祝福と呪いの服
「男性体? 精霊王?」
「んー?」
首を傾げて、私は呆然としているシュネルさんを見た。
なんとなく、彼なら分かるはずなのになぁ? と、不思議に思う。
「あ、女性体しかいない、って、思い込み? してる?」
私は手を差し出した。
そこへ、影からふわりと飛んで来た紫王子が、足を組んで腰掛けた。
シュネルさんは目を細めて、紫王子を凝視し、自分の横に立つ風の精霊王を凝視した。
「・・・・・・・・男」
「かなり強い精霊だと思ったら、なるほど精霊王か」
テーブルを囲んで、私の隣でアージット様がお茶を一口飲み込んでから言った。
「ユイ様、よく分かりましたね?」
「針子、腕良いと、なんとなく分かる」
「ああ、ですねぇ~、ユイ様測らなくても、寸法ぴったり当てますもんねぇ。 男女差なんて簡単かぁ」
針子という職人にゲームのようなスキルがあるなら、これらが当てはまるのだろう。まあ、男女差の見分けは、前世から出来ていたが。
先輩や友人達の知り合いや、伝手で、私に衣装を作ってほしいと依頼してきた人の中には、その辺の女性よりも美しい男性とか、その辺の男性よりも凛々しい美形の女性とか、色々な人がいたからなぁ。
シュネルさんは向かい側で、テーブルに伏せている。
「七年・・・・・・・・、気付かなかった、僕って・・・・・・・・」
職人として、ショックで打ちひしがれている気持ちは、分かる。が、私はそわそわと体を揺らした。
シュネルさんの持つ、鞄と腰の武器が、凄く凄く気になるのだ。
「しかし、生まれたばかりの海の精霊王や風の精霊王は、あの大きさなのに・・・・・・・・闇の精霊王だけ、このサイズなのだろうか?」
アージット様の呟きを聞き流してしまうくらい。
「ユイ?」
どうした? と、頬を撫でられ、私はアージット様を見上げた。
「・・・・・・・・あの、シュネルさん、の、持ち物、武器、と、鞄の中の何か? が、気になって」
「ああ、鞄の中・・・・・・・・もしかしてあの服か」
「ん? 鞄の中の服って、これ?」
目にした瞬間、鳥肌が立った。
「ヒッ」
赤黒く、腐った糸が縫い込まれた、呪いの服だと分かってしまった。
呪いの縫い手があまりに下手なのと、そのおかげで着れない物となっているので、今現在は効果が打ち消されているのが、不幸中の幸いである。
紫王子はレイピアを抜いて、それを突き刺した。
「あ」
「え?」
服はかつてのアージット様の服よりも、バラバラになった。むしろ繊維の形も残らなかった。
キラキラと『祝福』の粒子が立ち登り、世界に溶け返った。
「・・・・・・・・あ、あぶな、かった!」
リボンを見せてもらっていたから分かった。
「祝福物、なりかけ、呪われ、反転してた!」
もし制作者が、完成と、認識していたら、あの服は祝福物になった物だった。呪いなんて、受け付けなかった物だった。
「え? しゅくふくぶつ?」
私は思わず、テーブルを両手のひらでバシンッと叩いた。
「シュネルさん! 自分の作品! 大切にする!」
「は、はいっ!」
「自信も、持つ! そうしたら、気付いた!」
風の精霊王も、横でコクコク頷いていた。
「僕の、あの服が・・・・・・・・祝福物に、なりかけていた?」
シュネルさんはかろうじて残っていた糸の欠片にそっと触れて、ぼろぼろと涙を零した。




