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夜になり、俺たちは宿を出た。間違いなく、俺たちはシュヴァリエ家に忍び込むことになるので静かに、窓から出た。
「なんか悪いことしてる気分になるな……」
「いや、悪いことしようとしてるから忍んでるんじゃない。あ、今「お前の乳は忍んでない」とか思った? やだー、そういう下世話なことも言えるようになったのね。お姉さんドキドキしちゃう」
「なんでお前はよくわからないタイミングで饒舌になるの? 今忍んでるんだから喋らない方がいいよね?」
「どうせ物音を消す魔法をかけてるんだから問題ないわよ」
「なんでもかんでも魔法で解決しやがって……」
というか今日は全員で出てきたんだがキャロルは眠らなくて大丈夫なんだろうか。
「キャロル、眠くないのか?」
「眠いけどなんとかなるよ。私、もう子供じゃないもん」
その言い方が子供っぽいんだけど。
それでも十二才くらいだったか。子供扱いされたくない年というのもわかる。が、あの低身長とあの可愛らしさっだからなあ。
「そうかそうか、偉いな。キャロルは偉いよ」
頭を撫でるとキャロルはない胸を張っていた。今俺は小さな女の子の頭を撫でている。撫でているんだ……!
「気持ち悪いよ」
ノアからの視線が痛い。
「酷いな、これは」
ガーネットがため息をついた。
「気持ち悪いはわかる。でもも酷いってのはあんまりじゃないか? 俺だって頑張って生きてんだ」
「他人に迷惑かけなきゃ生きててもいいけどね。このままだと誰かに迷惑かけそうじゃないか」
そう言われて、ちょっとだけ頭痛がした。
「また頭痛? 休む?」
なんだかんだ言いつつちゃんと俺の心配してくれる。
「うーん、好きっ」
「抱きつかないで」
文句は言うけど手を出してこないところがいい。
「ちょっと! たぶんだけどメインヒロインは私なんだけど!」
「おいババア抱きついてくんじゃねえ!」
「メインヒロインに失礼じゃない!」
「俺のメインヒロインはノアだ!」
「いーや違うね! 私以外ありえないね!」
コイツ、自分が一番じゃないと気がすまない典型的なヤツだ。
「そんなにゴリ押ししてくるってことはお前は俺のこと実は好きなんじゃないか? 好きなんだな?」
「はあ? アンタのどこに好かれる要素があると思ってんだあ? アンタ、自分が女に好かれるとでも本気で思ってるのか? ちょっと親しげにしたらすぐにつけあがる童貞中学生かなにかかてめえ。アンタに優しくしてくれる女なんざ他の男にはもっと優しいっつーんだよそんくらいもわかんねーのか。そんなんだからいつまで経っても童貞なのわかんねーのか? もうちょっと身の振り方考えろ? いいか?」
「あ、はい、重く受け止めたいと思います」
あまりにもダメージが大きすぎてそれ以上言えなかった。というよりも考えるだけの気力がなくなってしまった。
「じゃあ私がメインヒロインでもいいんだな?」
「いえ、それはお断りします」
「なんでだよ!」
「相変わらず仲いいね……」
「違うんだよノア! アイツが俺たちの仲を引き裂こうとしてくるんだ! ノアもなんとかしてくれよ!」
「私は別にどっちでもいいんだけど」
「そういうこと言うなよおおおおおおおお」
俺がノアにすがりつき、ヴァルが俺を殴り、そんな妙な三角関係が出来上がってしまった。
「仲がいいのか修羅場なのかわからないな」
ガーネットが呆れるのも無理はないな。
「でもなんでヴァルはメインヒロインにこだわるんだよ。別にいいだろ。むしろ500年も生きてたら逆に主人公だぞ」
「主人公に価値はないのよ。誰だって、自分の物語の主人公なんだからさ」
「なに言ってんだコイツ」
「でもヒロインっていうのは自分でなるものじゃないの。誰かに、ヒロインにしてもらってなれるものなの」
「怖い怖い怖い」
「だから、メインヒロインがいいのよ」
「俺の?」
「不本意だけど今は対象足りうる男がアンタしかいないから、仕方なくよ。仕方なく。じゃなきゃお断りだから」
「情緒不安定すぎない?」
マジで怖いんだけど。なんでこんなやつと旅してんだ俺は。いや違うな。旅をすることを強いられてるんだな。コイツに強いられてるんだ。
「これが普通なのよ」
「情緒不安定が普通なのはやべえだろ」
「安定してるわよ」
「さっきのやり取りの後でよく言えるな」
気づいてないのは自分だけか。なんというか正義感を突き通そうとするやつほど自分の悪事に気づいてないみたいな感じだ。




