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美子中宮陛下の想い

 そんな想いを千江皇后陛下がなさっている一方、美子中宮陛下自身も、お互いの関係を振り返らずにはいられなかった。

 一帝二后並立、そして、自分が中宮に成る等、本当に思いも寄らないことだったのだ。

「皇軍知識」が無ければ、こんなことには成らなかったろうに。


 自分としては、千江皇后陛下を立后させれば、今上(後水尾天皇)陛下は落ち着かれるものと考えて行動したのだが、後陽成上皇陛下が行った謀略(「皇軍知識」に因れば、当時の私の夫の鷹司信尚は若死にする筈、というのを今上(後水尾天皇)陛下に伝えた)から、私は苦悩することになったのだ。

 更に今上(後水尾天皇)陛下の私への想いが、全く冷めないことになったのだ。


 最愛の夫、鷹司信尚は1621年に若死にする。

 そして、自分にそれを阻止する手段は無い。

 そう判断せざるを得なかった自分は、その時、絶望するしか無かった。

 そして、そう判断した直後の自分は、夫が死んだ後、出家しようという想いが過ぎってならなかった。


 だが、皮肉なことに、千江皇后陛下が、その後で子どもを産んだことが、私の背を押すことになった。

 千江皇后陛下の最初の子は死産で、更に二人目の子、男児も極めて虚弱だったのだ。

 そして、千江皇后陛下は、そう言ったことから、少なからず心を当時は病まれる有様だった。


 当時の私は、宮中女官長である尚侍を務めており、そうしたことも相まって、この状況は宜しくない、と突き詰めて考えざるを得なかった。

 このままでは、皇統に様々な問題が生じる、と私は考えたのだ。


 そうしたことから、私は皇統護持の為に、一帝二后並立を受け入れて、自分が中宮に成るしかない、と考えるようになった。

 更に言えば、それを今上(後水尾天皇)陛下も、自分の初恋成就の為もあって賛同したのだ。


 そして、最初の夫の鷹司信尚は薨去した。

 予め覚悟を固めていたとはいえ、別れの言葉も交わさずに、夫が死んだことに私は泣くしかなかった。


 だが、その一方で、自分自身に吐き気がしたが、10年余りに亘って、ひたすら自分に相応しい男になろうと努力し続けた、今上(後水尾天皇)陛下の好意にいよいよ報いることができる、という想いが私の心の中で浮かんで、その時はならなかったのだ。


 そして、私と今上(後水尾天皇)陛下が協働して謀略を巡らせた結果、国内では伊達政宗首相が音頭を取って、国外ではローマ帝国のエウドキヤ女帝が音頭を取って、私は中宮として入内することになった。

 勿論、非難する人が皆無ということは無かったが、少なくとも私と今上(後水尾天皇)陛下の手は、真っ白にしか見えないことで、私達は順調に結ばれることになった。


 更に、私は宮中侍医の協力により、速やかに懐妊しようと排卵誘発剤を使用した結果、一度に五つ子を産んで、更にその内の3人が男児だったことから、皇位継承の憂いを完全に吹き飛ばすことになった。

 そして、私が今上(後水尾天皇)陛下との間に、3人の男児を産んだことが。

 千江皇后陛下の皇太子殿下を産み、更に立派に育てねば、という心身の負担を無くすことにつながり、千江皇后陛下の心を、結果的にだが徐々に癒やすことになったのだ。


 本当に皇室、皇統を繋ぐことだけを考えるならば、最善の結果になったと言えるのだろう。

 だが、私個人にしてみれば、どうなのだろうか。


 外から見れば、私程、幸せに包まれている人間はいないだろう。

 夫に愛され、更に宿敵になる筈の千江皇后陛下との関係も良好で、地上における三位一体の理想の顕現とまで、欧州を始めとする世界の国々で謳われているらしいが。

 子孫も大いに栄えることが約束されている。


 でも、私個人は幸せとは言い難い、そう想われてならない。

 次話で主に描くことで、少し早いネタバレになりかねませんが。

 美子中宮陛下としては、草むらに名も知れず咲いている花のような人生を送りたかったのです。

 でも、それは美子中宮陛下にしてみれば、祖国を裏切ることで、決して叶わぬ人生だったのです。


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