技術レベルとスキル
「スキルって」
「そうですね、まれに人が持つ特別な能力ですね。産まれつきのと、後天的に熟練者の戦士や職人が得られることがあります。」
エンデリアさんが、お茶をいれながら教えてくれた。
「ユイ様の体型を目視で図れたり、ストールちゃんの鎧の正しい着方を見抜いたりしたのも、裁縫職人系の亜種鑑定スキルっぽいですよねぇ」
ミマチさんは言いながら、机の上を片付けランチマットを敷いた。
思わず中断していた裁縫道具を、追いかけるように手が伸びるが、ミマチさんにその手を握られてニコッと笑われた。
「ユイ様も休憩ですよお?」
「? いつもより、早くな」
「早くないですよ~、ユイ様簡単そうに手袋作っていたので、迂闊でした! その紋章、すごく疲れるモノでしょう!」
ミマチさんに初めて怒られて、体がピャッと跳ねた。
「レベル酔いをおこす技術、紋章、完全に体力と魔力消費必須技術でしょう!」
はわわ、ミマチさんが真顔、怖い。
紋章っていうよりも魔法陣なんだけど、なんかそれを言ったらもっと怒られそう。
「ユイ様、とりあえずお茶をどうぞ」
エンデリアさんも、ニコッてすすめてくれるけど、ミマチさんと一緒だ。怒ってる気配。
「あの、私、平気」
「休憩いたしましょうね? ね?」
待って、本当に怒られるほどの、むちゃなんてしてないと言いたかったけど、「ね?」の圧力が私に「はい」としか言わせなかった。
そこにシュネルさんに水を飲ましたルゥルゥーゥさんが、声を挟んだ。
「お二人とも、落ち着いてくださいねぇ、ユイ様は大丈夫ですから」
「だって、レベル変動をおこすほどの技術! 私が一番詳しい自信あるから! 陸人族なる職人たまにいるし!」
「ユイ様が夜会からもどられてから、ロダン様に『診察』頼まれて『視て』います。ユイ様はものすごく回復していますからね~? それはお二人にも教えましたよ~。ユイ様にとって、技術レベル的に余裕なんでしょう。」
ルゥルゥーゥさんに言われて、二人のまとった空気が緩む。
「でも、それ以前が悪過ぎているので、こまめな休憩は大切ですからねぇ」
「そ、そうでした。ごめんなさい、ユイ様。故郷でたまにいるんです、陸人族って、ロマンに命賭けちゃう人が多くて·······レベルアップ酔い、昏倒、そのまま永久の眠りコース」
「そうですね、ユイ様は手袋を作られても、昏倒してませんし、慌て過ぎました。ごめんなさいユイ様」
私は二人に「大丈夫」と微笑んでお茶を飲みながら、ぐったりしているシュネルさんを眺める。
うん。私にとって浄化の魔法陣は刺繍も編み込みも、問題ない。
········問題だったのは、アリアドネさんの糸の方だった。
彼女に許可を得られて、彼女の服を作った段階ではかなり大変だった。手袋を作っている今は、大丈夫だ。
でもこれ、アリアドネさんが許可して望んだ、国布守様のための手袋だから、問題なく扱えているんだきっと。
シュネルさんが、あのハリセンをまだ改造できないと分かったように、私も分かる。
素材のレベルが高過ぎる! アリアドネさんの蜘蛛の糸で、皆の装備を縫えば、あの前王妃の呪いから造られたボスの数十倍、数百倍強いモノが出てきても楽勝できるような服ができるだろう。
でも無理!
アリアドネさんが許してくれないと、一針刺しただけで昏倒する。
昏倒、永眠コース待ったなし。
「········」
うん。黙っておこう。そんな無謀なこと、しないし。
問題ない、問題ない。




