その“嫁入り道具”として帝国の支援技術を導入
(例:帝国式魔導水路、光導通信用塔、帝国流衛生医療制度など)
3. 王太子の政権基盤が“帝国技術”に依存する
4. 王太子=帝国派の傀儡に近づく
5. 海洋貿易・外交方針に帝国の影響力を及ぼせる
最終的には、
「ネプタリア王国の外交・経済・防衛を帝国が間接的に掌握」
という未来を想定していた。
➡︎ 3. 潮の祭祀派(ネプトラ側宗教勢力)の排除が可能になる
ネプトラ大陸の最大の障壁は、
海洋宗教を柱とする“潮の祭祀派(Tide Priory)”。
彼らは
・王族の婚姻
・国家儀礼
・重大外交
・魔導航路の管理
これらすべてに神託による“承認”を必要とする。
王太子リヴァノは、この祭祀派の承認を得られず苦しんでいる。
だがフェルミナ王女の嫁入りは、
祭祀派にとっても無視できない外交的成功になる。
これにより、
祭祀派は王太子を拒絶しにくくなり、
「祭祀派の権力を弱体化 → 王太子派を強化 → 結果として帝国派が台頭」
という構造改革を促せる。
カシアンはその過程を利用し、
祭祀派の宗教資料を“異端審査”として抜き取り、
諜報資源にするつもりだった。
➡︎ 4. “影部隊の監視下で、ネプトラ政権に関与できる”構造の完成
カシアンの最大の狙いはこれである。
フェルミナ王女がネプタリア王家に入れば――
1. 王女の護衛として白影部隊を常駐させられる
2. 王太子の身辺安全も帝国側が握れる
3. 王族の魔導通信は帝国式を採用せざるを得ない
4. 宮廷の動向はすべて蒼光庁へリアルタイムで送信
5. 祭祀派の秘密儀礼も監視下に置ける
つまり、
ネプタリア王政そのものを“影の糸”で操れる。
帝国が海洋国家に直接支配権を発生させることは不可能だが、
諜報と政治影響力による“間接統治”なら十分可能となる。
これはカシアンの言葉で言えば――
「海が帝国のものになる必要はない。
ただ海が“帝国の意志を無視できなくなる”状態が理想なのだ」
まさにその理想形になる。
■ Ⅴ. 婚約が“フェルミナの逃亡”につながった理由
フェルミナ自身が逃げ出した背景には、
次の三つの圧力があった。
① 自分の意思とは無関係に決められた「人生の終身刑」
・婚礼は半年後
・ネプトラ王都に移住し、以後は帰国不可
・王太子の妻として外交儀礼の中心に立たされる
・政治・宗教・文化の表看板として利用される
・護衛・侍女・随行官による“国家監視”が常につく
フェルミナはこれを
「檻の中の鳥になる」
と表現した。
② 王太子リヴァノが“理想的すぎた”
リヴァノ王太子は礼儀正しく優秀。
だが彼はフェルミナにこう言った。
「あなたは“光の象徴”です。
私の国の民を安心させるために、
私はあなたに光り続けてほしい」
つまり“個人”ではなく“神話”として求められた。
フェルミナの返答:
「……私は、ただ人でいたいだけなのに」
③ きっかけとなった「第二の決定」
婚約発表直前、
皇族会議にて追加決議が行われた。
● フェルミナはネプタリア王国に渡る際、
“影部隊(第6王子カシアン)による随行監視” が義務づけられた。
つまり、
「国外に出しても、帝国が完全に掌握し続ける」
という露骨な支配。
フェルミナはこの決定を聞いた瞬間、
初めて人生で泣き崩れた。
■ Ⅵ. フェルミナの逃亡
――「自由ではなく、“自分で選ぶ人生”のために」
逃亡の夜、
彼女がクレアに語った言葉。
「私は、誰かの光である前に、
私自身でいたいんです。
……そして、
あの人に、ゼン様に、
“自分の足で歩いて会いに行きたい。”」
クレアはこの言葉を聞き、
彼女の護衛を“職務”ではなく
“友情としての同行”に変えた。
■ Ⅶ. 婚約の政治的影響
――フェルミナ逃亡後の帝国の混乱
● 第1王子(強硬派)
「王族の逃亡は国家の恥。必ず連れ戻す」
● 第3王子(経済派)
「婚約破棄は外交的損失。取引材料に使える」
● 第6王子(影部隊)
「……彼女がどこに逃げても、我々は見ている」
(追跡を始める)
● ネプタリア王国
「末姫の逃亡は同盟の拒否?」
→ 連合会議で帝国と対立へ。
● 民衆
「第七王女は自由を求めた」
→ 密かに“フェルミナ支持層”が生まれる。
■ まとめ
フェルミナの婚約は、
・大陸の軍事均衡
・聖皇国の政治派閥
・影部隊の権力維持
・外交カード
・王族の象徴価値
これらすべてが絡んだ 巨大な政治装置 であり、フェルミナ本人はその中心に立たされていた。
その構造が彼女を追い詰め、逃亡とゼン探訪へとつながっていく。




