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コンフューズを出た俺たちはラングラン古城に向かうことになった。しかし道のりは遠いらしく、まずはアンドアルに立ち寄るらしい。この辺は俺に土地勘がないのでヴァルたちに任せるしかない。
コンフューズの近くに行商人の馬車が止まっていたので、金を払って乗せてもらうことにした。行く方角が同じで助かった。
馬車の中で、なぜか俺だけが端っこに座らされていた。なんという疎外感だろうか、若干ヴァルとノアからの視線が冷ややかである。
「ちょっと訊きたいんだが」
と俺が言うと二人はやや下がり気味に後退る。ちなみにキャロルはノアとヴァルの後ろに隠れている。いや隠れてるんじゃなくて隠しているというのが正解かもしれない。
「なに?」
ノアからの威嚇ともとれる返答。
「なんで俺から距離とってるの?」
「危険だから」
「どこに危険な要素があるんだ。今まで危険だったことがあったか?」
「キャロルに手を出そうとしたでしょ」
「それはさすがに言いがかりだから。キスしたのは事故だから」
「問題はそのあとでしょ……」
ノアはそう言ったあとでため息をついていた。
「その、あと……」
視線を外してキャロルと契約したあとのことを思い出してみる。確かキャロルに「お前今いくつだ?」って聞いたんだ。そしたらキャロルが「十二歳」って言うから「てっきりもう少し上かと思ってた」って言って抱き上げようとしたんだ。
「抱き上げようとしたのがそんなにいかんのか」
「いかんでしょ。特にアナタみたいな人種は」
「それはヒュートに対しての人種差別だ」
「そういう意味の人種じゃない。キャロルの年齢を聞いてちょっと嬉しそうだったの自分で気付いてなかったの?」
「なななななんで俺が嬉しそうにするんだ? どどどどどういう証拠があるんだ?」
「動揺を隠しなさい」
「いやでも本当に下心はないから、これは本当に。いや本当の本当で本当だから」
「嘘臭さしかない。でも下心がなかったとしても基本的にキャロルには近づかないこと。いい?」
「故意に近づくことはないぞ。お前らに対してもそうだろ」
「一緒に寝ようとするくせに?」
「それは、あれだ。心の平穏を保つために仕方がないことだ」
「なんでもいいけどキャロルはダメ。わかった?」
たぶん妙な気を起こせばノアに首を撥ね飛ばされても文句は言えない。ここは従っておくしかないだろう。
「だが断る」
「そこは頷きなさいよ……」
「大丈夫だって、本当に変なことはしない。キャロルは妹みたいなもんだしな」
「なお真意は不明である」
こういうときだけノリノリでヴァルが口を挟んでくる。本当に男を見下すことに余念がない女だ。
「おめーは黙ってろ」
「そんなこと言われて黙ってるほど安い女じゃないんですー」
「俺が良いというまで口を閉じてろ。命令だ」
電気を流されたように身体をピクピクさせながら口を閉じた。
「年増にクチナシってな」
めちゃくちゃ睨まれた。
「でもほら、別にキャロルが嫌がってなきゃよくない?」
キャロルはノアの背中に隠れてしまった!
「わかった?」
「ええ、よくわかりました」
これからはもう少し慎ましく生きていこうと思う。一緒に旅をしているのに嫌われたらあまりにもいたたまれない。
「まあ、私もあんまりキツイこと言いたくはないから。自重してくれればそれでいい」
「そこがヴァルと違うところだな。素晴らしい」
「そもそもヴァルと私は立場が違うから。アナタと契約しなきゃあのまま奴隷生活だっただろうし、ヴァルとアナタが度に出なければキャロルも小さくなることもなかった。少なくとも、ヴァルとアナタには感謝してる」
そう言われるのは悪い気はしないのだが、結局のところ俺とヴァルの個人の問題で旅に出て、結果的にノアとキャロルの人生を変えたに過ぎないのだ。褒められても嬉しがっていいのかどうか難しいところである。
「その感謝はありがたく受け取っておこう」
「そうしてちょうだい」
こうしている間にもキャロルはノアに隠れてチラチラと俺のことを見ていた。ただ単に気になるのか、それとも嫌いだから隠れているのかわからない。できれば前者であると嬉しいが。
「そういえばアンドアルまでどれくらいだ?」
ヴァルに訊いてみた。めちゃくちゃ睨んでくる。
「ああそうか。もういいぞ」
俺の言葉と同時にヴァルが大きくため息をついた。
「忘れてたでしょ」
「百歩譲っても忘れてた」
「呆れて文句も出てこない……」
「文句は出なくていいよ。で、アンドアルまでどれくらいだ」
「……このペースでいけば二時間くらい」
「おうそうか。じゃあ俺がいいと言うまで黙っててくれ」
また身体を痙攣させて睨んでくる。さすがにちょっと可哀想だったかもしれない。
「冗談だ。いいぞ」
それを見てノアがクスリと笑っていた。
その後、ヴァルにめちゃくちゃ怒鳴られたのは言うまでもない。




