ルミナス大陸(北方):サンロア高原帯〜サンメル自治圏
【世界設定資料:サンロア高原帯(Sanroa Plateau Zone)】
■ 1. 概要(General Overview)
サンロア高原帯は、帝都セレスティアの北東〜北方に広がる
乾風性の高原地帯であり、大陸中央部の気候・風脈・交通の分岐点となる広大な地域である。
大きくは“帝都外縁の高原”と“ガルヴァ山系前縁帯”の二層に分かれ、
その地質はおよそ数千万年前の大陸衝突期の隆起と
古代戦争時の魔導灼痕の影響を色濃く残している。
多くの旅人にとっては“無機質で殺風景な岩原”に見えるが、
地質学者・軍事史研究者・魔導地脈研究者にとっては
「大陸の歴史そのものがむき出しになった場所」と評されるほど重要な地帯である。
現在は交通網の発達により迂回ルートが増え、
一般の旅人が通ることはほとんどないが、
旧道を使う“静かな旅人”や警備隊、巡礼者などが細々と利用している。
■ 2. 地理・地形(Geography & Terrain)
● 2-1. 標高
・帝都外縁:標高900〜1100m
・高原中央部:1200〜1500m
・ガルヴァ前縁:1600〜1800m
・ガルヴァ山系の外壁:2000m以上で垂直に近い崖
高低差が少ない“広い台地”が続くが、
ガルヴァ山系の手前で急峻な斜面に変わる。
● 2-2. 主な地質構造
・露出した花崗岩層
→ 風の浸食で滑らかな表面を持つ巨岩が散在。
・黒曜鉱混じりの岩盤
→ 古代戦争時の魔導灼痕の名残り。
・断層線が地表に走る帯状地形(サンロア断帯)
→ 沈み込み帯がほぼ地上に現れたような構造で、
まるで“黒い線”が地表を裂いているように見える。
・地脈が浅く走る“薄脈”構造
→ 魔力の流れが可視化されやすい特殊地形。
→ 夜間、微弱な青白い光を発することがある。
● 2-3. 植生
・低木:
→ 風耐性のある“サルド低木”“砂灰棘”
・草本:
→ 薄い灰緑色の高原草“サンロア苅草”
・花類:
→ 小型の“風耐花”が春・秋に微かに咲く
植生は極めて乏しく、
「生命の気配が薄い土地」として恐れられることもある。
● 2-4. 気候
・一年を通して強風(平均風速6〜10m/s)
・昼夜の寒暖差が大きい(最大20℃差)
・雨は少なく霧が多い
・夏でも朝晩は冷え込む
特に春秋には“高原風暴”と呼ばれる突風が発生しやすい。
■ 3. 風脈構造(Windflow System)
サンロア高原帯は、大陸最大の風脈
「ガルヴァの啼き風」の始点であり、
風が音をまとって鋭く鳴ることから、巡礼者はしばしば
「大地が泣いているのを聞いた」と語る。
啼き風はガルヴァ山系の外壁にぶつかることで音が共鳴し、
低い笛のような音を発する。
この風は
・旅人の方向感覚を狂わせ
・水分を奪い
・火気を不安定にする
ため、古来より“風の試練地帯”とされていた。
■ 4. 地脈・魔導的特徴(Magical Characteristics)
● 4-1. 薄脈(地脈の浅走り)
サンロア高原帯のもっとも特徴的な構造は、
地脈が地表に非常に近い位置を走ること。
これにより:
・夜間、地面が淡く光る
・微弱な魔力が空気に溶け込む
・魔物はほぼ生息しない
・身体の敏感な者は耳鳴りを感じる
特に魔導感受性を持つ者は
「胸がざわつく」「息が浅くなる」などの症状を訴える。
フェルミナもこれを軽く感じていた。
● 4-2. 魔導灼痕
古代戦争末期に使用された魔導兵器の余波により、
岩盤がガラス化し、いまだに黒光りする地表が残る。
歩くと
“コーン……コォン……”と金属音のような反響が響くのは、
このガラス質の岩盤のせいである。
■ 5. 歴史(History)
● 5-1. 古代
・大陸衝突期に隆起して形成された古い高原。
・古の旅路“灰の巡路”の一部だった。
● 5-2. 中世
・帝国拡大期、軍事物流の主要ルートとして利用。
・風と乾燥のため腐敗が進みにくく、長距離の食糧運搬に向いた。
● 5-3. 終焉戦役期
・前線の補給路となり、多数の軍勢が通過。
・戦時加重による過剰使用で路面が大きく摩耗し、いまも轍跡や投棄物の痕が残る。
● 5-4. 近代〜現代
・鉄道開通により旅人は激減。
・現在は“静かな旧道”として細々と利用。
クレアがミナのために選んだのも、
この“人がほとんど通らない”という特徴による。
■ 6. 生態(Ecology)
生物は非常に少ないが、
以下の種が“風適応”によって生息している。
・風捕虫
風を背中の膜で受けて滑空する昆虫。
・岩穴狐
巣穴を深く掘り、深夜にだけ活動する。
・高原蜥蜴
岩肌に貼りつき体温調整が得意。
・高原渡り鳥 (ソアリングバード)
強風を利用して長距離移動する巨大鳥。
いずれも人に危害を加えず、
山郷へ近づくほど姿を消す。
■ 7. 文化・象徴性(Culture & Symbolism)
古代からサンロア高原は
「旅人の覚悟を試す場所」
とされてきた。
特徴:
・風の音が“神の声”と解釈される
・方向感覚が狂うため、修行者が訪れた
・巡礼路“灰の前路”の導入口や碑文が点在
山郷の人々はここを“外界との境界”としており、
高原を越えてきた旅人には
静かな敬意を払う文化が残る。
■ 8. 現代的役割(Modern Usage)
・帝国軍の訓練ルートの一部
・地質研究者の観測地点
・魔導学院の野外実験地
・旅人の“心を整える巡礼路”
・ガルヴァ山郷への安全な“旧ルート”
観光目的では使われず、
冒険者すら滅多に通らないため、
現代では“静寂の帯”と呼ばれることもある。
■ 9. ビジュアルイメージ(Visual Imageの要約)
・灰色と黒の地表
・細く長い影
・光を反射する裂け目
・風が吹くと“笛の音”
・乾いた空と巨大な山壁
・遠くにガルヴァの外壁がそびえ立つ
・夕暮れは岩が赤銅色に染まる
・夜は薄脈が青白く光る
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【南渓道概要資料】
■ 1. 地域構造と地理的位置づけ(大局)
ガルヴァ山郷は、
サンロア高原帯の南端に張り出す「灰の尾根(灰白の断崖)」と、
その向かい側にある「ガルヴァ渓谷」に挟まれた隔絶された“盆地状の谷地形”に位置している。
この閉鎖地帯は、北・東・西の三方向を断崖・霧脈・古戦場跡で塞がれ、
外界へ出られる“安全な”道は、南側の一点のみである。
その唯一の出口――
ガルヴァ渓谷に架かる古い吊橋へ続く道が、
南渓道である。
南渓道は、サンロア高原帯の尾根を回り込み、
さらにその向こう側のサンメル自治圏(東部の交易都市群)へ至る、
現代における山郷唯一の「生活道路」である。
南渓道の存在こそが、
ガルヴァ山郷が外界と細くつながっていられる理由である。
■ 2. 南渓道とサンロア高原の関係
● 南渓道は「サンロア高原の外縁ルート」
クレアたちの辿った北街道は、
サンロア高原帯北部から“灰の尾根”へ抜ける旧帝国道の残骸だが、
南渓道は逆に、
・高原帯南端の崖下を進む
・気候が温暖で霧が薄い
・地形が比較的なだらか
という特徴を持つ。
つまり南渓道は、
サンロア高原の“険しい一帯を避け、下層を通る”緩やかで安全なラインであり、
旅人にとっては明らかに歩きやすい。
クレアが意図的に使わなかったのは、
この“歩きやすさ=交通量の多さ”が理由である。
■ 3. 地形詳細:ガルヴァ山郷から南渓道へ
山郷の地勢は、「北から南へ下る」ような階段状構造になっている。
北(帝都方面)
▼
【灰の尾根(灰白の断崖)】
▼
〈古戦場跡:灰の谷〉
▼
【ガルヴァ山郷(集落)】 ← クレア・ミナ滞在地点
┣ 北西:灰庵亭
┣ 東:清流ガルヴァ川
┣ 南:段畑群・薬草地帯
┗ 南東:聖灰祠
▼
【ガルヴァ渓谷】 ← 深い断崖・吊橋あり
▼
【南渓道】 ← サンメル自治圏へ続く唯一の外界路
▼
南の外界:潮霧海(マガローデ洋の内海)
南渓道は、
この図のガルヴァ渓谷の“さらに下”に位置する谷沿いルートである。
■ 4. 地理・地形(Geography & Terrain)
● 4-1. 南渓谷と渓道の成り立ち
南渓道は「ルサルカ南渓谷」と呼ばれる深いV字の谷を縫うように続く。
谷の壁面は急峻だが、崩落によって自然形成された“段”が多く、比較的安定した道筋が確保されている。
地形の特徴
・谷壁:50〜200mの切り立った岩壁
・谷底:幅10〜30mの細い水路帯
・渓道:谷壁に設けられた“自然のテラス”を繋ぎ合わせた道
・標高差:入り口〜山郷外縁で約600m
地質はサンロア高原と同じ花崗岩質だが、
水による浸食が進んでいるため、表面はなめらかで歩きやすい。
● 4-2. 水流・河川
谷底を流れる“ルサルカ清流”は、
ガルヴァ光脈泉から分岐した魔力濃度の低い生活用水。
・夏は澄んだ水が走り、魚影もある
・冬は部分的に凍るが、魔力の影響で完全には凍らない
・谷底の水音が、渓谷全体の反響を柔らかくしている
水路沿いに歩く旅人も多く、憩いのスポットも存在する。
● 4-3. 気候と霧
南渓道の最大の特徴は、
ガルヴァ山系から流れ出る「霧脈」の外縁霧が薄く滞留すること。
・霧は濃くはない
・方向感覚を失うほどではない
・だが光が乱反射し、日光の角度で景色が“揺れる”ことがある
観光客には“幻想的”と好評だが、
地理に慣れない者は迷いやすい。
■ 5. インフラ・道の整備状況(Infrastructure)
南渓道は「帝都+山郷自治会」の共同出資によって、
20年前に整備された比較的新しい生活路である。
● 5-1. 平坦な道幅
・平均 1.8〜2.5m
•乗用獣2頭が擦れ違える程度
•道脇に木製のロープガードあり(注意:老朽化が多い)
● 5-2. 簡易標識
木製の案内板が約300mごとに設置されている:
《→ 山郷:あと2.5刻》
《← サンロア高原:1刻》
《危険:落石注意》
観光客が迷わないよう配慮されているのが特徴。
● 5-3. 山小屋・休憩所
・2箇所の「簡易避難小屋」
・1箇所の「水汲み場」
・山郷側に近づくと、住民が作ったベンチや焚き火跡もある
旅慣れていない者でも歩けるように、
“最も親切なルート”として造られている。
■ 6. 生態・自然(Ecology)
● 6-1. 主な動植物
・霧鹿(山鹿より警戒心が弱い)
・渓谷燕
・岩苔(魔力含有の苔)
・霧樹の幼木(南渓道から山郷へ移り住む)
温暖で風の影響が少ないため、
サンロア高原よりは生態が豊か。
● 6-2. 南渓道に特有の景観
・岩壁にびっしり咲く“薄桃の苔花”
・昼間に光の柱のように射し込む“谷光”
・夕暮れに渓谷の岩肌が橙色に染まる“朱崖”
観光客の増加はこの景観が理由のひとつ。
■ 7. 歴史的背景(Historical Context)
● 7-1. 古代
南渓道は当時存在せず。
ガルヴァ山郷はほぼ“閉ざされた集落”だった。
● 7-2. 中世
水流に沿って隠れ旅人が通った痕跡が見つかっている。
だが大規模な道としての整備は行われなかった。
● 7-3. 近代
ガルヴァ山郷の高齢化・人口減少が深刻化。
山郷の住民が外界へ出ることが増え、
生活物資補給のために正式に“道”として整備。
■ 8. 南渓道そのものの詳細
● 8-1. 道の性質
南渓道は、山郷と外界を結ぶ唯一の安定・安全な登山道である。
特徴:
・片道 約1日半の行程
・崖下の細道、幅1.5〜2.5m
・道の8割が「渓谷のテラス状の自然地形」
・定期的に山郷の若者が補修
・落石や濃霧が少ない
・日当たりがよく、気温も高い
この“歩きやすさ”が、観光客増加の最大要因となった。
● 8-2. ガルヴァ渓谷と吊橋
山郷から南へ下ると、
巨大なU字の断崖地帯「ガルヴァ渓谷」が口を開く。
・高さ:最大200m
・幅:60〜120m
・底部:地下水の小川
渓谷の中央には古い吊橋(ガルヴァ渡り橋)が一本だけ架かり、
その先に南渓道の入口がある。
吊橋は山郷の住民によって定期修繕されているが、
「揺れが強い」「風で鳴く」など、旅人には少しスリルがある。
■ 9. 通行者の種類
南渓道は、サンロア高原帯と比べると人が多い。
● 9-1. 山郷の住民
・外界への買い出し
・薬草・木材の搬出
・旅商人との会合
・上物(毛織物・木工品)の販売
● 9-2. 外界の旅人
・サンメル自治圏の商人
・料理研究家・配信者
・学生・冒険者
・“ゼン巡礼者”(観光客)
特に灰庵亭人気により、
一日あたり 20〜80人が往来するという異例の混雑になっている。
■ 10. クレアが避けた理由
南渓道は安全だが、
とにかく人が多すぎる。
なぜなら、南渓道は
・ゼン=アルヴァリードの食堂「灰庵亭」
・古代遺跡が残る山郷
・“秘境の夕暮れ”
・霧樹林と光脈の森
といった“幻想的観光地”として知られ、
若者・研究者・配信者が絶えない。
フェルミナのような王族が歩けば、 一瞬で話題になる可能性がある。
写真・魔導録画されれば、旅が終了する。
さらに――
・帝都民の巡礼者が多い
・冒険者が記録魔導具を常に装備
・若い女性王族の“噂”はSNSで瞬時に広がる
クレアにとっては、
最も通ってはいけない道であった。
■ 11. 北街道(旧帝国道)との対比
クレアとミナが歩いた北街道(旧帝国道)は、
・崩落多数
・古戦場付近を通る
・エルド峠越えで危険
・一般旅人は皆無
という、
“安全ではなくほとんど人がいない”道である。
■ 12. 南渓道の景観(サンロア高原帯との比較)
● サンロア高原帯
・風が強く乾燥
・標高が高い
・光麦・灰花草が多い
・空の色が澄む
・結界干渉が少ない
● 南渓道
・谷沿いで風が弱い
・標高は低め
・苔・霧樹枝・段状の岩壁
・水音が常に響く
・光の反射が柔らかい
サンロア高原の“広がる世界”とは対照的に、
南渓道は“包まれた世界”の雰囲気を持つ。
この地形の変化が、旅の空気を劇的に変える。
■ 13. 南渓道が生んだ現代的問題
ゼンの存在による“観光需要の爆発”で、
・渓道の渋滞
・記録魔導具を回しながら歩く旅人
・SNS映え狙いの迷子
・過剰な巡礼行為
・吊橋上での撮影事故
などが頻発している。
山郷の長老は、
「ゼンのおかげで若者が増えた」と喜ぶ一方で、
「道がうるさすぎる」と頭を抱えている。
■ 14. ゼンが“この地”を選んだ理由
本来、この一帯は
・北は断崖(灰の尾根)
・東は霧脈
・西は古戦場
・南は渓谷で閉ざされ
という、
“限られた陸路でしか来れない閉鎖世界”だった。
英雄であったゼンがこの地を選んだのは、
「基本的に誰も来ず、平穏を求めるのにもっとも適した土地だったから」
だが、
今や南渓道が観光客を運び、
“幻の食堂”の噂が独り歩きし、
結果として世界で最も“静寂を求めて選ばれた隠遁地”が大陸でも有数の“巡礼者が殺到する秘境店”へと変貌してしまった。
■ 総括:南渓道の立ち位置
南渓道は、
1. ガルヴァ山郷の生命線
2. 観光化を招いた唯一のルート
3. クレアが避けた“整備が進んでいる道”
4.かつての戦役期には補給路としても用いられた、戦略的通行帯の名残。
という多面的な役割を持つ。
もしミナたちがこの道を選んでいたら――
旅はもっと騒がしく、
もっと視線に囲まれ、
ゼンとの再会も全く違うものになっていただろう。
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【サンメル自治圏(Sanmel Autonomous Region)概要資料】
■ 1. 基本情報
サンメル自治圏とは、
“ガルヴァ山系南端に広がる河川盆地”を中心に形成された、
半独立的な商業自治都市群である。
帝国正式領ではあるが、
自治権が広く認められており、
・商業・流通の税制
・外交的な物資取引
・旅人の通行証発行
・港湾都市との連携
などについては、帝都の干渉が極めて少ない。
位置は大まかに言うと、
・北:ガルヴァ山郷(南渓道で接続)
・南:潮霧海(マガローデ洋の内海)
・東:沿海集落・海上交易路
・西:渓谷地帯を越えた農耕地群
に囲まれており、
山と海に挟まれた“物流の要衝”として発展した。
ガルヴァ山郷にとっては外界への唯一の窓口であり、
山郷の住民はサンメルを「海の街」と呼ぶことも多い。
■ 2. 地勢と景観
サンメル自治圏の地形は、ガルヴァ山系から流れ出した大河が形成した
複合扇状地と河川デルタを中心としている。
● 2-1. 気候
サンメル自治圏の気候は温帯湿潤気候に属し、四季がはっきりと分かれる内陸型の気候でありながら、東部に広がる沿岸部からの海洋性影響を部分的に受けることで、気温の年較差が比較的緩和されているのが特徴である。
冬季(11月下旬〜3月中旬)は寒冷で降雪も多く、大陸性気団の影響により内陸部では氷点下の日が続く。一方で、東部の海から流れ込む湿潤な空気が寒気とぶつかることで沿岸部では湿雪や霧が頻発し、内陸よりも気温がやや高めに保たれる傾向がある。
春(3月下旬〜5月)は気温の振れ幅が大きく、雪解けとともにガルヴァ山系からの融雪水が大河に流れ込み、複合扇状地やデルタ地帯に一時的な氾濫原を形成する。このため、春は湿度が高く、朝霧や局地的な洪水が見られることもある。
夏季(6月〜9月上旬)は短くも湿潤で、日中は30℃前後まで上がることもあるが、沿岸からの風が高湿度を緩和する役割を果たす。特にデルタ地域では、海風と河川の蒸発作用によって雷雨が多発しやすい。ただしヒートアイランド現象は限定的で、夜間には気温がしっかり下がる。
秋(9月中旬〜11月中旬)は比較的穏やかで、乾燥した空気とともに晴天の日が続きやすい。扇状地特有の排水性の高さにより、降水後も地面が乾きやすく、農作物の収穫期として最適な時期となる。
また、扇状地・デルタの地形は局地風や気温分布に影響を与え、日中は地表がよく温まりやすい反面、夜間には熱が逃げやすく、朝晩の冷え込みが際立つマイクロクライメートが発生しやすい地域となっている。
● 2-2. 主要景観
・潮霧海から吹く湿った潮風
・河口に広がる段々干潟
・大河沿いに立ち並ぶ交易倉庫
・霧に霞むように建つ商人組合の塔
港湾地区では、
沿岸用の軽飛空艇と海船が並ぶ光景が日常的だ。
■ 3. 歴史的な成り立ち
サンメルは本来、
ガルヴァ山系南山麓の“治水集落群”として生まれた。
しかし、三百年前の「帝国南部水害」で
山系から流れ込む氾濫が頻発したため、
帝国は治水専門の技師団を派遣。
この技師団の拠点が後に拡大し、
商人を呼び込み、
海と山を結ぶ交易拠点へと変化していった。
その結果、サンメルは、
◼︎“帝国の中で最も多民族が集まる自治都市圏”
へと成長した。
・人間
・獣人族
・妖精族
・沿海の水棲民
・砂漠地方の遊牧民
多様な文化圏がここで交易を行い、
自由な自治制度が誕生した。
■ 4. 経済的特徴
● 4-1. 海と山の交易拠点
サンメルの最大の資源は「物流」である。
山 → 海
・山鹿革
・霧樹の木材
・ガルヴァ薬草
・灰花草の染料
・山郷の石工品
海 → 山
・内海魚介
・潮霧塩
・海藻ガラス
・軽飛空艇部品
・外国商人の輸入品
南渓道を使って山郷へ運ばれる物資の8割は、
このサンメル産である。
● 4-2. 技術文化の交差点
サンメルは“職人工房の街”としても有名。
・霧塩の精製技師
・ガラス職人(海藻ガラス)
・蒸留酒工房
・船大工
・魔導装置の修理屋
地方では入手できない技術品を求め、多くの旅人がここを訪れる。
● 4-3. 観光地としての側面
最近になり、帝都の若者たちが
「灰庵亭へ行く前の拠点」
としてサンメルに滞在することが増えた。
宿屋・酒場・観光ガイドが発展し、
自治圏の収入の約40%が観光から生まれている。
■ 5. 南渓道との関係
サンメル自治圏とガルヴァ山郷を結ぶ唯一の道が
南渓道である。
・山から下って1.5日
・渓谷の吊橋を渡った先の平地がサンメル領
・通行税はごく少額(自治圏が自主徴収)
サンメル側では「灰庵亭ブーム」により、
南渓道を“巡礼ルート”として観光資源化している。
地図入りパンフレットすらある。
クレアが避けたのは、
この“賑わいすぎる道”のためである。
■ 6. 政治構造と自治制度
サンメルは帝国領ではあるが、
以下の理由で自治権が強い。
1. 歴史的に“治水技師団”が自治運営を開始
2. 多民族商人が投資し、保護特権を要求
3. 帝国南部の物流を担ったため、中央が干渉しづらい
4. 不干渉の代わりに税収の三割を帝国へ納める
結果として現在は、
「サンメル評議会」が行政を担う。
構成:
・交易商人代表
・職人工房の親方
・港湾管理組合
・各民族の代表
・帝国行政官(監査役)
帝国の“支配”というより、
連合都市の緩いつながりに近い。
山郷の住民からも
「帝国より話が通じる」と評判がよい。
■ 7. 文化的特色
● 7-1. 食文化
山郷とは対照的に、サンメルは“海の幸”が豊富。
・海藻ガラス鍋で煮込む潮霧スープ
・内海魚の炙り焼き
・山鹿肉の潮風干し
・ガルヴァ薬草のハーブティー
ゼンが山郷で扱う一部の食材は、
サンメルの市場から仕入れられているとされる。
● 7-2. 祭礼
「霧開き(きりびらき)」と呼ばれる行事が有名。
潮霧海の霧が薄くなる季節、
大河沿いに灯された灯籠が
海へと流れていく。
多民族が同じ光景を見上げる
サンメルらしい祭りである。
■ 8. 治安・安全保障
治安は比較的良いが、
以下の危険がある。
・海賊(沿岸に少数)
・盗賊(渓谷方面)
・闇商人
・密輸ブローカー
特に「山郷産薬草の密輸ルート」は
帝国の悩みの種。
サンメルも黙認しているわけではなく、
自主警備隊を置いている。
ガルヴァ渓谷を越えればほぼ安全だが、
南渓道の夜間通行は非推奨。
■ 9. 物語上の意味
サンメル自治圏は、以下の役割を果たしている。
● ① 山郷の“外界の顔”
山郷から見れば、
サンメルは 世界への唯一の出口であり、
外気・文化・物資の供給源。
● ② “観光客を運び込む母港”
灰庵亭ブームにより、
若者の巡礼者はまず鉄道経由でサンメルに集合し、
南渓道を登る。
これは山郷に
“静寂を破る流入”を生み、
ゼンの静かな生活を脅かしている。
● ③ クレアの意図を鮮明にする
彼女が避けたのは、
単に旅人が多いからではない。
サンメルを経由すれば
・帝都の噂好きの若者
・記録魔導具を持つ配信者
・帝都紙の取材班
・“英雄ゼン巡礼ツアー”の団体
と遭遇する可能性が高い。
フェルミナが通れば
“山奥で皇女が目撃された!”
と即日拡散される。
そのリスクが最も高いのがサンメル経由であり、
物語上の緊張感の根となる。
■ 10. サンメルとゼンの関わり
ゼン=アルヴァリードは
サンメルの市場にほとんど顔を出さないが、
彼の料理に使われている
・内海の魚の干物
・海藻ガラス製の器
・潮霧塩
・野外用の調理器具
・果実の蒸留酢
などの一部は、
サンメルでしか手に入らない。
ゼンは山郷から下りる際、“人が少ない早朝”だけに限定して買い物していたと噂される。
そのためサンメルの市場では、
「ゼンに似た人物を見た」という声が後を絶たない。
● 総括
サンメル自治圏は、
・山郷と外界をつなぐ広域的な河口都市
・多民族・多文化が混じる商業自治都市
・物資・旅人・噂の発信地
・情報、貨幣、風習が交差し続ける“動く接点”
・物流と文化の潮流がぶつかり、混ざり、また流れ出す“沼”のような土地
・フェルミナの旅の“避けるべき場所”の一つ
という多層的な役割を持つ。
山郷の静けさと、サンロア高原の荒涼と、帝都の喧騒の“中間”に位置する生きた街である。




