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かいぜん! ~異世界コンサル奮闘記~  作者: 秦本幸弥
第7章 王都魔道具店編
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幕間:避暑地が我が家にやって来た!

「おい、まだ届かないのか」

「もうあなた、ソワソワしすぎよ。夕方までには届くとお店の方は言ってらっしゃたじゃない」

「あれから三週間も待ってるんだぞ。待ち遠しいに決まってるじゃないか」


 ここは王都のとある家庭。

 一家の主である男は、ソワソワと落ち着かなさそうに自宅のリビングを行ったり来たりしている。

 もう夏真っ盛り。

 額にたまった汗が、つーっと滑り落ちる。


 人生四十余年。

 男は余程のことでは驚かない胆力は身についていたが、魔道冷却庫の体験は大いに驚いた。

 今までも冷やすことのできる魔道具があることくらいは聞いたことがある。

 だが、それも水をほんのりと冷やす程度だ。

 余程の物好きでなければ買えない代物と聞いていた。


 だから男は、新しい冷却庫の体験会が開催されると聞いた時、タダでお茶が飲めるなら行ってもいいかな。それくらいの感覚でいた。

 それがいざ店に行ってみると、驚きの連続であった。


 まずはドアをくぐった瞬間感じられた、ほんのりと涼しい店内に頬をなぜる風。

 話に聞けば、冷却庫で作った氷と研究中の風魔道具を使っているというではないか。


 次に席に通された直後に出された濡れタオル。

 手に取った瞬間、濡れているだけではなく、確実に冷たさを感じた。

 ついつい顔を拭いてしまったが、気持ちよかったのを男は記憶している。


 そして給仕から出された果実水。

 そこには小さく砕かれた氷が浮いていた。

 しかもガラスのグラスだ。

 見た目に何とも涼しげであった。


 その冷却庫で作られた氷が入った果実水を一気に飲み干した。

 爽やかで冷たいものが喉を流れ、胃へと落ちていくのを男は感じた。


 それから実際に冷却庫を見てみると、中は真冬の山のようだった。

 こぼれてくる白い空気が気持ちいい。


 全ての体験が男の欲求を強烈に刺激した。

 欲しい、欲しい、欲しい。

 絶対に欲しい。


 だが値段を聞いて諦めかけた。

 冷やすだけで金貨五枚は贅沢すぎる。

 だが魔道具店はちゃんとそのようなことは考え済みだった。


 金貨二枚という小型のものもあったのだ。

 冷やせる量は少ないが、家族で使う氷を作るくらいならこれでも十分だ。

 あとは妻をどうやって説得するか。

 そればかりが超高速で男の頭を駆け巡った。


 必死に説得した。

 何を言ったかは覚えていない。


 男の熱意が伝わったのか、妻はそれほど時経たずして購入を許してくれた。

 そして今日。

 待ちに待った魔道冷却庫の納品日だ。


 ガンガン。

 金属同士がぶつかる鈍い音が室内に響く。

 玄関ドアのノッカーが鳴らされた音だ。


「来たぞ!」


 バッと立ち上がると男は早足で玄関へ駆け寄り、勢いよくドアを開ける。

 しかしそこには、良く見知った顔の女性が立っていた。

 隣人のおばちゃんだ。


「こんにちは。お野菜沢山いただいたので、はいこれ。おすそ分け」

「ど……どうも」


 残念ながら冷却庫ではなく野菜だった。

 カゴたっぷりの野菜を受け取ると、男は肩を落としながら部屋へ戻る。


「あら、残念だったわね。それにしてもこんなにいっぱい。今度お返ししなくちゃね」

「ああ……」


 心ここにあらずな男は、うわごとのように相槌を打つ。




 それから更に待つこと三十分。

 家の前に馬車が停まる音がした。

 程なくして、ノッカーの音が響く。


 今度こそ冷却庫の配達に違いない。

 そう確信した男は、勢いよく玄関へ行くとドアを開ける。

 そこには待ちに待った魔道具店の制服に身を包む女性が立っていた。


「こんにちは。魔道具店のアリシアです」

「おぉ、ようやく来たか! 待ってたぞ!」


 今度は間違いなかった。

 玄関先に立っていたのはアリシアだ。


「俺の冷却庫はどこにあるんだ?」

「今からお持ちしますので、少々お待ちください」


 アリシアが後ろを振り向くと、別の男性が馬車から冷却庫を抱えて持って来るところであった。

 冷やせる量は少ないが、それでも筐体はそれなりの大きさ、重さがある。

 小柄なアリシア一人では運べないのであろう。


 男の指定する場所に冷却庫が設置されるのを確認すると、アリシアは説明を始める。


「まず魔石についてですが、ここに魔石は装着済みです」


 こちらは当店からのサービスとなります、とアリシアは続ける。

 側面には真っ赤な魔石が三つ嵌め込まれていた。


 その横には四つのスイッチがついている。

 コンロと同様のものだ。


「こちらのスイッチで出力を調整します。コンロをお持ちですので詳しい説明は不要ですよね」


 黙って男は頷く。

「待て」をされた犬のようにうずうずしているのだ。

 説明される時間など待ってられない。


「では、記念すべき初めてのスイッチをお入れください」


 アリシアに促され、男はスイッチを入れる。

 カチ、と音がする。

 もちろん出力は「強」だ。


 スイッチを入れても作動音などはしない。

 ドアを開けたまま、中を観察する男。

 手を入れてみると、早くもひんやりとした冷気を感じる。

 奥のパネルそのものが冷えているようだ。


「おぉ、冷えてるぞ!」


 興奮した様子で男は早速用意していた水を入れ、ドアを閉める。

 冷えるのも待ち遠しいがここからは再び我慢の時間だ。


「では、お手入れについてですが――」


 それから二人は霜がついた場合など、手入れの方法について説明を受ける。

 とはいえ、それほど複雑な魔道具ではない。

 説明は三分足らずで終了する。


「最後に、魔石についてですがこの通り新しい魔石となりました。使用済みとなった魔石が十個集まりましたら、次回魔石をお買い上げの際に魔道具店へお持ちください。新しい魔石一つと交換させて頂きます」

「そうか。ならば使った魔石はちゃんと取っておくようにする」

「何かご質問はありますか?」

「いや、大丈夫だ」

「それでは、私はこれで失礼いたします。お買い上げ、ありがとうございました」


 そう挨拶するとアリシアは家を後にする。

 その姿を見送ると、男は早速先ほど入れた水の様子を確認する。

 また凍るどころか完全に液体の状態だった。


「良かったわね、あなた」

「ああ。ようやくだよ」

「ほら、そんなに開けたり閉めたりしていると、冷えるのが遅くなるわよ」

「そ、そうだな」


 男はドアを閉めソファーに腰かけると、そこから見える場所に設置した冷却庫を嬉しそうに眺める。

 その後、その家ではあらゆるものがとっかえひっかえ冷やされたとか。



   ◇



「ふぅ、ようやく納品ができましたね」


 アリシアは魔道具店に戻ると店舗裏の倉庫で冷たいお茶を飲み一息つく。

 通常の配達であれば、専門の配達員だけで済ませるのだが、今日訪れた先は上得意客。

 アリシアも挨拶がてら同行したのだった。


「新しい魔石も無事に届きましたし、これでコンロの納品も再開できます」


 そう呟きながらアリシアはたくさん並べられた魔石を眺める。


 魔石にはうっすらとアヴィーラ家の紋章が認められる。

 術式の都合か、実際の紋章と比べるとややシンプルになっている。

 だが、誰が見てもアヴィーラ家のものと分かる。


 魔石は、術式をアヴィーラ家の紋章の形にするため、加工の手間が増えてしまった。

 それは即ち原価が上がってしまったということだ。

 だが、売価には転嫁することがないよう幸助から釘を刺されていた。

 だから価格は据え置きだ。


 ではなぜ原価が上がったのにも拘らず魔石をプレゼントするのか。

 それは、再生品のめどが立ったからだ。

 ニーナの話では、魔石の術式を加工するよりも、使用済みの魔石に魔力を充填する方が遥かに楽らしい。

 回収を促進して全体の原価を下げていこうという算段だ。


 魔道コンロを新魔石へ対応させるための部品交換もしなければならない。

 王都での代理店を募集する話も進行中だ。


「さて、やることはたくさん。頑張らなきゃ」


 両手を胸の前でぐっと握ると、アリシアは再び仕事に戻る。


★活動報告に「かいぜん!」書籍版のキャラクターデザインを掲載しています。

 ぜひご覧ください!



魔石回収は、感想欄でいただいたHALさんのアイディアを参考にさせて頂きました。

ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] お父さんの様子に昭和のテレビが来た日を思い出しますねwww
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