表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かいぜん! ~異世界コンサル奮闘記~  作者: 秦本幸弥
第5章 造船工房編
34/87

3.美味! 海の魔物

「あなたのお店、僕が流行らせてみせます!」


 幸助がそう宣言すると、ウィルゴは間髪入れずに反応する。


「コースケちゃん。そんなストレートに言われたら、あたし照れちゃう」


 ウィルゴは再びお祈りポーズでクネクネし始める。

 つい先ほどまでの憂いを含む眼はどこへいってしまったのか。


「え、ええっと……、ウィルゴさん?」

「何年ぶりかしら。そんなにズバッとストレートな言葉を刺されたのは。キュンとしちゃった」


 そう言うとウィルゴはウィンクをする。

 趣旨がちゃんと伝わってないかもしれない。そう思った幸助は言葉を続ける。


「ええっと……、先ほどのお話し通りデザイン性の優れた船っていうのは素晴らしいと思います。そんな船がたくさん水路を走っている姿を想像するとワクワクしますよね」

「いいねいいね、コースケちゃん。これだけあたしのアイディアを肯定してくれた人、初めてだから嬉しいな」


 今いるカフェはお洒落なのに、船のお洒落がダメなわけはない。

 幸助はそう考えている。


「もしこれが軌道に乗ったら息子さんもカッコいい仕事って思ってくれるかもしれませんし。僕と一緒にお店の改善をしてみませんか?」

「もちろん! 何だか楽しそうなことになりそうだからねっ」

「はい。楽しいことも待ってるかもしれませんね。これからもよろしくお願いします」


 座りながら頭を下げる幸助。

 こうして幸助は、初めて別の街で改善を請けることとなったのだ。


「いつの間にかだいぶ時間が経っちゃいましたね……」


 周りを見回しながらつぶやく幸助。

 時刻はすでに夕方。

 背の高い建物に囲まれた水路はすでに暗くなり始めている。

 あれほど賑わっていたカフェの客も、今はまばらにしかいない。


「まずはお店の様子を見たいんですが、続きはまた後日の方がいいですか?」

「その方がいいよ。日が沈むと流しの船はいなくなっちゃうからね」


 既に幸助は自分の居場所を見失っている。

 船がなければ宿まで帰る自信がない。

 従ってここで切り上げることにする。


「では次回はウィルゴさんのお店に行きますので、いろいろ教えてください」

「おっけー。『ウィルゴーゴー』ってのがあたしの店の名前ね。船頭さんに言えば連れてきてもらえるから」


 店名のセンスに幸助では理解しがたい芸術性を感じつつ、次回の約束をすると幸助とウィルゴは帰路に着く。

 幸助が宿に着いたのは、もう日が暮れそうな時刻であった。




 宿屋の入り口をくぐると、併設された酒場の喧騒と海鮮料理の香りが幸助を迎える。

 遅めの朝食を食べてから何も食べてない幸助。たまらず腹の虫がなる。


 ぐるっと店内を見渡すと見知った顔が豪快に大きなエビをつついている姿を見つける。

 ランディ達のパーティーだ。


「お疲れ様です、ランディさん」

「おう、コースケか! ここ空いてるから座れ」


 ランディに促され席へ座る幸助。

 テーブルにはエビ以外にも様々な海鮮料理が並んでいる。

 料理も気になるがまずは酒だ。

 近くにいた給仕を呼び、とりあえず注文をする。


「すいません、エールを一杯お願いします」

「俺ももう一杯!」


 しばらくお待ちくださいと言葉を残し、給仕は背を向ける。

 ほとんど待たずして、二杯のジョッキが運ばれる。


「かんぱーい!」


 幸助は喉を鳴らしながらエールを流し込む。

 昨夜は旅の疲れで、部屋についた途端寝てしまった。

 久しぶりのアルコールに目尻を下げる。


「ぷはぁ、久しぶりの酒は美味いですね」

「冬でもやっぱり酒はエールに限るよな」


 ランディはエール派のようだ。

 幸助はアルコールが入っていれば何でもいけるタイプだ。


「これ、食べてもいいですか?」

「おう、じゃんじゃん食べていいぞ。コースケのおかげでこいつらの討伐率も上がってるからな。今日は奢ってやる」


 その言葉を聞き、ではお言葉に甘えてと遠慮なしに端から料理をつつく幸助。

 まずは巨大なエビ。

 この世界に来てから初めて食べる。

 シンプルに塩味で焼かれているだけの身を口へ放り込む。


「甲殻類万歳!」


 ぷりぷりの身と海の香り。そしてそれらを引き立てる適度な塩。

 たまらず幸助はジョッキを傾ける。


「いい食いっぷりだな、コースケ」

「すごい久しぶりに食べるもんですから、つい」

「おう、まだほかにも注文してあるからどんどん食え」


 ちょうどそこへ給仕がジュウジュウと音を立てた魚の切り身であろうステーキを持ってくる。

 これもまた巨大だ。

 思わず生唾を飲み込む幸助。

 魚を切り分けると、すかさず口に放り込む。


「なんだこれっ!?」


 口の中でしっかりと脂が乗った身とソースの濃厚な味が、とろけ、混ざり合う。

 今までに経験したことの無い味わいである。


「これ、すごい美味しいですね」

「これはソードヘッドシャークっつって、海の魔物なんだがこの通り美味だ」

「魔物なんですか?」

「僕たち今日はこの魔物を狩ってたんですよ」


 ランディの代わりにパーティーメンバーの槍使いが答える。


 ソードヘッドシャークとは、この辺りの近海一帯に生息するサメの魔物だ。

 一匹当たりの脅威度はそれほど高くないが、群れると危険な魔物である。

 故に冒険者や騎士団が日常的に狩りをしている。

 その肉はこうして市民の胃に収まり、鋭い頭の骨は武器の素材となる。


 脂が乗っているが故、足が速い。鮮度が命である。

 だから領外へ出荷されることはない。


「へぇ、陸のレッドボア。海のソードヘッドシャークってとこですね」

「お前の食べ物基準だとな」

「あはは……」


 空腹も落ち着きほどよくアルコールも回った頃、幸助はランディへ別の話題を振る。


「ランディさんは明日からはどんな予定ですか?」

「俺らはしばらくこの街の依頼をこなしてみる。コイツらにも海の魔物相手に経験を積ませたいからな」


 そう言いながらパーティーメンバーを見るランディ。

 やはり面倒見のいい男だなと幸助は感じる。


「すばしっこいからなかなか銛が当たらないんですよ」

「そっか、海だから違う武器を使わないといけないんですね」

「おう、残念ながら例の槍はこの街ではあまり使えないんだ」


 塩水で劣化が早くなるからなとランディは続ける。

 場所が変われば武器も変わる。

 隣町でもこれだけの違いである。

 他にはどんな街が広がっているのか想いを馳せる幸助。


「で、コースケはどんな予定だ?」

「とりあえず本来の目的はほぼ終了しました。あとはコンロ販売中の様子を見るだけです」

「なら帰るのはもうすぐだな」


 当初の予定は一週間ほどの滞在であった。

 観光が済んだら、両街間を定期的に往復する荷馬車に便乗して帰るつもりであったのだ。


 しかし、思いがけず造船工房の店主と出会った幸助。

 キャラは強烈であったが、商売に困っている人を知ったからには黙っていられない。

 従って今のところアヴィーラ伯爵領へ帰る目途は立っていない。


「本当はあと少しだけ観光して帰る予定だったんですが、こっちの街でも店舗改善の仕事を請けまして」

「ったく忙しい奴だな。どこでそんな仕事を仕入れてくるんだ」

「たまたま魔道具の納品先で出会ったんです」


 今回の出会いも本当に偶然である。

 もともと幸助は小さな出会いを大切にするタイプであるがそれにしても、である。


「で、武器屋と魔道具屋の次は何屋だ?」

「造船工房です」

「生活基盤にもなってる船か。また大変なとこの仕事を請けたな」


 幸助は頷くとジョッキを傾ける。

 残り僅かな胃の隙間にエールが染みこんでいく。


「役に立つかは分からんが、この街の冒険者ギルドとか他の冒険者の知り合いもけっこういる。困ったら言ってくれよな」

「はい。頼りにしてます! ランディ兄さん」

「兄さんってなんだよ……」


 そう言いながらスキンヘッドの後頭部をポリポリ掻くランディ。

 相変わらず褒められるのは苦手なようだ。


「よし、明日も朝が早い。今日はこの辺でお開きにしよう」


 こうして海辺の街ならではの宴会は終わる。

 しっかり大量に食べた幸助。自分の分は払うと言ったが相当儲かっているようで、最初の約束通り奢ってもらえることとなった。




 翌日の朝。

 幸助はベッドから起き上がると部屋の窓を開ける。


「うわぁ、相変わらず寒いなぁ」


 窓から吹き込むキリっと冷えた風に一瞬身震いする。

 宿屋は周辺の建物よりも頭一つ高い。

 幸助はその宿屋の最上階に部屋を取っている。

 昇り降りは大変だが、眺めはかなりいい。


 窓の外をぼうっと眺める幸助。

 密集した市民街の向こうには大きめの建物が並ぶ貴族街が見える。

 ひときわ大きい建物が領主の館であろう。

 さらに奥。島の端には白い監視塔が朝日をたっぷりと浴び、オレンジ色に染まっている。


 沖に目を移すと一隻の帆船がゆっくりと動いているのが見える。

 ランディの話によると、この船も魔物の監視船とのことだ。


「さて、さっさとご飯を食べてウィルゴさんの店に行くとするか」


 身支度を済ませると昨日同様の朝食をとり幸助は外へ出る。


「せめてスープはエビの頭でダシを取ればいいのに」


 そうぼやきながら水路へ向かう幸助。

 宿の前にはたくさんの船が待機していた。

 ホテルの前にいるタクシーのようだ。


「お兄さん、どちらまで?」

「えっと、造船工房のウィル……『ウィルゴーゴー』までお願いします」


 幸助は一艘の船へ乗るとウィルゴに聞いた店名を告げる。

 それを聞いた船頭は怪訝そうな顔をして答える。


「お兄さん、船を買いに行くのかい? だったら他の店を勧めるよ」


 思ってもない返事に戸惑う幸助。

 悪評でも蔓延ってるのかと邪推する。


「どうしてですか? まさか沈みやすいとか……?」

「いやいや、そうじゃないよ。あそこって確か組合に加盟してないでしょ? だから便利な組合の補助が受けられないんだ」


 ウィルゴとの会話で、造船組合を脱退したところまでは聞いていた幸助。

 しかし、組合を脱退することによるデメリットまでは聞いていなかった。


「補助っていうのは何ですか?」

「あれ、それも知らなかった? あ、そうかごめんごめん。宿屋からの乗船だもんね。この街の人じゃなかったんだね」


 そう言うと、船頭は棹を操り船を進める。


「はい。そうです。観光がてらいろいろ見て回ろうと思ってまして」

「そうなんだ。組合に入ってる店から船を買うとね、無利息で購入費用を分割払いにしてもらえるんだよ」

「なるほど……」


 分割払いと聞き、冒険者ギルドの認定武器制度を思い出す幸助。

 ホルガーの武器を売るために冒険者ギルドに取り入れてもらった制度である。

 ただし、冒険者ギルドの場合は利息が伴っていたが。


「あとは組合の保証がつくことかな。確か買って一年は無料修理が受けられたと思うよ」

「へぇ、それは確かに便利ですね」

「でしょ。その補助が受けられないし店も個性的だからね。最近は大変そうって専らの噂だよ」

「そうなんですか」


 船頭の話では、街で噂になるほど流行ってない店のようだ。

 思いがけず船のユーザーから情報を仕入れられた幸助。

 これは大変な仕事になるかもしれないと幸助は気を引き締める。


「はい、お兄さんお待たせ。ここが『ウィルゴーゴー』だよ」

「ありがとうございます」


 幸助は船を降りると店の前に立つ。

 建物は三階建てだ。

 この界隈では標準的である。

 ただし工房なので間口は広い。


 何より目を引くのは外壁の塗装である。

 この街の建物はほとんどが石の素材そのままの外壁である。

 しかしウィルゴの店は、一階部分が少しだけ黒みを帯びた赤で塗られている。

 そこに黄色の文字で店名が書かれている。「ゴーゴー」の文字が躍っているようだ。

 単体で見ると確かにお洒落ではあるが、浮いている感は否めない。


「人が個性的ならば店も個性的だなぁ」


 そうつぶやきながら幸助は足を進めると、店内へ入る。



   ◇



 その頃『アロルドのパスタ亭』にて。


「あら、サラちゃんどうしたの? 元気ないね」


 店にはルティアがオリーブオイルの納品に来ていた。

 当初は幸助の思い付きで使用量に大きなばらつきがあったが、現在は安定している。

 従って今では月に一度の配達が定例となっている。


「うん。コースケさんがね、隣町に行ってて……」

「そういえばそうだったね。コンロの納品に行くって聞いたよ」


 そう言うとルティアはニヤッと笑いながら続ける。


「ははーん。もしかしてコースケがいなくて寂しいんだ」

「ちっ……、違います!」


 手をぶんぶん振りながら慌てて否定するサラ。

 頬が朱に染まっている。否定になっていない。


「コースケはすぐに帰ってくるって言ってたよ」

「そうなんだけど何だかイヤな予感がずっと続いてて……」

「なぁに心配することがあるの? 隣街も安全な街だから、事故とか事件に巻き込まれる心配なんてほとんどないよ。ほら、元気出して」


 そう言うとルティアはサラの頬を両手で挟む。


「わひゃりまひた! ルティアさん!」


 ルティアから解放されると、ようやく表情が明るくなるサラ。


「うん。それでいい。サラは元気でなくっちゃ。じゃ、また来月来るから」

「はい! ありがとうございます」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ