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針子の乙女  作者: ゼロキ
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シュネルの夢

 針子職人になりたいと言う夢を叶えるのは、それほど難しくない。

 資格などないし、売れる服を作れるならば、針子と名乗ってもいいはずなのだ。

 「でも、僕が作りたいのは、ドレスなんだよね」

 「ドレス」

 「それは、男性には難しいですね」

 皆が納得したのに、私は首を傾げた。

 「ドレスを必要とするのは、貴族階級ですし、女性が男性に体のサイズを知られるのは、抵抗がありますよ」

 首を傾げた私に、ミマチさんが言う。

 「ああ」

 と言うことは、やっぱり?

 「シュネルさん、元貴族階級?」

 そうでなければ、平民がドレス制作に関わりたいなんて、発想もしないだろう。

 私の問いかけに、シュネルさんは力なくため息をつく。

 「うん。まぁ、この国のじゃないけどね」

 ここよりずっと北東、小国カランコヤ出身と言ったシュネルさんに、皆さん目を丸くした。私が習った地理関係でも、聞いたことがない。

 「ずいぶん遠い所出身だったんだな」

 「あの国と、まったく交友関係のない所じゃないと、ある意味僕、お尋ね者だから」

 「えぇ? この国、犯罪歴のある他国者は入れないでしょう?」

 シュネルさんはドンッと、テーブルに手を打ち付けた。

 脱力していた表情が、怒りに染まる。

 「それが、僕の夢が断たれた元!」

 「無実の罪でも着せられたのか?」

 「まだそんなシリアスそうな理由なら、良かった・・・・・・・・」

 怒りからまた脱力して、虚ろな眼差しを漂わせ、シュネルさんは話を始めた。



 小国カランコヤで、シュネルさんは高位の貴族の長男として産まれたが、後継ぎにはなれないことが産まれた瞬間から決まった。

 魔力過蔵症という体質のせいだった。

 魔力を自身の器以上に溜め込んで、それを欠片も消費出来ないという生まれつき長生き出来ない赤ちゃんだったのだ。

 大抵の人間は、作り出し溜め込む魔力と、消費する魔力を無意識に調整する。しかし、ごくたまにそれが出来ない子供が産まれる。

 魔力過蔵症と魔力放壊症

 魔力を溜め込み自己中毒をおこして死んでしまう魔力過蔵症と、魔力を作っても留められず必要以上に垂れ流して死んでしまう魔力放壊症。

 十歳になれる可能性も低く、二十歳になれる者などいない。

 昔の王侯貴族に流行った生まれつきの病である。


 近親婚のせいで現れた遺伝子障害かな? と、私は思った。

 「今、生きて、られるの、精霊のおかげ?」

 「うん。感謝してるよ」

 シュネルさんは風の精霊王に、優しく微笑んで・・・・・・・・うなだれた。

 「僕にとっては救いの女神だよ。男性体だけどね」

 落ち込みつつも、過去形にしない所に好感がもてる。

 身の上話は続いた。


 生まれつき長生き出来ないと分かった赤ちゃんだったが、両親や祖父母はシュネルさんの誕生を喜び祝福して、ありとあらゆる手を尽くして一日でも長く生きられるようにと頑張った。

 迷信的なことも試した。

 その一つが、性別を偽ることである。


 「僕は後継ぎにはなれないし、王家公認で、女の子として育てられることになった」

 「あ、だからか! いや、シュネルは元貴族っぽいとは思っていたが、時々出る動きの癖が貴族っぽいのに、貴族っぽくないと思っていた。男性貴族っぽくなかったのだな」

 アージット様の指摘に、シュネルさんは吐き捨てるように舌打ちした。

 「とにかく、僕自身にも知らせることなく、そう育てた」


 どうせ男らしくなれないだろう体だし、下手に性別を偽っていることを自覚させる方がつらいだろうと、シュネルさんは精霊付きになるまで、自分が男であることも知らされないまま・・・・・・・・・・・・・・・・教養の一つである、手芸、針仕事に魅了されたのである。



 

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