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次の日にはヴァルの体調は回復した。わかっていたことではあるが、元気な姿を見られるとホッとする。
ホッとする? んなバカな。
「よっしゃー! 今日も貢ぐぞー!」
彼女が大きく背伸びをすると目の前の脂肪の塊2つが大きく揺れた。
「元気なのは結構だけど自分の立場をわきまえろよ」
「立場? 世界最強の魔女っていう立場からすると、私の行動を止められるような人間は存在しないと思うけど?」
「過去の事例から見るとしばらくの間お前の魔法は当てにならない」
「ちょっとなら使えるわよ」
「ちょっとじゃ意味ないんだって。わかってないのか? お前の価値っていうのはめちゃくちゃ高い魔力でなんでもかんでもなぎ倒せるってとこにあるんだぞ? それ以外の価値がほぼゼロだっていうのにそこがないのに自分に価値を見出してるのすごくない? もしかして自分が美人で巨乳だから許されるかもとか思ってる? 本気で思ってるなら救いようがないな。フェニックスの羽食ってなきゃすでに生きてないだろうしその脂肪の塊もだるんだるんを通り越して腐り落ちててもおかしくないもんな。でもそれってお前の力でなんとかなってるもんじゃないと思うんだけどえらく自信があるんだな。魔力がなくなったら長く生きてきたことそのものに意味がなくなるってこともわかんないってのはすごいよなー」
って言ってたらヴァルが白目剥いてた。
「そういうのやめなさいって」
と、ノアがため息をついた。
「こいつが学習しないから」
「だからってイジメていいわけじゃないでしょ?」
「イジメてるつもりはない。これが俺たちのコミュニケーションなんだ」
「そう思ってるのはイジメてる側だけなんだってば……」
ノアはボッ立ちで白目を剥いているヴァルを支えてベッドに座らせた。さすが俺が見込んだ女だ。それに比べて最強の魔女様は要介護者すぎてまったく頼りにならない。
「しかたねえなあ」
少しだけ優しくしてやるか。
「街も救ったしヴァルも動けるようになった。これからどうするんだ?」
ガーネットは優雅にコーヒーを飲みながら言った。
「んなもん王都を出るに決まってんだろ」
「でもヴァルはライブがどうとかって言ってたが?」
「言わせとけ。呪いを解いたあとにくればいつまでも楽しめるだろうよ。呪いを解くのが先だ」
「説得はノアにでも任せる、か」
「適任だ」
「で、本当にこのまま王都を離れるつもりか? ロウエンを連れていけば今後も楽になるとは思うんだけどな」
「んなこと言ってもな……」
そりゃ聖騎士団の団長がいれば相当楽になるだろう。だがケインと引き離すわけにもいかないし、ロウエンもそれを望まないだろう。
「弟の件もあるし聖騎士団団長っていう役職にもついてるんだ。それを捨ててついてくるとは到底思えん」
「でも本人に訊いたわけじゃないだろ?」
「そんなにロウエンを連れていきたいのか? お前もミーハーなところあるんだな、初めて知ったぞ」
いつもすました顔してる割にはイケメン好きか。
「今までの契約者は全員連れて歩いてるわけじゃないか。つまり契約者が離れた経験がないわけだ。じゃあエージとロウエンが離れた場合なにが起きるかわからないよな? もしも死んだりなんかしたら、ケインと離すことよりもずっと酷な現実が待ってるんじゃないかなと思うんだが」
「確かにどうなるかはわからん」
「だったら一度話してみたらどうだ? お互いにとっていい方法があるかもしれないだろ」
「ロウエンを連れてけばヴァルも喜ぶし、他の街でいい思いができそうではある」
「たぶん後者の方が意見としては強そうだな」
「当たり前だろ。なんでヴァルを喜ばせることメインで考えにゃいかんのだ」
他の男見て喜んでる姿みて俺がはしゃぐわけなかろう。
「ふーん、なるほどな」
ガーネットが鼻で笑いながら俺の顔をジロジロ見てくる。
「なんなんだよ気持ち悪い」
「いやなに、アンタも成長するんだと思ってな」
「意味がわからん」
「成長というか変化と言った方がいいのかな。人ってのは面白い生き物だよな、本当にさ」
この達観したような物言いがどこかムカつく。
「とりあえず荷物をまとめて宿を出るぞ」
「ちょ、待ちなさいよ。私は復活したばかりで体力も回復してないのよ! いたわれ!」
「めちゃくちゃ元気じゃん……」
まあ確かにあまり無理をさせるのもよくないか。
「老体だしなあ……」
「誰が老体じゃ!」
「魔法の方も役に立たんし」
「それは承服する」
「素直か」
とは言うが少しくらい優しくしておくのも悪くないか。
「んじゃ今日一日休むか」
「ひゅー! わかる男はやっぱり違うねー!」
「わかり易すぎて引くわ……」
なんて言いながら出口に向かう。
「どこ行くの?」
「ちょっと幼女カフェに」
「犯罪臭がすごい」
「実はちょっと気になってたんだ。行ってくる」
部屋の中が若干暗くなったが気の所為だろう。




