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気持ちのいい朝だった。朝日が差し込む窓際に立ち外を見た。
「なんじゃこりゃ……」
町の中はモンスターだらけだった。
「んー、どったの」
甘い匂いと共に、ヴァルが俺の型に顎を乗せた。たしか腐った果物って甘い匂いがするんだよな。世の中って非情だ。
「あれま、すごいことになってるわね」
「いったいなにがあったっつーんだ……」
「統率されてるわね。人間の仕業だわ」
『おい! 聞いているか、魔女ヴァレリア!』
大きな声が町に響き渡った。拡声器みないなものでも使っているんだろう。
『聞いているなら今すぐ時計塔の前まで来い! でなければキレットの十人をすべて殺す!』
ヴァルと顔を見合わせた。と思ったら顔が近付いてきた。目を閉じてやがる。
「おい、なにするつもりだよ」
顔を両手で掴んで進行を止めた。
「そういう雰囲気だったじゃない」
「どういう雰囲気だよ。ちげーよ。お前に興味ねーから」
「またまた、アンタツンデレってやつでしょ? 実は私にメロメロなんでしょ?」
「どういう曲解だよ……」
顔を掴んだまま腕を伸ばす。ヴァルは諦めたようにため息をついていた。
「素直じゃないんだから」
「どうでもいいけど早く時計塔行けよ。皆殺しだぞ」
「えー」
「えーじゃない。仕方ねぇな、ノア行くぞ。起きてるのは知ってる」
俺が声を掛けると、ノアが気だるそうに上体を起こした。
「バレてたか」
「俺と同時に起きたろ。タオルケット引き寄せるのが見えたぞ」
「目ざとい男だな」
なんて言いながらも着替えを済ませていた。有能な奴隷だ。
「お前も早く着替えて早く化粧終わらせて。このままだとお前のせいで町一つがなくなるだろ」
「言っておくけど、今まで私は十個の市町村を滅ぼしてきたわ」
「乳がデカイのはわかったら強調すんな。はよしろ」
「もう、せっかちなんだから」
ヴァルが服を着て、化粧を始めた。寝るときは下着とキャミソールなのに、外行きの服は紫色のスタイリッシュなドレス。スカートは長いがスリットが足の付根まで届いている。まだこのギャップには慣れそうにない。
「化粧は五分で済ませろよ」
「んなの無理に決まってるでしょ! アイシャドー引くまでもいかないわよ!」
「別に素の顔が美人なんだから化粧なんていらねーだろ」
すごい勢いでヴァルの顔がこちらを向いた。首、大丈夫なのか。
「アンタやっぱり……」
「はよしろ!」
「いやでも、だって……」
「ノア、行くぞ」
「わかった」
「あー! わかったわかった! すぐ用意するからあ!」
そこで涙目になると化粧が崩れるのでは、というのはあえて黙っておいた。
結局、ヴァルは薄化粧に日焼け止めだけ塗って出かけることになった。この世界にも日焼け止めクリームは存在してたんだな。。
宿を出たところでモンスターや使役者などと出会ったが、ヤツらが攻撃してくることはなかった。逆に道をあけ、時計塔へと導くようなそぶりさえあった。だが時計塔以外への道は塞がれていた。
時計塔の前にはたくさんのモンスター。その前には一人の中年が立っていた。ガタイがよく、身長が高い。強面の顔に髭面。服は上品なシャツとズボン。見るからに上流階級の人間だ。
「よく来たな魔女ヴァレリア」
「呼び出したのはそっちでしょ。で、なんの用事?」
「なんの用事だと? それはお前がよくわかってることじゃないのか」
物腰はそこまででもないが、顔がみるみるうちに赤くなっていく。いったいなにをやらかしたというんだ。
「もしかしてモンスター牧場のこと?」
「もしかして、じゃない。まさにそのことだ」
「私は別になにもしてない。モンスターを狩ってただけよ」
「それで人が所有する土地を焼き払うのか? モンスターはお前だ。いますぐに謝って金を寄越せ。でなければこの町を、お前が俺の牧場にしたように焼き払ってやる」
「牧場はいくつも持ってるでしょ。一つくらいいいじゃない」
「いいわけあるか。三つの内一つがなくなったんだ。売上が三割減なんだぞ」
「たった三割じゃない」
「ふざけんな!」
ここでようやく感情を露わにした。
「軍部からもたくさんの発注があるんだよ! 評判が良くて、もう何年も贔屓にしてもらってたんだ! このままじゃ要求に応えられなくなる!」
「なんとかなるわよ。アナタの腕があればね」
「謝る気はなさそうだな」
「謝りたいとは思ってるわ。でも今はできない。こっちにもこっちの事情っていうものがあるから」
「お前の事情なんて……」
今までの威勢がまるで嘘のように男の口が止まった。それだけじゃない、目がトロンとしいてきている。
周囲を見ると、他の連中も同じようになっていた。モンスターも同様にだ。
「お前、なにしたんだよ」
「さあ? 私の魅力に気付いたんじゃない?」
「そうか。じゃあしばらく着衣は靴下のみで過ごすっていうのはどうだ?」
「睡眠の魔法です」
命令される前に対処したか。偉いじゃないか。
俺たち以外の人やモンスターが皆眠りについた。すごい効力だと素直に驚いた。
「昨日の昼間、農場を焼き払いに行ってたのか」
「ま、そういうことね」
「なんでそんなこと――」
そう言いかけて、コイツがやろうとしていることに見当がついた。
「迷いの森が関係してるのか?」
「察しが良いわね。どう、今夜二人でカーニバルでもしない?」
「謹んで辞退する。あと男を口説く練習を俺でするな」
「私のなにが気に入らないのか」
「今はどうでもいい。もしかしてお前が焼いたモンスター牧場が迷いの森を襲ってたのか?」
「ま、そういうことね。でも私の目的はアンタが思っているのとはちょーっと違う」
「ちょっとってどれくらい?」
「嘘、間違い。すごく違う」
「その説明を求めてるんだけど?」
「後でね。今はあの男を締め上げるのが先。はい、ノアと一緒にあの男を縛って」
いつの間にか用意していたロープを手渡してきた。いや違うな。最初から用意してたんだ。そうなるとこの状況を予想していたことになる。
「お前、なに考えてるんだ……?」
「時間が経てばわかるわ。その間に自分なりに推理してみたらどう? 答え合わせは後ほど」
ヴァルは「さあ行った行った」と俺の背中を押した。詳細はわからないはずなのに、ノアはちゃんと受け入れているようだった。




