環境の崩壊
「大変じゃ、すまなかったな。あいつは僕が嫌だって言っても聞かないし、元々末の王子だからと、ちょっと甘やかして育てられていた所もあって・・・・・・・・僕の寿命が短かった時から、死ぬまでの間でいいから婚約してくれないか? とか、言い出す輩もいたくらいだ」
針子修行の邪魔だったから、容赦なく断ったがな!
そうシュネルさんは叫んで、差し出されたお茶で喉を潤した。
「もしかして、命を狙われました?」
エンデリアさんがお茶のお代わりを注ぎながら、聞く。アージット様も、菓子を摘まみながらうんざりした様子で口を開いた。
「王位継承者が執着している、後継ぎの望めない人間だものな」
王族だからこそ、心当たりがあるようだ。
そっか、この国だと、王様は魔眼の持ち主としか、婚姻できないのだものね。色々ドロドロな話とかあるのかも。
だからこそ、二番目の妃も、嫉妬でおかしくなってしまったのかも。
「それだけだったら、僕も国を出ないで針子をしてた」
「それだけ、って・・・・・・・・」
私は風の精霊王を見上げた。
シュネルさんは、魔力過蔵症だった・・・・・・・・精霊に捧げる魔力はたっぷりということだ。
シュネルさんを暗殺出来るような存在は、同じく精霊王の加護を受けた人間で、魔力もたっぷりなければ無理。
更に精霊の属性相性もあるだろう。
「確かに、それだけですねぇ」
私の連想を、皆もしたようだった。ミマチさんがしみじみと頷いた。
「つまり、側室を受け入れてくれるなら、僕を王妃にしてもいいとか、言い出す派閥が出来たんだ!」
「は?」
アージット様が、目を丸くして、「は?」のまま表情を止めた。
シュネルさん以外、皆同じような表情で固まってしまった。
私も口がぽかんと開いていた。
それからゆっくり、アージット様の表情が怒りに染まる。
「シュネルの意思を無視して、か」
「それって、その王子に追従しているように見せて、シュネル様を殺そうとしていますよね?」
本人の意思を無視して、抑圧した環境に置いて、風属性の精霊の守護を外して殺そうとしているとしか思えない。
ゾワっと、怒りが皆から吹き出したようだった。
それを慌てて止めたのは、シュネルさんだった。
「困ったことに、それを意図していた人間はその派閥の数人だったんだ! あのな、精霊の特性とか常識的な知識で知られているの、この国の人間くらいだから。ほとんどが、僕は精霊の守護を得て、病が完治したって認識だったよ。この国出身だった針子の師匠が教えてくれなかったら、僕自身ですら」
「あー、そうですね。私達魔族の国や精霊に関係深い種族の国ならばともかく、人主体の小さな国ならば・・・・・・・・治ったと、勘違いしますね」
最初にエンデリアさんが、怒りをおさめて言う。
「うん。そーですねぇ、陸人族だと、土属性の精霊の特性しか・・・・・・・・って、偏りありましたねぇ。物作りに特化するタイプの陸人族は、全属性勉強するようですが」
ミマチさんも、何か思い出すように補足した。
えっと? 魔力過蔵症って、魔力を溜め込んで体が耐えられなくなって死ぬ・・・・・・・・遺伝子病なんだろう。
守護精霊は、その溜め込んだ魔力を、溜め込んで使えない本人に代わって外へ出してくれたり使ったりして、調整してくれているから、シュネルさんは生きている。
ん? ? ?
「勘違い?」
え? 勘違いする所ある? 精霊が守護して魔力調整してくれているから、病が脅威じゃなくなったんだよね?
この場で何だかよく分からない状態になっているのは、私とアージット様と料理人のミジットさんだけだった。
生まれた時から、この国にいて、この国の常識しか知らないメンバーだった。前世は精霊なんて、物語の中の存在だったし。
「ユイ様、つまりですねぇ、精霊のことをよく知らない人達は、精霊の守護を得た! 凄い! よく分からないけど、精霊パワーで治らない病が治った! 凄い! ・・・・・・・・くらいの認識だったんですよ」
私とアージット様と、ミジットさんは空いた口が塞がらなかった。




