月
目の前に稲穂の草原が広かった。
淡く発光している、半透明な稲穂だ。
私はなぜか、田んぼの中に立って(?)いた。
周りを見ると、高位の月精霊がふわふわ存在している。
足元は田んぼだからか水がはられていて、私の下半身が魚になって浮いていた。
?
私、望遠鏡のスキル? を、使ったはず?
「ここ、どこ?」と、呟いたが、『この私』は口を開かなかった。
いや? 確かに呟いた感覚はあるのだが、どこか感覚が遠い。
そして、見下ろした魚の下半身、身にまとったワンピースに、見覚えがある。
私を守護してくれている月水精霊だ。
大きさは高位だけど!
「ちゃんと、顔、確認したい」どこか遠くで『私』が呟いた。
なんとなく上を見上げると、青い大きな星があった。
ゲートで見た地球儀っぽい物と、良く似た大陸の形が分かった。
あ、『ここ』月だ。
私、『見る』ためにこの精霊の、目を借りている?
精霊の体は、私の意思でなく足元の水を指さしてそれを持ち上げた。
薄い水のスクリーンが、目の前に出来て、それが鏡のように精霊を写した。
ほんのりいたずらっ子のように微笑み、精霊は『私』を見た。
大きさは高位精霊、大人の女性サイズだが、なぜか分かった。
彼女は本体だ。
月精霊は、低位の精霊だから小さいのではなくて、たぶん全部、分身なのだ。
数が少ないのも当然。アージット様も相性良いはずだけど、月の守護精霊だけはいなかった。
あれ?
ふと私は精霊王を思い出す。
闇の精霊王、紫王子
風の精霊王
海の精霊王、カイリ
紫王子、なんで小さいのかな?
ヌィール家で傷ついて、それで低位になったとは思えない。
もしかして、彼も分身?
意識が水鏡を見ることからそれたからか、彼女は水鏡を消すと、すいっと空中を泳ぎだす。
目の前に広がる稲穂が、自ら発光する月の原因だろう。
これ、半分精霊に似た半実体化した植物?
形は米。
もしかして
私は杵を担いだ、なぜか白いバニースーツの月精霊を多数見かけて気付いた。
もち米?
ユイ? どうした、だいじょうぶか
たぶん、さわらないほうがいいぞ
遠くで私を呼ぶ声がしたけど、夢の中のような感じで、内容は頭に残らなかった。
ユイさま
ミマチ、ユイさまのたましいはぶじ?
たましいは、ちゃんと、でもどうして? とおみのスキルなのに、じょういスキルでもみるだけのスキルのはずなのにっ!
みずのまじったせいれいが、てのなかにはいりましたよね?
ああ、つきとみずのせいれいだ
つき
つきか
つき、これ
あの、つきをみてる?
一面の水田がふいに途切れた。
「あ、」円柱の台座がある。
ゲート?
いや、似ているけど、へこんでいる?
「臼?」
そしてその大きな臼の前にいた精霊が、振り返った。
「月の精霊王?」




