騎士グレミオの苦悩 ~ある姫を衛る騎士のダイアリー~
……どちらかと言うと、コメディー寄りかも知れません。すいませんっ。
(;>_<;)
あの日。俺の目に映る全ての世界が変わり、色鮮やかになった……。
『レイド大陸暦 2010年 ○月△日』
伯爵家の次男である僕は。公国の第三公女である、ラミス姫の誕生パーティーに招待され、出席していた。
父から何度も口煩く、年が近い姫様とお近づきになれる、またとないチャンス。この機会に姫様に気に入られる様に頑張れと、何度も何度もそう嫌になる程、父に言われ。自分は姫様のパーティーに行くのが、少し憂鬱になっていた。
──しかし。
パーティーで初めて見る、その可憐で美しい姫君に。……僕は一瞬で、恋に落ちた。
僕の目に映る全ての世界の色が、その日一変し鮮やかに映る様になった。
『レイド大陸暦 2011年 △月◎日』
「ねえ、見てグレミオ。」
ラミス姫が指差す、その先には。公国の騎士団一行の姿があった。騎士団が遠征から戻って来たのだ。
「ねえ、グレミオ。騎士様って、カッコいいと思わない?」
……よし、騎士になろう。僕はそう、心に決めた。
「フフ……。そして、私が悪い帝国に捕まったら。白馬に乗って助けに来てね……グレミオ。」
姫は可愛くくるっと回り、微笑みながらそう言った。
「……囚われる、前提なのかい?」
そういえば、この前。何かそういう演劇がやっていたな。まあ、そうなったら、僕は命を懸けて助けに行くとも。
……僕はこの日の約束を、一生涯忘れはしないだろう。
『レイド大陸暦 2017年 △月△日』
この日。公国では剣術大会が開催された。
この大会は大人の部と、十九才以下の学生の部と別れており。俺は学生の部で、出場した。
惜しくも優勝は逃したものの、姫の御前で準優勝という好成績を残した。
「……姫。俺は姫の騎士に、一歩近付けたかい?」
『レイド大陸暦 2018年 ◎月○日』
俺の騎士団への入隊が正式に決まり、俺は晴れて正式に騎士になった。
ラミス姫に会った時。……俺は、子供の頃のあの約束をまだ覚えているのかな?と、少し期待をしたのだが。彼女の言葉は、俺の予想していたものとは、全く別のものだった。
彼女はとても驚き、俺の心配をしていた。どうやら姫は、あの約束は覚えていない様だ。……それに俺って、そんなに頼り無さそうに見えるのかな?
姫に心配して貰えるのは、嬉いのだけれど。俺の剣の腕も、ちょっとしたもんなんだけどなぁ。
『レイド大陸暦 2018年 ○月○日』
俺は今日も何時もの様に、騎士団の訓練所で剣の稽古をしていた。
何故だか俺には理解出来ないが、最近騎士団の訓練の様子を、婦女子の方々が頻繁に見に来る様になった。
……訓練の様子何て、見て楽しいものなのだろうか……?俺には、ちょっと分からなかった。
ふと。婦女子の方々の、視線の先を追ってみる……。
……ん?俺?……いやいや、まさかね。
そういえば、最近。クリストフ将軍が街の婦女子達に人気とか、そういう噂を聞い事がある。恐らく女性陣のお目当ては、クリストフ将軍だと思われる。
そんな事を考えていると、突然俺の耳に。自分の名を呼ぶ大きな声が聞こえて来た。
「グレミオー!」
一人の令嬢が、俺の名を呼び大きく手をブンブンと振っている。その声の主は、大勢の取り巻きの令嬢に囲まれ。俺に向かって微笑みながら、無邪気に手を振っていた。
そして姫は、ドレスの裾を掴み。ぱたぱたと俺目掛けて走って来る。
「……姫?」
「ねえ、グレミオ。私も一度、剣を振ってみたいですわ。よろしいかしら?」
……剣を?俺は姫に剣を手渡すが、どうやら姫様には重すぎた様だ。
「んー。」
剣が扱えず、困った表情の姫様。
「駄目ですわ、重くて全く持ち上がりませんわ。」
……こういう姫様も、可愛らしい。
「ふふふっ。」
何やら、くすくすと微笑みだす姫君。
「こんな重い物を持てるだなんて、凄いですわ。グレミオも、もう一人前の騎士なのですわね……。ふふふっ。」
いや、剣程度。誰でも持てるだろう?と、思ったのだが。俺に向けて笑いかける彼女の笑顔を見て、そんな事はどうでも良くなった。
……俺は生涯、この日の姫の笑顔を忘れる事は無いだろう。
『レイド大陸暦 2019年 △月○日』
俺は、騎士団の一隊長に就任した。そんな訳で、家ではちょっとしたパーティーが催され。そのパーティーにラミス姫も、駆け付けて来てくれたのだ。
この日が終わらなければいいのに。と、願う俺だが。その想いも虚しく、パーティーが終わり。ラミス姫は、帰りの馬車の中に乗ってしまった。これでお別れは寂しい。そう、思い。何かこう、気の効いた言葉を探すが何も出て来ない俺。
……そうすると、姫が「そうですわ。」と話し掛けてきた。
「そう言えば、この前。お姉様達と湖が見える、素敵な丘を見付けたのよ。ねえ、グレミオ。今度そこへ、遊びに行ってみない?」
俺は胸が踊った。これはデートの御誘いなのだろうか?
……いや、二人でとは言ってないのだが。まあ、仮にも一国の姫なのだから。御付きの執事やメイド達も来るだろう。
これは、デートなのか?どうなんだ、グレミオ!
俺はデートの日が楽しみ過ぎて、その日はなかなか寝付けなかったのは、言うまでも無い。
『レイド大陸暦 2019年 △月×日』
デート当日の早朝。
その日、俺の屋敷に一報が届く。内容は、隣国である帝国が、我が公国に侵攻を開始したというものだった。
この日にか?よりにもよってこの日なのか?
……俺は、帝国と神に怒りを覚えた。
騎士団の一隊長である俺は、すぐ様城に向かい。将軍達と合流し、帝国の襲撃に備え出陣した。
開戦当初、帝国兵の数はおよそ二万五千。対する我が公国の兵力は、一万二千。戦力差はかなりあったが、両将軍の活躍により。初日の戦いは我が公国の圧勝に終わった。
……しかし、その夜。帝国の襲撃が始まった。そして帝国は闇夜に紛れ、恐ろしい神話の怪物を投入してきたのである。
味方の兵士達は皆、その初めて見る怪物に恐怖し怯え、苦戦する一方となってしまう。
……そして決定的となったのが、将軍の戦死である。二人の将軍の内、バラン将軍がその怪物に敗れ戦死したのを引き金に。帝国兵は一気に城に雪崩れ込み、開戦二日目にして、我が公国は敗れ去ったのである。
姫が囚われたと報告を受け、俺は気が気では無かった。クリストフ将軍はすぐ様、兵をまとめ。姫を救出すべく立ち上がった。
「……姫。すぐに助けに行く。……どうか。どうか無事でいてくれ。」
……俺は天に祈った。
俺達は姫の救出する為に、城へと向かう。必死に帝国兵と戦うさ中、俺の隊に嬉しい知らせが届いた。
クリストフ将軍が、帝国に囚われていた姫の救出に成功したというものだ。
……クリストフ将軍がやってくれた。流石クリストフ将軍。
そして、そのまま撤退の命が下り。俺達は撤退を始めた。姫さえ取り戻せれば用は無い。一先ず目的は果たされ、俺達は近くの村へと向かった。
村へ着くと、俺は姫に一早く会いたい為。姫の乗る馬車へと向かう。
姫は、丁度馬車から降りて来る途中だった。
「姫、よくぞご無事で……。」
…………。
「……姫?」
……俺は絶望した。
村の住人の避難を済ませ、俺達は村にある民家の一室に集まっていた。
……思ったより、クリストフ将軍の容態が悪いのだ。
クリストフ将軍は、姫を救出した後。あの怪物と戦い、その身に一撃を受け。瀕死の重傷を負っていた。
城が落とされ、この絶望的な状況の中。頼みの綱である、クリストフ将軍がこの状態である。……俺達の絶望は、計り知れなかった。
そんなクリストフ将軍の容態を、心配する姫。
……クリストフ将軍が救出したのは、第三公女ラミス姫ではなく。その姉君である第二公女ナコッタ姫であった。
俺はクリストフ将軍に、進言した。
「ラミス姫を救出する為に、兵を出す御許しを頂きたい。」
……しかし、クリストフ将軍は頷かなかった。
もう既に、我が公国の兵力は僅かしか残されていない。今はナコッタ姫を守る事を考え、友好国に援軍を要請するのだと、将軍は語る。
…………。
俺は、姫の事を想うと気が気では無かった。今頃姫は、帝国に酷い扱いを受けているのかも知れない。そう考える度、胸が張り裂けそうになった。
帝国に囚われた時は、必ず助けに行くと。そう誓った、あの時の約束を。……俺は果たす事が出来ないのか?
姉君であるナコッタ姫も、ラミス姫の救出に賛同してくれたのだが。クリストフ将軍の意見が変わる事は無かった。
……ならば、ならばこの俺一人だけでも。
…………。
俺は今日程、自分の無力さと帝国に怒りを覚えた事は無かった。
……しかし、そんな俺達に。また悪い知らせが届く。
「たっ、大変です!グレミオ隊長!クリストフ将軍!敵兵がっ、ヘルニア兵がすぐそこまで来ています!」
「むぎゅっ。」
──びたーん。
「なっ!?ヘルニア兵がもう……。」
「くっ……。もうこんな村まで来るとは……。村人を避難させておいて、正解だったな。」
…………。
「……所で、その床に倒れておられる御令嬢は?」
……おかしい。俺は姫に会いた過ぎて、姫様の幻でも見ているのだろうか?俺はごしごしと目を擦った。
──ごしごし。
やはり、見える。帝国に囚われている筈のラミス姫様の姿が……。おかしい、何か目の前に居る気がする。しかも、豪快に顔面から床に叩き付けられ、大の字に倒れているのだ。
……幻か?しかし、それは幾度も目を擦っても変わらず、ラミス姫のシルエットを保っていた。
…………。
俺はおかしくなってしまったのだろうか?
「えっ……!?ラミス?……まさかラミスなのっ!?」
姉君である、ナコッタ姫がラミス姫に気が付き声をかける。
……やはり、本物の姫だった様だ。例え顔面から床に大の字に叩き付けられても、その溢れ出す高貴な気品さは隠す事が出来ない様だ。
「……お元気そうで何よりですわ、ナコッタお姉様。」
「ひっ、姫様ー!?たっ、大変申し訳ありません!……おっ、俺は。何て事をっ!」
自分のした行動に、酷く青ざめる兵士。仮にも一国の姫君である、ラミスを突き飛ばしたのだ。兵士が青ざめるのも無理は無いだろう。
「……あら?何の事かしら。私は床に小人さんが居たから、ちょっとお話をしていただけですわよ?」
……なんて、優しいんだ。
こんな状況でも兵士の心配をする、心優しいラミス姫に。俺は胸を打たれた。
しかしどうやら、幻では無く。本物の姫様だった様だ。囚われていたいうのは誤報だったのだろう。……しかし、姫が無事で本当に良かった。
俺は姫と話をしたかったが、今は我慢をした。そう、今はそれ所では無い。
帝国の軍勢が、すぐそこ迄迫っているのである。
「俺が行きます。お前達は、村人の避難が終わっているか確認を。」
俺は配下の兵士に、そう指示を出し。クリストフ将軍とナコッタ姫に一礼し、外に向かった。
…………。
いや、ちょっとだけ。ちょっとだけなら許されるかも知れない。
そして俺はラミスの元に向かい、ラミスを見つめた。本当なら、今すぐにでも抱き締めたいのだが。流石にそれはマズいだろう。
……しかし、何を喋ったらいいのだろう?色々悩むが俺の口から出た言葉は、何とも他愛の無い言葉だった。
「君が無事で良かったよ……姫。今は無理だけど、後で少し話そう。」
「グレミオ……。」
俺は戦場へと向かった。
……帝国兵の数は?こちらはかなりの寡兵なのだ。しかし、帝国兵の数がどれ程いようとも俺には関係が無い。例え何人居ようとも、俺は姫を守る為に戦わなくてはならない。俺はそう姫に誓ったのだから……。
────────。
「はあっ!」
帝国兵の数は二百強、対してこちらの兵力は約二十。兵力差は歴然である。
──ザシュ!
俺は次々と帝国兵を斬り裂いていった。
「流石グレミオ隊長!もう既に帝国兵を五十人は倒しているぞ!!」
……いける。
帝国兵の士気は下がり、味方の士気は上がる。やれる、そう確信した時。……奴は現れた。
──ズシン。
突如巨大な足音が聞こえると共に。大地が震え、木々がざわめき始める。
「ブヒィ。」
神話の時代より、古に伝わる怪物。その醜悪な豚の姿をした怪物オークにより、バラン将軍は命を落とし、またクリストフ将軍は瀕死の重体である。
その怪物が再び俺の前に、姿を現したのだ。……俺は恐怖で動けずにいた。しかし、戦わなくてはならない。守らねばならない。
……俺は、そう姫に誓ったのだから!
「……姫。俺に力を!」
俺は力を込め、その醜悪な怪物に刃を突き付けた。
──ガキィン!
だが、その刃は無情にも折れ。怪物には傷一つ付けることは出来なかったのである。その怪物の外皮は、鋼の様に硬かった。
「ブヒィ!」
俺目掛け、棍棒を振り下ろす怪物オーク。その刹那、俺は死を覚悟した。俺の脳裏に様々な思い出が、走馬灯の様に甦る。
……姫と初めて出会い、運命を感じたあの日。
……幼き日、姫と交わしたあの約束。あの笑顔を。
……剣を持ち上げる事が出来ずに、困り笑っていた、彼女の微笑みを。
その彼女の笑顔、全てが俺の宝物だった。
「……さようなら、ラミス。どうやら俺はここ迄の様だね。守ると言ったのに約束を果たせなくてごめん。でも君だけは……。君だけは無事でいてくれ。それが俺の最後の望みだ。もし、この世界に本当に神が居るなら、俺の命と引き換えに彼女を守ってくれ……。」
痛みは無かった。
むしろ心地が良かった。
耳を済ませば彼女の声が聞こえ。目を開けば俺の名を呼ぶ彼女の姿があった。
……最後に、俺に会いに来てくれたのだろうか?
「君との約束を、守れなくてすまない。」
…………。
ははっ。笑ってしまう。俺は夢の中でも、こんなに口下手だ。
でもまあいいか。幻でも構わない、口下手でもいいか。俺はラミスに、気持ちを告げようと決めた。
「ラミス聞いてくれ、俺は初めて君と出会った時。そう、あの日から俺は君の事をずっと……あ」
「グレミオー!」
「あ。」
「グレミオー!!」
「あれ!?生きてる?」
辺りを見回すと、まだ帝国兵と怪物の姿があり。そこはまだ戦場だった。
「……あれ?」
そして俺の名前を呼び、にこにこ笑いながら走ってくるラミス姫。
「ひっ、姫!?」
ここは戦場の筈なのだが?あれ?やっぱり俺は死んでるのか?それとも幻を見ているのか?
「グレミオ、私も戦いますわ。」
……は?え、いや?ちょっと姫様。なん?
俺は訳が分からずに取り乱した。とりあえず落ち着け俺。
どうやら俺は、まだ死んでいないらしい。……多分。そして何故か、こんな危険な戦場に出て、更に自ら戦うと言い出す姫様。
「正気か?姫。戦うだなんて……。君の様な華麗な姫君に、戦える筈が無いだろう?ここは危険だ、さあ早く戻るんだ。」
…………。
「……わっ。」
……?
「私も、そう思いますわー。」
ぱぁー。
「そうだ。君の様な華麗で美しい令嬢が、この様な場所に居てはいけない。すぐ戻るんだ。」
「私も、そう思いますわー!」
……何だろう?気のせいだろうか、姫が先程から何だか嬉しそうにしている気が。
いや、気のせいだろう。今はまず姫の安全を、確保しなければならない。
「はっはー。何だぁ、このお姫さんは?」
──!?
辺りを大勢の帝国兵達に囲まれる、姫とグレミオ。
「くっ。貴様ら、これ以上我が姫に近付くとただでは済まんぞ!」
俺は折れた剣を投げ捨てて、その場に落ちている帝国兵の剣を拾い身構える。
……俺はどうなってもいい、姫を。姫だけは守らねばっ。しかし数が多過ぎる。
「姫っ、俺が隙を作る。その間に逃げるんだっ!」
俺は帝国兵の数が少ない所に目を付け、すかさず斬り込んで行く。
──ザシュ!
素早く七、八人を斬り裂き、姫の退路を作る。
「さあ、姫。早く今の内に!」
…………。
……?
俺が姫の方を振り向くと、姫様はその場に立ち止まったまま動いていなかった。
「……姫?」
「華麗過ぎて、戦えませんわー。」
姫様は瞳を閉じ、少し赤らめた頬に手を添えくねくねしていた。
「へっへっへ……。捕まえたぜー!!」
帝国兵士達に手を捕まれる姫。
「貴様らぁ!その汚い手を放せ!」
俺は叫び、姫の救出に向かうが。帝国兵士の数が多過ぎ、行く手を阻まれる。
「ひっ、姫様ー!」
「ひゃっはー、ここは通さねぇぜ?」
「……くっ。退けっ、貴様ら!」
「貴方達、先程から邪魔ですわよ?」
──ゴッ。
「……え?」
俺は目を疑った。……一体何が起こった?三十人以上いた帝国兵が皆、吹き飛んだのである。
……?
……すたすたすた。
「見てですわー、グレミオ。何だか大きな豚さんが居ますわ。」
「えっ!?姫っ、そいつは危険だ。早く離れるんだ!」
「エサとか食べるのかしら?はい、お手。」
いや、お手って姫。犬じゃないのだから。
「ブヒィ!」
お手に怒ったオークが怒り狂い、棍棒で姫を殴り付けた。
──ドゴォ!
その棍棒を、そっとしなやかに手で受け止める姫様。
「……は?」
──ドガッ!
そして、ぼこぼこにオークを殴り倒す姫様。
「暴力反対!暴力は何も生みません!」
「プギィ!」
悲痛な叫びをあげるオーク。
…………。
あれ?俺、やっぱり死んでる?……俺はやはり幻覚を見ているのだろうか?
もう一度、目を開け確認する。
「今夜のメインディシュにして差し上げますわ!おらー!プリンセスキック!!」
──ドゴォ!
「プギィ、プギィ。」
悲痛な叫びをあげるオーク。
…………。
おかしいな、つい先日。剣が重くて持ち上がらない。と、可愛く微笑んでいた筈だよな?
俺は自分の目を疑い、ごしごしと目を擦った。……そしてもう一度目を見開き、よく確認してみる。
「これでフィニッシュですわ!ローストポークにおなりなさーい!おらー!プリンセスマグナム!!」
──ばちこーん。
「プギィ、プギィ……。」
古の怪物オークは、その悲痛な叫びを最後にぴくりとも動かなくなった。
「ふーっ。」
いい汗かきましたわー。みたいに爽やかに汗を拭うラミス姫様。
…………。
「……姫?」
…………。
何かに気付いたのか。急に視線を反らし、汗をだらだらとかき始める姫様。
…………。
そしてそのままぽてっ、とその場に倒れ……。
「ラミスこわーい、グレミオ助けてー。」
……くねくね。
…………。
…………。
「姫は俺が守る!」
──キリッ。
『レイド大陸暦 2019年 ◎月◎日』
その日から、俺の素振りの回数は三倍になった。俺はもっと強くならなければならない。
……騎士グレミオの苦悩は続く。
「グレミオー。お弁当を作って来ましたわー。」
…………。
「姫、ここは戦場です。危険でございます。御下がりを。」
「あ、クリストフ将軍もいらっしゃいましたのね?よろしければ、御一緒にいかが?」
「……姫、俺はタコさんウィンナーを頂きます。」
キリッ!
流石クリストフ将軍。この状況にも動じないとは。……いやいや。
「帝国の軍勢がですね。……姫。」
「仕方ありませんわねぇ。」
そう言って、姫様はお弁当を片手に、今日も元気に帝国兵をぼこぼこに蹴り飛ばすのであった……。
「……姫っ、危険です!」
騎士グレミオの苦悩は終わらない。
読んで頂きまして、誠にありがとうございます。
( っ・∇・)っ
あざにゃす。
この物語は、
「剣も魔法も全く使えない姫なので、物理〈拳〉で乗りきるしかありません!~無力過ぎてツンデル死に戻り姫様奮闘記~」
の、グレミオに照準を当てたスピンオフ作品となっております。
よろしければ、そちらも読んで頂けると嬉しいですにゃー。
(ФωФ)ノ




