17
ヴァルの元に戻ると、森の中で大の字になって寝ていた。ピーピー音がしなくなったと思ったらこれだよ。
「この魔女は本当に有能なのか……?」
ガーネットがそう言いたくなる気持ちもわかる。
「正直すごい魔女ではあるかもしれんが有能かどうかはまた別の話だ」
「ああ、なるほどな」
この姿を見た上での説明としてはかなり正確だと思う。
ヴァルはすごい魔女。それは間違いない。たくさんの術式を自分で作成してそれを魔導書にしている。人が書した魔導書を読んで、それを形にする技術もある。まあそれは五百年生きてる年の功というのもあるかもしれない。
しかし、人の前に出して誇れる女かと言われるとそれは違う。面倒見はいい方だとは思うがあまりにもガッカリする部分が多い。そもそも大事なところで酒を飲むやつがあるか。酒を飲むどころかベロベロになりおってからに。
「とにかく宿に帰ろう」
ヴァルを担ぎ上げた。
やっぱり重いんだよなあ。普通こういうのは「思ったより軽いな……」みたいな展開が理想だが理想は結局理想でしかない。
「いいって、私がやるし」
そして結局ノアに頼む。
「どうぞどうぞ」
「やりたくて挙手したみたいに言わないでちょうだい」
なんて言いながらも特に嫌がった素振りがない。だから好き。
そうして俺たちは宿に戻ってきた。
ヴァルをベッドに寝かせ、ついでにキャロルも眠らせた。ノアがヴァルを寝かせていたので俺がキャロルの相手をした。というか途中で目をこすり始めてしまったので俺がおぶってきた。
キャロルをベッドに寝かせると少しだけ身じろぎした。お腹をちょっとトントンしていると穏やかな寝息を立てた。
「あー、ちょっと目覚めそう」
「その子、お腹叩くほど幼くないわよ。もしかして目覚めたってそういう……?」
「断じてそういうことではない」
いやまあうーん、当たらずとも遠からずなのは口に出さない方がいいかな。
「こう、子供っていうのもいいなって」
「だからもう十三歳なんだって……」
「正確な年齢を今初めて知った気がするぞ」
「確かに十三歳にしては小柄だからね。でも目覚めたっていうのはちょっとヤバい匂いがするからやめた方がいい」
「はーい」
イスに座って、ノアが入れてくれたお茶を飲んだ。
起きているのは俺、ノア、ガーネットの三人。しかし誰も眠ろうとはしない。眠いことは眠いのだが、なんというかそういう空気じゃない気がする。
「なあ、なんでお前ら眠ろうとしないんだ」
とりあえず直接訊いてみる。
「もっとスマートにはできないの?」
「そこまで俺が有能に見えるか?」
「エージに期待した私がバカだったかも」
「さすがにそこまで言われると傷つくから」
「でもまあ、このままってわけにもいかないでしょ? あの暗殺者集団は私たちを狙ってたわけだし」
ノアの視線がガーネットへと注がれた。当然、俺もガーネットを見た。
ガーネットは長いため息をつきながら指を組んだ。
「こうなってしまった以上、話さないわけにもいかないな」
「話してくれるの?」
「もう契約もクソもないからな」
ガーネットはバッグから一枚の紙切れを取り出した。それをテーブルに置き、ノアの方へと差し出した。
「これは?」
「契約書。私がある人とした契約の内容。名前を見れば、私と契約した人がわかると思う」
契約書の内容はごちゃごちゃしててわからないが名前くらいは俺にもわかる。
「リヴィア=シュヴァリエ……」
「覚えてるよな? この人物が誰なのか」
ノアが息を呑んだ。
「私の、母よ」
「おいおいちょっと待て。じゃあなにか? ノアの母親がガーネットに頼んでノアを殺させようとしてたってのか?」
「そういうわけではない。よく見ろ、契約者はリヴィアだが対象はエレノアというわけではない」
契約書の対象の欄を見てみた。
思わず固まってしまった。
「俺じゃん……」
エージ、としか書いてなかったが間違いなく俺だろう。ノアの口から俺以外の「エージ」の話を聞いたことがない。もしも俺以外の「エージ」がいたらそいつの可能性もあるんだろうけれども。
「でもなんで俺?」
「リヴィアは娘を守りたかっただけだ。娘についた悪い虫を払いたかった」
「虫……」
「彼女にはそう見えたんだろうさ。とにかく、私の目的はエージだけだ」
「じゃあなんでノアが狙われることになった?」
「正直それがわからない。私はエージの暗殺を受けた。そして魔女ヴァレリアがいたことから、別の暗殺者集団と共闘関係を結んだ」
「まあそれもだいぶ間違いなんだけどね」
「いいから聞け。最終的に決別したが、アイツらは別の依頼を受けてエージとエレノアの二人を狙った。エレノア、心当たりはあるか?」
この質問の仕方、心当たりがありそうだから質問したんだろうな。




