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 そんなこんなでキレットの町にやってきた。バルサの町よりも発展しているようで、町の中央には高い時計塔なんかが見えた。町を歩いている人の服装もやや上質なものに見える。


 近くのレストランに入って食事を始めた。食事が運ばれ、各々が手を動かし始めた。


「あ、これアンタらのお小遣いね」


 ドンっと、テーブルに財布が二つ置かれた。革で作られた割としっかりとした財布だった。


「お小遣いくれんの?」

「無駄遣いはしないでよ? お金だって無限じゃないんだから」

「私ももらっていいの?」

「ええもちろん。クソ穀潰しクソ野郎の奴隷だからコイツに生活能力はない。となればヒモにするしかない。となればクソ無能クソ無職の奴隷にお小遣いをあげるのも私ということになる」

「踏んだり蹴ったりだけどありがたくもらっておこう。ほら、ノアも」

「ああ、ありがとう」

「お礼はいいわ。私はこれからちょっと用事があるから、お小遣いでテキトーに遊んでて。で、あの宿屋で部屋をとっておいて。たぶん帰るのは夕方とかになるだろうから」

「俺たちも手伝うけど?」

「申し出はありがたいけど邪魔だからいいわ。それじゃあね」


 そう言って、ヴァルはどこかに行ってしまった。いつ飯を食ったのか。俺たちはまだほとんど食べてないというのに。


「つーことだからしばらく二人だな。どうするか」

「そうだな。お前、本当に冒険する気あるのか?」

「いきなりだな。うーん、楽に生きられたら最高だとは思うが、世の中そういうわけにもいかないだろう。魔法なり剣術なりが扱えればいいとは思う」

「なら私が指南してやろうか?」

「いいの?」

「ちょっと失礼」


 ノアが俺の身体をまさぐり始めた。俺にはあんなこと言っておいて、実は俺のこと気になってたりするんじゃないか?


「それなりに筋力はあるわね。ショートソードくらいなら扱えると思う。食事が終わったら武器屋に行こう」

「お、おう。なんか急に機嫌がよくなったな」

 頭の上にある猫耳もぴょこぴょこ動いている。そういえばビーストなんだっけか

「んじゃ、ノアの好意に甘えるとするか」

「任せておけ。剣は得意だ」


 ない胸を張るノア。うーん、こういうところがいいんだ、貧乳っていうのは。


 食事を終えて武器屋へ。ショートソード一本と木刀を二つ買った。お金の関係はよくわからなかったが、ノアがビビリながら会計をしていたのが印象的だった。


 後で聞いたのだが、どうやら財布には300ゴールド入っていたらしい。しかし今回の買い物で必要だったのは40シルバー程度。宿の予約は一人80シルバー。100シルバーで1ゴールドらしいので、俺たちは今とんでもない大金を持っていることになる。


 宿を予約し荷物を下ろす。財布だけを持って、一旦町を出ることにした。


「さて剣術だが。正直教えられることは多くない」

「なんでここまで来たのか」

「剣を振るという感覚だけ掴んでおいた方がいい。身体の動かし方くらいは教えるが、型にハマった剣技が合っているかどうかまではわからないしね。それに面倒くさい」

「だからなんでここまで来たのか」

「剣を振りたかったからだけど?」

「お前結構雑なんだな……」

「とりあえず木刀を持て」


 言われたとおりに木刀を持ち、構え方や剣の振り方をちょっと教えてもらった。


「さて、百の訓練より一の実践とも言う」

「もしかしてこの流れはヤバイやつでは」

「いくぞエージ。しっかりやらないとあっという間にボロ雑巾だ」


 ノアが木刀を構え、突進してきた。


「俺の奴隷はどうしてこんな大雑把なやつばっかりなんだよ……」


 そんなことを言いながらも、俺はノアの攻撃を木刀で弾いた。これならなんとかなりそうだと、妙な自信を持てるくらいには綺麗に弾いた。


 しかしその後は散々だった。


 笑顔で木刀を振るうノアは狂人のそれだったし、なによりもこちらの攻撃が当たらない。でも向こうの攻撃はバシバシ当たる。


 結局俺は一撃も与えられないままボコボコにされた。


「エスパーかお前は……」


 腕も足も痛い。ノアが胴体や顔を狙わなかったからこうなった。


「私にはちょっとした特技があってね。思考加速能力というやつだ。その力を使えば時間の流れをゆっくり感じたりできる」

「魔法とは違うのか」

「そういう外的能力じゃないわ。私が元々持っているもの。身体能力の一部」

「ズルじゃん……」

「生まれ持ったものを使っただけだ。さあ、宿屋に戻って手当をしてやろう」


 なんとなくだが、ノアの力を使ったときにどういう能力が発動するのかわかったような気がする。ヴァルのときは魔法の力だったし、たぶんノアの能力は思考加速能力になるだろう。


 宿に戻る頃には夕方になっていた。入り口には見慣れた魔女が立っていた。


「おいおい町の外までデートか? 調子乗ってんなあおい」

「これを見てデートだと思えるお前がすごい。ちょっとノアに稽古つけてもらってたんだよ。稽古という名の死体殴りみたいなとこあったけど」

「剣術でも学ぶつもり?」

「一応な。なにもできないってのはちょっと」

「やだ……クソニートが成長してる……」

「涙ぐむのやめろ。あとこの世界にニートって言葉あんのかよ驚きだわ」

「とにかく部屋に行きましょう。手当てしてあげるわ」

「そりゃありがたい」


 俺たちは予約した部屋に行き、まずは風呂に入った。当然だが一緒には入れなかった。


 ベッドに座ると、ヴァルが回復魔法で傷を治してくれた。やっぱり魔法は便利だな。俺は戦わなくてもいいや。


「そういやノアはあんだけ強いのになんで奴隷商人になんて捕まったんだ?」

「剣の腕が立っても、魔法や薬物には無力ということよ」

「とりあえず服着て?」

「おっと、忘れていた」


 この子の教育にはもうちょっと時間がかかるかもしれん。


 というか今日もベッド一つか。他の部屋が埋まってるって言われればこうなるのも必然か。


「ヴァルの用事ってのはなんだったんだ?」

「んー? まあドライアードを狙ってた奴らを成敗してきた」


 小瓶からなにかの液体を垂らし、それを顔にぱしぱしと叩いていた。年とらないはずなのにお肌は気になるのね。


「というかなんでそういうこと一人でやっちゃうの? 俺も行った方が絶対よかったでしょ」

「だって邪魔なんだもん。足手まとい」

「バッサリいくね。言い返せないけど」

「ま、あんな感じなら今度は連れてってもいいかな。私の魔法で全部解決だからいてもいなくても一緒だし」

「お前がもうちょっとまともだったら俺にもなんかすごい能力があってメリハリのある冒険譚が生まれただろうにな」

「その気はない」

「ドヤってんじゃねーぞ」

「さ、ご飯そこそこに食べて早くねるぞー!」

「お腹いっぱいは食べないんだ」

「お腹いっぱい食べちゃうと中性脂肪が大変なことになるからね」

「健康志向の魔女とか聞いたことねーぞ……」

「お酒もほどほどにしか飲まない。健康、大事だから」


 キリッとすると美人なんだが、普段の暴れっぷりがそれをダメにしている。下品なところを直せば男もよりどりみどりなんだろう。あえて言わないけど。


 美味しいごはんを食べ、ヴァルの顔パック姿も一通りいじってから床についた。「怒るとパックが破けちゃいますよー?」と言ったあとのあの顔は忘れられない。


 同じベッドで横になった。ノアはすぐに眠りについたが、ヴァルはぶつぶつとなにかをつぶやいていた。


「ぜってー後悔させてやるからな。ぜってー後悔させてやるからな。ぜってー後悔させてやるからな」


 背中をこちらに向けているので尚更怖かった。


 俺もさっさと寝てしまおうと目を閉じた。


 このときはまだ予想すらしていなかった。まさかヴァルの行いのせいであんなことになろうとは、きっと誰も予想できなかったはずだ。

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