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 アンドアルはそこそこに発展した町らしく、コンフューズよりも少し小さいくらいの規模があった。


 ここで昼食をとり、今日中にマーチャックまで向かってしまおうというのが一応の計画になった。


 アンドアルからマーチャックまでは定期便の馬車が出ているので時間さえ間違えなければ問題はなさそうだ。なおフラグではない。


 アンドアルで馬車を降り、連れてきてくれた行商人に礼を言った。キャロルの腹が鳴ったので近くのレストランに入ることにした。腹が鳴ったときにキャロルの顔は可愛かった。そういうことを気にする年頃なのだろう。


 レストランには人がまばらで、注文から食事が出てくるのにそこまで時間はかからなかった。


「ねえエイジ、ヴァル」


 スプーンでスープを掬いながらノアが言った。そのままスープを口に含んだが、視線はこちらに向いている。


「なんか気になることでもあるのか」


 この行動は「察しろ」と言っているようにも捉えられるので、俺も食事の手はそのままにして話をする。


「アンドアルに入ってから視線を感じる」

「視線?」


 その視線の主という人物に悟られたくないのか目線はそのままだった。


「ここだけじゃない。実は今まででも何度か感じてた」

「ビーストってそういうのも敏感なのか?」

「ビーストっていうのは元々は狩猟民族だから、危機察知能力には長けてるのよ」

「今までも感じてたって、そりゃノアが可愛いからだろ。気にすることはない」

「そういう感じじゃないんだって。なんていうか監視されているようで、若干の殺意も籠もってて」

「それはさすがになんとかした方がよくない?」

「そうは言うけど視線の主を見つけられないのよ。たぶんだけどかなりの手練。というかもしかしたらそういう職業の人かも」

「そういう職業?」

「暗殺者」


 こういう世界だしありえなくもない。ないのだが、ノアを狙う理由がわからない。これが某国のお姫様だとか、ノアが元々暗殺者だったとかそういうのがあれば納得できる。しかしノアは奴隷生活が長かったし、その間にいくらでも殺せたはずだ。となると暗殺者という可能性はかなり低いと思う。


「暗殺者、ねえ」

「私おかしなこと言った?」

「おかしくはないが、お前は狙われる理由に心当たりがあるのか?」


 少しの間、スプーンの動きが止まった。そして、また動きだす。


「特にないわね」


 嘘だとわかってはいるが、突っ込まれたくないから否定した。それなら俺も話を合わせた方がいいかもしれない。きっとそのうち話してくれるだろう。と、思いたい。


「ないなら放っておいてもいいんじゃないか? 気のせいだって」

「気のせいだったらいいんだけど」


 それでもノアは冷静そのもので不安の欠片も感じさせない。ポーカーフェイスが上手いのか俺のことを信じて不安を払拭してくれたのか。そこまでわかるほど俺たちは親しくない。つまり、ノアもまたそこまで信用はしてくれていないということなんだろう。少し寂しくはあるが、人同士である以上は仕方がないことだ。


 食事を終えた俺たちは馬車乗り場に向かった。


 定期便は本来アンドアル、マーチャック、王都クローディアを行き来するものだが、今日はクローディアまでは行かないらしい。アンドアルで一泊してもよかったのだが、ノアが視線を気にしているというのもあって一度アンドアルから出ることにした。


 馬車は今まで見た中で一番大きく、馬三頭で馬車を引っ張るようだ。こんな馬車見たことない。


 馬車には老若男女、さまざまな人種が乗っていた。中には奴隷のような女性を連れた男もいた。女性に萎縮している様子はなかったが、着ているものがボロボロで男の方がかなり傲慢だったのでたぶんそうだろう。


 ゴトンゴトンと、速くも遅くもない速度で馬車は進んでいく。カップルや家族連れはおしゃべりをしているが、バックパックを抱えている若者や奴隷と主人なんかは黙ったまま目を閉じていた。


 停留所で到着時間を訊いたところコンフューズからアンドアルと同じくらいの距離らしい。


「つーことで俺は寝る」

「つーことで、の意味がわからないけど別にいいわよ」


 ヴァルはなにやら本を読んでいる。俺に一瞥くれることもなかった。


「んじゃ失礼して」

「待って待って、なんで私の太ももの上に頭乗せるの? 膝枕してあげるなんて言ってないんだけど」

「ちょうどいい枕がないから」

「ノアにでもしてもらいなさいよ」

「こういうのは肉厚な方が寝やすいかなって」

「おめー喧嘩売ってんのか」

「はいおやすみ」

「聞けよ」


 そんなこんなで俺は横になって眠ることにした。なんだかんだ言うが、コイツの太ももはポヨポヨしてて気持ちがいい。決して太っているというわけではなく、単純に肉が柔らかいのだ。不思議なことにいやらしい気持ちはならない。心地よさというのは人それぞれである。


 ゴトゴトという音が少しずつ耳に馴染んできた。


 ズブズブと沼に沈んでいくような感覚があった。


 ウトウトしているうちに、俺の心は溶けていく。

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